愛と野心と復讐と
戦士系の者同士の戦いは長引く・・・・勝負は致命傷を先に与える一瞬で決まるとはいえ、それまでは気力と体力の削り合いだ
それが達人同士の戦いとなれば尚更である。
バレンタイン「ぐはっ！！！」鬼山の鉄球がバレンタインの脇に命中した。
鬼山（やった・・・・！！！）確かな手応え。あばらの数本はいかれただろう。
青息吐息になりつつもバレンタインは鬼山に向き直った。
バレンタイン「その鉄鎖術・・・確か奴隷が横暴な主人から身を守るために発達した武術だな・・・・・お前・・・生まれは奴隷か・・・・・」
鬼山「ケッ・・それがどうした・・・盗賊の社会に生まれは関係ねえ、力が全てだ！！！」
ノーボディ「成る程・・道理で貴族階級が嫌いなわけだ・・・」ノーボディは静かに傍観していた。
鬼山「俺はこの力でまだまだなり上がってやるんだよぉ・・・こんなところで死んでたまるかってんだ！！！」
奴隷の生まれだった彼がどういった経緯で盗賊の頭になったのか詳しいことは割愛する。しかし、その人生には並々ならぬ苦難の連続だったということだけ付け加えておこう。
親の愛情すらもまともに受けず育った彼を今まで支えてきたものは、コンプレックスをバネにした異常なまでの上昇志向だった。
バレンタイン「・・・・・フッ」バレンタインは不敵に笑った。
バレンタイン「死ねない理由があるのは・・俺も同じだ・・・・」あばらを押さえながら彼は立ち上がった。
バレンタイン「どうしても殺さなきゃならない男がいる・・・そいつを殺すまで・・・俺は・・・死ねない・・・・・！」
構わず鬼山は止めの鉄球を見舞った。刹那。
バレンタインは上着を脱ぎ捨てると鬼山に投げつけた。瞬間視界をふさがれ、それを振り払ったときにはバレンタインは消えていた。
否、彼は一瞬の隙をついて跳び、鬼山の頭上、死角へと回り込んだのだ。
勿論そんな芸当が重傷の彼に出来るわけがない。そう、本当に重傷だったらの話だが・・・・・バレンタインは上空から数本のナイフを投げつけた。白刃は寸分違わず鬼山の急所をとらえ
彼は岩山が崩れるようにその場に倒れ込んだ。
鬼山「ば・・ばかな・・・・！？」
上着を脱いだバレンタイン。そのブラウスの上から身体を覆っていた物、それは何十本もの
ナイフで出来た鎖帷子だった。
バレンタイン「悪いな・・お前さんが砕いたのは数本のナイフだけだ」
砕けた破片がパラパラと床に落ちた。
ダメージを受けたふりをして、彼は死期回生のチャンスを待っていたのだ。
頸骨から数本のナイフを生やし、鬼山が息を引き取っても外界の死者の群が引く気配は見受
けられなかった・・・。
バレンタインは銃に再び弾を込めると残った２人にそれを構えて言った。
バレンタイン「これで残ったのはアンタ達２人の誰かだ・・・」
ナイチンゲールは恐怖で戦慄し、ノーボディは相変わらず死んだ魚のような目を投げかけていた。
ナイチンゲール「どうして・・・何故アナタ達はそんなに簡単に殺し合えるの・・・？」
バレンタインは少し目配せをしながら、それでも油断無く銃を構えながら言った。
バレンタイン「・・・・俺は・・割と普通に生きてきた人間だったんだよ、普通の家に生まれ
普通の仕事を持ち、普通の家庭を持っていた・・・でも、あるとき全てを失った
それ以来俺は復讐の為だけに生きてきた・・・」
ノーボディ「その復讐とやらの為に・・私たちを犠牲にするの・・・？」
バレンタイン「ああ・・悪いとは思うがな。アンタ等に分かるかい？全てを失った男の生き様が
どんなものか・・・汚いことも山ほどやった・・人も殺してきた・・・。
それでも俺にとっては、復讐だけがこの世に生きるたった一つの意味なんだよ」
憎悪。シニカルな仮面の下に隠されていたものは、紛れもない憎しみそのものだった。
ナイチンゲール「違う・・・わたし・・・私じゃない・・！私じゃない・・！」
彼女は念仏のように唱えると、傍に刺さっていたナイフ（バレンタインと鬼山との戦闘中に刺さ
った）を抜くと、ノーボディの喉元にあてがった。
ナイチンゲール「この子よ・・・この子がネクロマンサーなのよ！！」
バレンタイン「・・・・・？」ノーボディ「・・・・・？」
ナイチンゲール「誰がネクロマンサーなのかは分からないけど私は自分がそうでないことを知っ
ている・・・だとしたら、あとはアナタしか考えられない・・・・・！」
ノーボディ「ヲイヲイ・・ああいっているアイツ（バレンタイン）がネクロマンサーでないとい
う保証は何処にもないよ・・・・・」
ノーボディはちょっと呆れてぼやいた。
ナイチンゲール「ええそうよ・・・でも、どのみち私じゃ彼を倒せないわ。でも魔法使いの貴方
なら呪文の詠唱さえさせなければ確実に殺れる・・・」
ノーボディ「“殺れる・・・”って確か僧侶は刃物持っちゃいけないんじゃなかったけ・・・？」
ナイチンゲール「確かに・・今まで私は神に仕えるものとして、全ての人を平等に愛してきた・・
善人も・・悪人も・・でも私はある一人の男に恋をしてしまった・・・・・・・
私はその瞬間から僧侶ではなくなった・・誰か一人のために特別な感情を寄せ
てしまった以上、もう神の使徒たる資格はない・・・・」
ノーボディ「・・・・・・・・・・」バレンタイン「・・・・・・・・・・」
ナイチンゲール「しかし彼は重い病を患っていた・・それを治すためには莫大なお金が必要だった
わたしはどうしても生きて還って報奨金をもらわなくてはいけない・・・・
彼に生きてもらう為にね その為になら何でもやるわ・・例え貴方を手にかけ
神様に背くことになっても！！」
ノーボディ「それは愛じゃない、エゴだ・・それはエゴだよ・・・・」
ナイチンゲールは次の瞬間ノーボディの喉を引き裂いた。
ナイチンゲール「ごめんなさい！！！」
頸動脈から噴水のように血を流し、ノーボディはその場に倒れた・・・・・・・・・・・が、
異変は即座に起きた。
ノーボディの死亡と同時にその魔力は尽き、出入り口や窓の封印が解けてしまったのだ。
バレンタイン「しまった・・・・・っ！」
障害を失った死者の群は怒濤の如く礼拝堂になだれ込み、まだ生きている２人はその中に飲み込ま
れた。
バレンタイン「うあぁぁ・・・・」ナイチンゲール「きゃあぁぁぁ・・・・」
こうして僅かに生き残った者達もその全員が死に絶えた・・・・・・・
