裏切り者の忠誠心
漆黒の通路をヒロユキは走っていた。手には事前に用意していたカンテラが握られている。
ヒロユキ「・・ん?」彼は自分の裾を引く何者かの存在を感じた。
ゾンビ「にぃるるるるるるる・・・・・・」
ヒロユキ「!!?」
気づけばそこは死者の群・・人海だった。
鬼山とバレンタインの2人がヒロユキの消えた石壁に向かって必死に体当たりをくらわせていた。
しかし一枚岩で出来た石壁は思いのほか頑丈で、人間の力で打ち破ることは出来そうにない・・・その時であった!!
数条の光明が入ったかと思うと石壁が外側から裁断された。驚愕する一同の前に名刀村正をかまえたヒロユキが壁の外から現れた・・・
ヒロユキ「ガ・ガ・ガ・ガ・ガ・・・」
レオナルド「・・ゾンビ化してる・・・」
ノーボディ「どうやら見透かされていたみたいね・・隠し通路にもゾンビを配置していたのよ」
その言葉を裏付けるかのように彼の脇から数匹のゾンビが歩み出てきた。
バレンタイン「気をつけろ・・だてに討伐隊長を引き受けているわけじゃない。ヤツの実力自体はおそらく俺達の中では一番上だ!」
その時信じられないことが起こった。村正が一閃し彼の傍らにいた数匹のゾンビをなぎ倒したのだ。
一同「・・・?」
ゾンビ同士の仲間割れなどあり得ない。いや、ゾンビにもともと仲間意識などという概念はない。
生きる屍である彼等はただ生者を機械的に襲いむさぶり喰うだけなのだ。しかし彼は現に今、他のゾンビ達と戦っている・・・
ヒロユキ「・・・シャンパーニ・・我が祖国・・シャンパーニの為に・・・・・・・・・・・」
彼はとぎれとぎれの言葉でブツブツと呟くと、いきなり脇差しを抜いて自分の腹に突き立てた。
腹切りの儀式だ。
ノーボディ「ほぅ・・ゾンビ化しつつも精神までは乗っ取られまいということか・・・・見上げた忠誠心だ」
言うとノーボディは前に出た。
ノーボディ「ならば、介錯は私がやってやろう」
レオナルド「危ない!!魔法使いが前線に出るのはセオリー違反だって・・・」
ノーボディ「いいから見てな、魔法の世界にはまだまだお前の知らないことが山ほどあるって事だ」
ゾンビ化ヒロユキは上段の構えをとった。すかさずノーボディは呪文を詠唱する。
ノーボディ「大気の牙は我らが敵を引き裂かん!!」
ノーボディとヒロユキの間に気圧の渦ができ、それは次の瞬間恐るべき疾風の刃と変してヒロユキの身体を豆腐のように切り裂いた。
ウインドカッター。所謂かまいたちを応用した魔法だ。
・・・ドサッ バラバラになったヒロユキの身体から首が落ちた。
レオナルド「凄い・・・」誰もが呆気にとられている中をノーボディの緊張した声が走る。
ノーボディ「まだ終わってない・・来るぞ!!・・・・・団体さんが!!」
ヒロユキの破壊した隠し通路の入り口から、無数の白い物が湧き出てきた。よく見るとそれは夥しい数の骸骨・・スケルトンだった。一同はとっさに臨戦態勢を構えた。
バレンタイン「おいでなすった〜!!」
鬼山「チィィィ・・!隠し通路の奥が納骨堂になってやがるんだ・・・」悪態をつきながらも鬼山は得意の鉄球攻撃でスケルトンの頭を砕いた・・・が、
鬼山「・・・・なにっ!!?」
スケルトンは頭を砕かれようが怯まず向かってくる。それどころかバラバラになっても身体をまた組み立てて襲ってくる・・
鬼山「どういうことだ!?ゾンビは頭砕かれたら死ぬはずだろ!??」
ノーボディ「クククククク・・・」ノーボディがまた不敵に笑う。
ノーボディ「白骨化した死体に脳みそなんか残ってるわけないだろう・・・」
バレンタイン「・・きりがない・・・」
そうしている間にも、白骨死体はぞろぞろと入り込んでくる。
レオナルド「何とかならないんですか・・・」レオナルドはノーボディの方を向いた。
あろうことか絶体絶命のこの状況になってもノーボディは呑気にガム風船を膨らませていた。
ノーボディ「どうにもならないね・・・・クック・・」
あいかわらず低い声で含み笑いを続けている。
ノーボディ「マリア様にでも祈るんだね・・・」
ナイチンゲール「おお・・神よ・・かよわき子羊を救い給え・・・」自分の力が何の役にも立たないと悟った彼女は、ただ神に祈りを捧げていた・・・
バレンタイン「マリア様・・・そうか!!」その時、彼の脳裏に天啓の如くある考えが閃いた。
バレンタイン「おい盗賊上がり!!あのマリア像めがけてありったけの鉄球をぶち込め!!」
言い方に多少のむかつきを覚え、何故そんな事をしなくてはいけないのかはよくわからないが、緊急という事もあって鬼山は兎にも角にも鉄球を叩き込んだ。
ドガガッ・・!! ガラ ガラ・・・
大理石の巨像の留め金がはずれて真下に墜ちてきた。
・・・ドシャッッ!!
・・・その真下とは、ヒロユキの隠し通路に他ならない。真下にいた数匹のスケルトンを押し潰し、瓦礫とかしつつも大理石のマリアは救いの女神となって通路を塞ぐ障壁となった。破壊されなかった顔の部分だけが聖母の微笑みを浮かべている。
ノーボディ「なかなかいかしたクソゲーじゃん・・・」カツカツと聖母の前に歩み寄って言った。
ノーボディ「やっと解ったよ・・・」全員が訝しげな顔をした。
鬼山「解ったって・・・何がだ!?」
ノーボディ「このクソゲームのルールがだ・・」ノーボディは全員に向き直った。