鳥の再来
エリザさんの、可愛らしく高い声が庭園に響いた。
「ぷっ、あはははっ!野鳥に?それは、はははっ災難でしたわねぇ。野鳥にまで嫌われているのですか?」
野鳥にまでって。
他に誰に嫌われているというのか。エリザさんなの?そこまで恨まれる事はしていないのだけど。
現時点では。
エリザさんの高笑いが、夕暮れの静かな庭園に響き渡る。
「野鳥にまで嫌われるなんて、よほど日頃の行いが悪いのか、それともその宝石の趣味が野鳥の逆鱗に触れたのかしら?」
私の隣で、アルト様の纏う空気が更に冷え込んだ気がした。アルト様は、まるでゴミを見るかのような冷ややかな視線をエリザさんに向け、口を開く。
「……なるほど。貴方は社会的常識を学び直すべきだ。現象と感情を混同して語るその知能の低さは、商家の娘として致命的だ。顧客の購買心理を計るどころか、自然現象の因果関係すら理解できていない。」
「なっ……!」
感情を混同してる、だなんて…やっぱり私がエリザさんに嫌われているって思っているのね?アルト様も。
何で?
計画が成功すれば確かに嫌われる自信もあるのだけど…今はただ打診した相手がエリザさんの恋人というだけなのだけど。
まさか「知らないとは言え、私の恋人に打診して取ろうとしたわね!この泥棒猫!」ってこと?もし、そこまでの感情が長男へ向いているなら…それはとても良い傾向だわ!!
しかし、アルト様の一切の慈悲ない言葉がエリザさんのみならず長男へも叩き込まれる。
「兄上。このような公共の場で、管理されていない平民との愚行、我が伯爵家にどれほどの経済的・政治的損失を与えるか、お分かりですか?」
「アルト、そんな言い方……!」
「考えることすら放棄したなら黙っていてくれ。伯爵家と俺の邪魔をするな。」
……沈黙。
一分の隙もないアルト様の論法に、エリザさんは顔を真っ青にして小刻みに震え、長男に至っては少し後ずさりをする。
なるほど、アルト様は家族にもこうなのね。
私は何となく、伯爵家当主が長男を勧めてきた理由を理解した。長男は、他人の言うことをしっかり聞いて動く人間だ。私の作戦に乗ったり、エリザさんの我が儘を聞くのもそう。きっと伯爵家当主の言いつけがあれば従順に言うことを聞くのだろう。
対してアルト様は、自分の意見がしっかりしていて説得するのが難しい。この正論の暴れん坊を伯爵家当主は扱いきれないのだ。侯爵家に婿として出すなら、言うことを聞く長男の方が侯爵家の恩恵を受けるのに都合がいい。
(不味いわね、こうもなると長男の次は次男を!と駄々をこねられる可能性がより濃厚に…いやいや、次は譲らないわ)
そう決意した時。
空からバサバサと、鳥の羽ばたく音が響いた。私はさっきの衝撃を思い出し、空へ視線を向ける。
「アルト様!あれ!」
「あの鳥!」
学園内に現れた鳥と同じ鳥だろうか。その鳥は、いつも宝飾品で着飾るエリザさん目掛けて飛んでゆく。
「きゃああ!!」
エリザさんの頭をかすめ、もう一度向かってくるのが分かった。
私は制服の内ポケットに入れていた髪飾りを取り出し、その上着をエリザさんの頭に被せた。
「長男!この上着が落ちないように押さえて下さい。エリザさんを鳥の目から隠して」
「な、長男って、僕の名は」
長男の名前を改めて聞く前に、手に持った髪飾りを鳥に見せびらかすようにひらひらと掲げる。
「ノーラ様!?」
「いいですか、アルト様」
私は鳥から目を離さず、エリザさんから離れるように移動する。そして、鳥が私の髪飾りに狙いを定めた事を確認した。
「私は、鳥が襲ってきても絶対にこの髪飾りを離しません。鳥が私を狙っている隙に、アルト様は鳥を捕まえて下さい!」
「はぁ!?そんな無茶な!それなら俺がその髪飾りを」
アルト様が言いかけた時、鳥は急降下してくる。
「来ました!」
「っ!」
私は、鳥からどんな攻撃を受けても絶対離さない!!と気合を入れて構える。そして顔を守るように髪飾りを持たない腕で顔を隠し、衝撃に備えた時。
強い風が頭上をかすめる。
「!!」
「捕まえた!」
ボフンッ!!
音がしたかと思うと、ギャアギャアと騒ぐ鳥の声。
顔を隠していた手をどけて、おそるおそる前を見る。するとアルト様の上着に包まれ鳥は捕まっていた。
反応下さるお方に感謝でいっぱいです。めちゃくちゃ喜んでます\(^o^)/




