優秀だからこそ(アルト視点)
俺は伯爵家三男として、常に自立すること…一人でも生きていける力をつけることを意識して生きてきた。
それもこれも…将来、上位の貴族との縁を作る為に、娘が生まれる事を望んでいた…と言う両親の愚痴をたまたま聞いたからだ。
両親が、直接それを俺に言うことは無かった。それでも心に深く刻まれた何かがずっとあった。
望まれない自分は、一人で生きていく道を作らねばと必死でやってきたというのに。頑張ったがゆえに侯爵家からの縁談が遠のくなんて。
「君は、エレオノーラ嬢を好ましく思っているのかな?」
「え?ぁ、いや…それは……恐れ多いです」
「しかし、君は先ほど『兄上より自分を!』と息巻いていただろう?侯爵家当主になりたいからか?私にはそれだけとは思えなかった。そもそもアルトが女性にアプローチしに行くのを初めて見た」
「…」
「アルト、もし侯爵家に不穏な動きがあるとするなら。その侯爵家当主となった君を側近には出来ない。君は、エレオノーラ嬢を諦め私の側近を選ぶのか?それとも、エレオノーラ嬢を取るかい?」
殿下は何を言ってるんだろう。
そんなの答えは決まっている。
「何をおっしゃるんですか殿下。冗談が過ぎますよ!」
そう思うのに、いつものように顔の筋肉が上手く動かなかった。引き攣りそうになる頬の筋肉を必死に動かし、これ以上ないほど「忠実な部下」の笑顔を作って殿下に向き直った。
「殿下に仕えるに決まっているじゃないですか。殿下とどんだけ長い付き合いだと思ってるんです?」
その言葉に嘘はない。我ながら完璧な「側近の回答」だ。
だが、その言葉とは裏腹に、心臓の奥が焼けるように熱い。
自分の口から出た、自分にとっても当たり前の言葉が、自分自身を鋭く傷つけてゆく。
「……そうか」
ラインハルト殿下は、俺の「完璧な笑顔」を数秒間じっと見つめていた。その蒼い瞳には、長く仕えた俺でも一切の感情が読み取れない。
…やがて、彼はふっと微かな笑みを漏らし、俺の側にやってくると肩にポンと手を置いた。
「君がそう言うのなら、安心だ。これからの調査、君の『客観的で冷静な』判断に期待しているよ」
「……っ、はい。お任せください」
殿下の手が離れる。
その瞬間、俺は救われたような、あるいは致命的な宣告を受けたような、奇妙な喪失感に襲われた。
殿下は俺を試したのだ。
そして俺は、正解を選んだ。
側近候補として、これ以上ない百点満点の回答を。そんな俺に、殿下は悪魔のように囁いた。
殿下は俺に侯爵家を調べるように言っている。
「では、失礼します。……鳥の件、早急に片付けてきますので」
そう言うと逃げるように執務室を後にした。
廊下に出た途端、壁に手をついて深く息を吐き出す。
掌に残る冷たい汗が、俺の言葉を「嘘」だと決めつけているようだ。だけど「嘘」なんて微塵も無いと思っている。何故、こんなに嫌な汗が出るのか、こんなに息苦しいと感じるのか分からない。
「……あー、くそっ」
誰に当たるでもない悪態が口を突いて出る。
もし彼女が「黒」なら、俺はこの手で彼女の罪を暴き、裁かなければならない。彼女が望んでいる「伯爵家との縁」を、俺自身の手で断ち切らなければならない。
(俺のほうが絶対に良い、なんて……どの口が言ったんだか。)
情けない。
俺はただ、ほんの少しの夢を見ただけだ。
あんな兄でも良いって言う人なら、俺でもいいって言ってくれるんじゃないかとか…。あんな優しく俺の悪癖を正してくれる人が近くにいたなら…まだ人として成長出来るんじゃないか
とか…。
今まで、ダンスに誘ってくれたのも、時折手紙をくださるのも、もしかしたら脈があるんじゃないか?とか。
ほんの少し、夢を…希望を持っただけ。
ウジウジすんな。
だから俺はモテないんだ。
手元で完結してから投稿する派なのですが、別サイトで先行投稿していたのに調子に乗ってこちらに投稿しすぎました。明日の投稿スピードどうしよう…と悩み中です。平日は夜9時に1話投稿できるといいなと思っています。




