愛称で呼んでもいいんですよ
いざ!
やってきました街歩き。
王都の街はやはり賑やか。そしてアルト様の提案通り、警備兵の駐在するルートをたどれば自ずと観光スポットが多くなる。それは観光客や商人が多く、恋人達も多い。
「アルト様、アルト様!あれ、とても美味しそうですわ!」
「あれですか?」
指さしたのは、恋人たちが仲良く分けられるように作られた焼き菓子。寄り添う二匹の動物のふわふわパンのようだ。それを恋人たちが一匹ずつに分け合い食べる。
「買いましょう!」
「ぇ、エレオノーラ様、街のものを食べるなど毒見もなしにですか?」
「あそこで仲良く食べている人達が毒見役とも同義です」
なんて残酷な事を言うのだろうと、自分でも思う。でも恋人達は幸せそうにそれを食べていた。
私が進んで屋台へ歩み寄ると、店員さんは可愛らしい動物の形のパンを指差して「どれにいたしましょう?」と笑顔を向けてくれる。
「このクマさんを」
「はい、どうぞ」
アルト様の意見も聞かず一目散に買ったそのパン。紙に包まれ、手に乗せられた感覚だけで出来たてのふわふわだと分かる。そしてその可愛らしいクマ達は幸せそうな笑顔で微笑み私を見つめる。
「はい、アルト様」
「え」
半分に分けるように作られたこのパン。分けなくては意味がない。しかし、なかなか取ろうとしないアルト様に私は悪い笑顔を向ける。
「アルト様、毒の心配をしていたのでは?」
「!!ぁっ、はい、それでは失礼します。」
毒味をやりなさい?と聞こえたことでしょう。使命感に駆られたアルト様は、二匹寄り添ううちの一匹を持ち丁寧に、形が崩れないようにとちぎる。
こうして私の手にも彼の手にも幸せそうに笑うクマパンが。
「食べにくい…」
「…ですわね」
目の前でパンを食べる先客が毒見役だ!とか、アルト様に毒見を提案したように見せた私が、可愛いパンを食べにくいなど信じてもらえないだろうけど。
こんなにも幸せそうに笑うクマパンをどこから食べていいのやら。そうしていると、屋台の店員さんがニコニコと教えてくれる。
「寄り添うパンも食べてって言ってるわ?貴方達とならずっと寄り添っていられそうだしね?」
そんな茶化しにも取れるフォローを入れてくれる。
なるほど。寄り添うパンの分まで寄り添う。
なるほどね?
私はクマパンのお耳を指先でちぎり、パクリと食べた。手元に残ったのは丸いお顔の元クマパン。
「アルト様、見てください。アザラシみたいです」
「あ、本当だ…って!先に食べてるじゃないっすか!」
「ふふっ、貴方の毒見をしてあげたのよ。ほら可愛い」
「ちょっ、ちょっと待ってください!俺急いで食べるんで!」
そう言うと、一気に耳から体までもぐもぐと食べるアルト様。そんなに急いではお体に悪いと思いつつも、他人の食べ方に口出ししてもどうかと思う。
「食べ終わりました、どうぞ食べてください」
「ありがとうございます」
私はそのままパクリと食べながら幸せを噛み締めた。ただのパン。されどパン。今私達の中には恋人だったかもしれない彼らがいる。彼らの分までアルト様と寄り添い生きよう。
意地でも。
もぐもぐと食べ終えると、次を見つけた。それは今流行の恋人同士が身につけるアクセサリー
「アルト様!アルト様!」
「はい?エレオノーラ様、次は何を…」
そこで気がついた。
エレオノーラという長ったらしい名前をこのまま言わせるのも…
「アルト様、私の事はノーラとでも…呼んで頂いても構いませんよ?」
「っ!!えっ!!それは、それって」
「親友のサティもノーラと呼びますから」
まずは呼び方から心の距離を近づけるのも悪くない。
そう思う。
私は仲を深める勝負に出た。




