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【全年齢版】モテないと騒ぐ君が好き  作者: かたたな


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口論をしてみる


 ある日のこと。



 この日は、アルト様に打診したのにも関わらず、伯爵家当主に推されて来てしまった伯爵家長男と「逢瀬」…………に見せかけた作戦を実行する時。



「……というわけです。よろしいですね?」



 学園内の、申請すれば部外者も入ることが許可されている庭園。人通りも多く、噂も広まりやすいこの場所を今回の舞台として定めた。そこにちょうどいいベンチを見つけ、私達は対談する。



「なるほど。僕たちが人前で口論し、君が僕に執着しているフリをすると。」


「ええ、私にわざわざ嫌味を言いに来たのも『誰よりも上にいたい』という気持ちの現れでしょう。貴方は十分な地位にありながら、現在キープです。踏み出せないのも、更に上を狙いたいからでしょう。しかし、現状では貴方以上の地位の者から好かれる事は難しい。」


「愛を試されているのかと思っていた…キープだったのか…」


「貴方という存在がいるからこそ欲張ってしまっているとも言えます。貴方が自分から離れないと確信し、甘えているのでしょう。」

「彼女のそういう素直に甘えてくれるところが可愛いんだ」




 惚気ている場合か。



 私もエリザさんも、高等部3年生。

 卒業はすぐそこにある。この貴族が多い学園に、潤沢な資金援助で入学を果たした彼女にとって、建前上では爵位を気にせず平等でいられるこの場は貴重。とにかく上を目指したい事だろう。しかし、伯爵家の彼で手を打つにはまだ欲があるのだろう。


 その欲を満たせば、エリザは結婚へと前向きになるはず。



「そこで私の出番です。私が貴方を欲しがれば、エリザさんは侯爵家より自分が選ばれる優越感に浸り、結婚に前向きになるはずですわ」

「エリザはそういうところがある。理にかなっているね」



 腕を組み、真剣に話を聞く長男。

彼は確か22歳だったか…好みが変わっているけれど、議論のできる人間だ。それは、将来の繋がりを考えると救いだ。


 長男は頷いて納得したようだが…あの女で本当にいいのか?とも思う。年上の彼にとって、我が儘を素直に言う女の子が可愛いのだろうか。いや、彼に対する彼女の態度は甘えん坊そのもので、攻撃的ではない可能性もある。攻撃的なのは同性だけという同性に嫌われるパターンか?


 考えるのは一旦止めて、私は一つ懸念を口にする。



「ですが…。私は貴方に恋心を抱いておりません。そんな相手を巡って嫉妬に狂う演技をするのは、少々熱量が足りず現実味が薄れるでしょう…。ですから、何か議題を決め『本気の討論』をしませんか? 傍目には、意見が合わずに揉めているように見えるはずです」

「……それなら僕もできそうだ。こんな議題はどうだい?」



 長男は、真剣な面持ちで私を見た。



「恋人が『出世の為に別れなければならない』と言ったらどうする?」


 私は腕を組み、彼の事を考えながら重い口を開いた。


「なんて恐ろしい議題でしょう…」

「これは揉めるだろう?」


 しばらくの沈黙の後、私は意を決して言った。勿論、想像する相手は長男ではないのだけど、周囲にそう思わせるように。


「どうしても…それは変えられないのですか?それが…貴方の為だと?」

「ああ。僕は応援してほしいと思っている。愛しているなら相手の幸せを願い、引くのが本当に愛してると言えるんじゃないかな」


 長男も長男で、いい感じに何のことを話しているかは伏せてくれている。いける、この演技いけるぞ!!


「いいえ、何か道はあるはずです。しっかり話し合えば…」

「話し合った所で、これは決まっているんだ。その前提を変えることはできない」

「そんな…だって、突然そんな事を言われても困るわ。『はい、そうですか』って言えるような…納得出来るような内容ではないもの」


 これはかなりリアルな痴話喧嘩に見えることだろう。彼は応援して身を引く派で、私は納得出来ない派としてなかなかに良い話し合いが出来ている。話の流れとしても、私が彼を説得するかのようだ。


暫く私達はこの話に没頭した。

すると案の定。

近づいてくる人影があった。


「まぁ、こんな所で喧嘩だなんて。見苦しいですわね、侯爵令嬢のエレオノーラ様」

「…!…っエリザ」

「エリザ、さん。なぜこちらに?」


 熱くなった討論で、遅れて気づいた私は普通に驚いた。すっかり忘れていた。これ、これだよ。ただの討論会ではないのだ。


「私の為に説得してくださっていたのでしょう?」


 そう可愛く長男の腕を引くエリザさん。チラッと目配せをして、エリザさんから見えない位置で長男に「行ってください」とサインを出す。


「僕は、彼女と…エリザと行くから」

「この話は…また。でも諦めてはいません。」

「あら、怖い顔。じゃあね、侯爵家のご令嬢さん♪」


 そう言って去っていく2人の背中が見えなくなるまで、私は立ち尽くした。


 はぁ~、早く終わらないかしら。

 半年なんて待たずに行けそうなのだけど…。

私は、カフェテラスで新作ミルクティーを飲んで帰ろうと気持ちを切り替えて歩き出した。


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