どーっちだ?
春のうららかな日差しが心地よい。窓辺で寝そべっていた愛犬は、退屈そうに前脚の上にあごを乗せている。もう結構なお年頃なのもあって、目をしょぼしょぼさせて、眠そうだ。
陽だまりが少し暑くなったのか、のそのそと起き上がって水を飲みに行く。フローリングの床をかく音が、ちゃかちゃかとする。
私は退屈そうな彼の暇つぶしになればと、紙コップを二つ出し、両方にエサを入れ、伏せた。片方には一粒。もう片方には数粒入れてある。
億劫そうな愛犬の前で、伏せた紙コップをぐるぐると回す。
「どーっちだ?」
紙コップの匂いをすんすんと嗅いで、彼は片方の紙コップを湿った鼻先でちょんと押した。
「オープーン!」
彼の選んだ紙コップを開ける。エサは一粒だ。
「残念だったねぇ」
愛犬は見るからに落ち込んで、鼻を鳴らしてから、エサを一粒食べた。
「はずれた君に、罰ゲームがありまーす!」
私はブラシを取り出して、身構える。愛犬はぎょっとした様子になってあとずさった。
「ブラシかけるのが嫌いなのはわかるけどさ、毛玉できちゃうよ? 抜け毛もすごいし」
うなる彼をなだめながら、私は彼の身体にブラシをかけた。すぐにブラシに、わっさりと抜け毛がたまる。
ピスピスと鼻を鳴らして、見るからに、もう勘弁してください……という顔をしている。彼はブラッシングが苦手だ。
キャットタワーの上にいた愛猫が、いつの間にか降りてきて、私の膝にすり寄る。彼女の長いしっぽがゆっくりと揺れて、私の身体に沿うように動く。
「君もブラッシングして欲しいの?」
愛猫は残っていた紙コップをぺん、とネコパンチで弾いた。とたんに愛犬の顔がぱあっと明るくなって、猫に駆け寄っていく。
「えー。何その連携プレイ」
私は笑いながら、愛犬がエサを食べる様子をながめた。猫は私の顔を見て、口を開ける。声は出さない。
サイレントニャーがかわいくて、「しょうがないなぁ」と、猫用おやつの封を切った。
彼女は先ほどからは考えられないスピードでおやつにむしゃぶりつく。
「長生きしてね」
窓の外に、満開の桜が見える。のどかな景色のなかで、ひらひらと花びらが舞い落ちるのをながめて、「そろそろお花見の時期だねぇ」と私はつぶやいた。
<おわり>




