子犬のような佇まい
…
数日後。
…
学園のカフェテラスで紅茶を楽しみながら「噂話」に口角を上げた。
王都で人気のデートスポットで、長男とエリザ様が頻繁に一緒にいる姿が目撃されているそうだ。
「上手くいっているわね。あと一押し!」
確実に、エリザさんは私という貴族から彼を奪う事に燃えている。私に惨めな思いをさせて、自分が上だと示したがっている。近いうちに、商家の自分を嫁に迎える利点をたっぷりと抱えて伯爵家当主を説得しに行くことだろう。
そうして伯爵家当主が説得され、私達の話が白紙となれば伯爵家に貸しができる。
エリザさんの商家とも恩を売った長男を通じて太い繋がりができるでしょう。
専用の手帳には、日記のように「エリザさんから受けた侮辱日記」と「その現場にたまたま居合わせた人物の名前」が記されていく。これらの失態を伝えれば、多少はエリザさんのお父様が融通を利かせてくれるかしら?
「ノーラ、悪い顔をしているわよ」
「失礼ね。私はただ、皆の幸せを願っているだけ」
ふふ、手帳を軽く叩き、微笑みながら冷めた紅茶を口にした時だった。
学園のカフェテラスの入り口に、所在なさげに立つ栗色の髪の影が見えた。
「……アルト様?」
「エレオノーラ様……。少し、お時間よろしいでしょうか」
やってきたアルト様は、いつもの元気な様子ではなく、まるで雨に濡れた仔犬のように肩を落としていた。サティが気を利かせ「じゃっ、後で話聞かせてね♪」と席を外す。
彼は私の対面に座り、絞り出すような声で口を開いた。
「……申し訳ございません。」
「急にどうされました?」
「兄上のことです。…エレオノーラ様のような素晴らしい方から婚約の打診があったというのに、兄上は……最近、エリザ嬢と隠す様子もなく歩き回っていると噂を耳にしました。」
アルト様は拳を握りしめ、自分のことのように傷つき、顔を歪めている。
「伯爵家の人間として、そして……何より、兄上の不誠実さが許せないんです。…本当に、申し訳ございません!」
彼はそのまま、テーブルに頭がつきそうなほど深く頭を下げた。
……ああ、なんていい人。
まさか私が、裏でそのデートを「もっとやれ」と応援しているとも知らず、彼は私の名誉が傷つくことを本気で怒り、悲しんでくれているのだ。
「顔を上げてください。私は大丈夫です。婚約を約束した相手でもございませんし」
「貴女はどこまで慈悲深いんですか……! 兄上の代わりと言っては何ですが、もし何か俺にできることがあれば何でも言ってください。俺の有能さのすべてを使って、貴女を全力でサポートしますから!」
必死な眼差しで私を見つめるアルト様。
その真っ直ぐな瞳を見ていると、少しだけ罪悪感が疼くけれど……同時に、彼を独占できる未来がすぐそこまで来ていることを確信し、私の心はまたフワフワと浮き立つ。
「そうですね……」
「はい、なんなりと」
私は指先で自分の顎をなぞり、少しだけ思考を巡らせました。
もし次男様に婚約者がいなければ、アルト家の父君は「長男が駄目なら次男を侯爵家に!」と、これまた面倒な忖度をしてくる可能性がある。
お願いだから、婚約者か誰かと熱烈な恋にでも落ちていてほしい。
「伯爵家には、次男もいらっしゃいましたよね?婚約者や想い人はいるのかしら?」
しかし、私の問いを聞いた瞬間、アルト様は露骨に動揺し、泳ぐような視線を彷徨わせました。




