デートだったの?(アルト視点)
殿下のニヤニヤ顔は、どこか嬉しそうに俺を観察する。
「な、なんすか!?」
「いーや。そこまで頭を悩ませるとは、なかなか入れ込んでいるね」
「入れ込んでなんか…」
殿下は面白いものを見るような目でこっちを見てきて居心地が悪い。
「屋敷まで…そして鳥を捕まえるまで、楽しい時間を共に過ごしたのだろう?」
「…楽しいなど…俺達は真面目に鳥の調査をしただけです。」
「…鳥の調査。それはどんな調査だったんだ?」
俺は、鳥の襲撃から送るまでの流れを洗いざらい話した。すると殿下は次第に深く思い悩むように頭を抱えた。
「アルト、つまり君はエレオノーラ嬢とデートをしてきたと?」
「な!はぁ!?デート。違うに決まっているでしょ!!」
「何を言っている!それがデートでなくして何だと言うんだ。…それとも何か?君はデートだとも気づかず!今の幸せを噛みしめること無く生きていたというのか!」
俺はその言葉に衝撃を受けた。
あれがデートだと言えるのであれば。
俺は人生で初めてのデートを、ただただやり過ごしたのである。
「いいか?アルト。まず、女性という者は親友か、好意のある相手でなければ愛称は許さない。そして彼女の反応からして君のことも愛称で呼びたがっていたようだ」
「まさか…」
「それを!!『あっくん』などと試しに呼ばれたにも関わらず、色気の無い返事を返すとは…情けない!」
「いや、なんて返すのが正解なんすか!『あっくん』で!」
殿下は少し目を伏せて考えると、眉間にシワを寄せてこう言っていた。
「『……その呼び方、君以外には許さないことにするよ』と返せばいい。これで彼女は、自分が君にとって特別な存在だと再認識するはずだ。」
「俺…あっくんと呼ばれ続ける覚悟を決めるんすか?」
「代案も出たのだろう?」
「代案の『アル』の方が確かにマシですが…この物足りない感が拭えないんすよ。もともと『アル』って名前なら分かりますよ?でも散々『アルト』と呼ばれているのに『アル』は物足りないじゃないですか」
「アル」
「ひえっ、ムズムズします!!」
殿下が至近距離で真面目なトーンで呼ぶものだから、俺は自分の腕をさすって飛び退いた。殿下はそれを見て笑っている。
「いいか、アルト。問題はそこではない。貴重なデートの機会を、ただの調査と決めつけ、他の可能性を考える事もしなかった。それは重大な過失だ。」
「はっ!!」
俺は、執務室の上質な床の上に膝をついた。
「俺は、…俺はなんてことを!!」
「経験不足故に…こんな大惨事を引き起こすとはな。」
「いや、しかし彼女は兄の婚約者候補ですよ?」
「またそうやって決めつけて可能性を見ないでいるのか?ただの候補だ。打診が来て1ヶ月ほどだったか…そろそろ無かったことになる頃さ。口論をしていたのを見た者もいる。」
「それは…そうですが」
殿下は、とても楽しいものを見るような目でこちらを眺めてから言った。
「兄上との打診が、本当に無かったこととされた時。君はどうする?」
「俺、ですか?いや、何も…」
「多少は情がわいているのではないか?あれ程の美人だからな。」
ここで、兄上ではなく俺に!とまた売り込む事で彼女に受け入れて貰えるのだろうか…
そう考えた時
「殿下…なんか、めちゃくちゃ怖いっす。もし、断られたら…立ち直れない」
「断られたら立ち直れないなんて、やはり相当入れ込んでるじゃないか」
はははっと爽やかに笑う殿下だが、本当に笑い事じゃない。彼女に受け入れられれば侯爵家当主になれるということだ。
それは殿下の側近としての俺の立場を、更に安泰にする材料となる。
殿下の隣にも胸を張って立てる。
迷わずに売り込みにいけ!と頭では分かっている。多大な利益があるのだから。
しかし、これほどの利益を前にしても「断られたら」と思うと動けなくなるのだ。
断られる事を何故恐れているのか。
もし断られたら、欲しい地位が手に入らないから落ち込むのか?俺は。
いいや、今まで交渉してみてダメだった事なんて山ほどある。ダメならダメで「なら別の方法を」と切り替えてきたはずだ。
それが今では踏み込む事すら躊躇してしまう。
切り替えられない…。
俺はこの事で暫く悩む事となった。




