怒られた
アルト様に捕まった鳥。
その姿はまるで、赤ちゃんがおくるみに包まれているよう。
「まぁ、可愛い」
「可愛いじゃないっすよ!もう!!」
アルト様は、とても疲れたように今もギャアギャア鳴く鳥を抱えてゲッソリしている。
「ほんっと、なんなんすか!!鳥が来る直前になんとか捕まえたから良いものの!貴女は侯爵令嬢としてもっと自覚を」
彼は見事、鳥が私を襲撃する寸前で捕まえた。そして、とても怒っている。しかし、彼の怒りを遮り怒り出した人物がいた。
「こんなの、あんまりだわ!きっと、エレオノーラ様が仕込んだのよ!!私が羨ましくて妬んだのよ!」
「ちょっとエリザ!落ち着いて」
エリザさんが、何故かそう叫んでいた。
これは…まずいな。長男まで引いてる。これでは彼女達の縁談が破談となってしまう。それは良くない。長男と結婚する流れが出来てしまう。
私は荒れるエリザさんを慰める長男に慌てて近づくと、彼に耳打ちした。
「きっと、とても怖かったのですね。慰められるのは貴方だけですよ!今がチャンスです!」
「わ、わかった」
この長男は素直だ…扱いやすい。
改めてそう思った。
そして、長男に連れられその場を離れる姿を見送った。
二人の騒動を見守っていた野次馬たちが遠巻きに眺める中、アルト様は暴れる鳥をしっかりと脇に抱え直す。
「……まずは、この個体を警備兵に引き渡してきます。これだけはっきりと人を襲う以上、ただの野鳥として片付けるわけにはいきません。徹底的に調査してもらいます」
その横顔は、先ほどまでの説教モードから、切り替わってくれたらしい。アルト様は一度、私が無事であることを確認するように視線を走らせると、小さく溜息をつきました。
「その後……改めて、ノーラ様をお送りします。この期に及んで、一人で帰すなんて選択肢は俺にはありません。何羽この鳥がいるかもわかりませんし……同行して、いただけますか?」
少しだけ不安そうに、けれど拒絶は許さないという強い意志を込めた問いかけ。
私は迷うことなく、食い気味に深く頷きました。
「もちろんです! いくらでも同行いたしますわ。よろしくお願いいたします、アルト様」
私が弾むような声で答えると、その口元にはかすかな苦笑いが浮かんでいた。
警備兵に鳥を預け、詳細な記録を申し伝えた後、私たちはアルト様の呼んでくださった馬車が到着するまで外のベンチに座り待つ事にした。
夕闇が本格的に街を包み始め、王城の庭園には小さな明かりが灯った頃。私達は馬車に乗り込んだ。行き先は王都にある侯爵家の別邸。
到着したら、ぜひお茶にでも誘いたい。
そんな欲にまみれた計画を立てた時。
「……ノーラ様。先ほどのは、無茶が過ぎます」
沈黙を破ったのは、やはりアルト様による「反省会」
「俺の対応が数秒遅れていたら怪我をしていました。囮になるなんて、二度と考えないでください。いいですか?」
「……それはどうでしょう。時と場合によりますでしょう?約束はできません。」
私の言葉に、アルト様は少しだけ怪訝そうに眉を寄せる。
「俺は、あの場で貴女がわざわざ出るのはおかしいと言っているのです。貴族として、貴女は何よりも安全を確保されるべき存在です」
「他の誰かなら傷ついても良いと言うのですか?」
「そう言うわけでは…しかし、重みが違うのです。俺に傷1つ着いた所で誰も気に留める者はいません。しかし、貴女に傷がつけば周囲の人間の責任は重くなる」
「鳥に襲われただけで命を落とすことはないでしょう?私が命を落とさない限り、誰かに責任は求めません。お父様も私の意向を尊重し、責める事はしません。それに、あの場で即座に判断し、動けるのは私達二人だけでした。」
「それなら囮は俺が出来たはずだ」
「貴方は捕まえるために両手を自由にする必要がありました。カフェテラスで、あの鳥は数回払うと逃げて行ったでしょう?何度も捉えるチャンスがあるわけではありません。より確実に囚える必要があったのです。私には俊敏な鳥を捕らえるなど無理ですわ」
アルト様はぐぬぬ、と言葉を飲み込み私はふふふと微笑む。そう言う顔も、とても愛しい。




