愛称で呼べたらいいのに
彼が少し戸惑っているのが分かる。可能な限り軽く提案してみたのだけど…
私は彼の言葉を祈るように待った。
すると。
「ノーラ様」
「はい」
「いいのでしょうか…とても、光栄な話です」
「もちろんです。私から提案したのですから」
ここで正気に戻してはいけない。どうってことはない!という雰囲気で「さぁ行きましょう!」と私はぐんぐん進み、そして多くの露店や屋台を楽しんだ。
「俺にも、愛称があれば…。両親も、殿下ですらもアルトと呼びます。」
「『アル』と呼ばれたりはしないのですね?」
「俺の名前は『アル』で止めるより『アルト』と言ったほうがしっくりくるのでしょう…。」
愛称がない…。そうなれば特別な呼び方というのを開発したくなるもの。私は彼の姿を眺め、短く言葉にする。
「いっそ…『あっくん』はどうですか?」
「アルトより文字数が増えてますし…それに呼ばれても絶対に振り返れない自信があります。母親でしたら五歳あたりで止めるように言うでしょう」
なんて正論だ。
「ならば、やはり『アル』…うーん」
「しっくり来ませんよね…」
そんな話をしながら歩く。
私達は最終的に恋人達の定番デートスポットへ。夕日の輝きが幻想的な雰囲気を醸し出す、王城の庭園を訪れた。
「ふぅ、少し疲れました」
「そうですね、なかなか歩きましたから」
「でも、とても楽しかったです」
「…はい」
ベンチは恋人達で既にいっぱいで、私達は仕方なくその辺をゆっくり歩く。
これは、もしや。
告白のチャンスではありませんか!!
いやいや、まだ早すぎるわ。それに私はまだ婚約打診中とされる時期…我慢我慢と堪える。
うんうんと悩みながら歩くと、半歩後から突然声がした。
「わっ!!」
「?」
突然の声に驚いてそちらを向けば、アルト様に両肩をガッシリと掴まれ、体勢を固定されてしまう。
夕日の輝きに照らされた2人は向き合い…
見つめ合うこの体勢。
まさか、キスですか!?
そんな気が早い♪でも嫌ではありません!!…と一瞬思わなくもなかったのだけど、もちろんそんな雰囲気では無かった。
彼の表情は酷く焦っているようで…
「どうかなさいましたか?」
「え!?いや、あの、その」
多分、反対側に何かある。すっっっごい私の後ろを見ている。
それは私の苦手なグロテスクなものなのだろうか?いいや、周囲のカップル達が騒がない。となれば。
「…あ」
「あ」
肩は固定されていたものの、頭だけ動かし後方に視線をやると、案の定な光景がそこにあった。
「エリザ、愛しているよ」
「私も♪」
2人は夕日を背に熱いキスをしていた。
「はぁ…」
なんて場面に遭遇したのか。
こうなったら少しのスパイス役をしなければならないじゃないか。
腕がなりますわ。
公共の場でこんな雰囲気なら、もう既に正式な婚約一歩手前なのだろう。更なる追い風となろう!!
早くアルト様を迎える為に!!
私は、アルト様の手を軽く振り払うと、熱いキスを交わすエリザカップルのもとへと足を進めた。
「あら、エリザさん。このような公共の場でそのような…お熱い事ですね。はしたないですよ。」
「エレオノーラ侯爵令嬢?盗み見るなんて趣味が悪いですわね…。それとも、彼の行動を監視していたのかしら?嫉妬って怖い。それに…」
私の後ろにいるアルト様へ視線が行く。
「そう言う貴方は、彼がダメならモテない弟を…ということかしら。お可哀想に。」
今日もなかなか火力が高い!いいですね、それですよ!学園だけならず公共の場でもその態度!ブレませんね。私の日記が捗ります。そう考えていると、後ろにいたアルト様が前に出る。
「勘違いしないで頂きたい。エレオノーラ様は学園内で野鳥に襲われ、その実態調査に付き合ってくださっているのです」
そうアルト様が事実?を話した途端。エリザさんがクスクスと耐えられない!と言いたげに笑い出した。




