検証はおいといて(アルト視点)
殿下が存分に猫で癒される姿を確認しながら、俺は腕を組んだ。
「ゴロゴロと獣臭さとカリカリの匂いは余計ですが、なかなかの再現性でした」
「余計が多いな」
俺たちは、夕暮れの執務室で、一匹の猫を交互に抱きしめながら、その温もりと重み、鼓動について語り合った。
「……よし、検証終了だ。検体を解放しよう」
「了解っす。……協力感謝する。この貢献は、王国の歴史に非公式に刻まれた」
俺は猫を日当たりのいい窓辺に置いた。猫は「解せぬ」という顔で俺たちを眺めると毛繕いを始めた。
「……アルト。今回の検証で、君が受けた衝撃の正体は概ね解明された。結論として、君の理性はよく保たれたと言える。」
「お褒めに与り光栄です……!」
「だが、これで耐性はできたはずだ。次、もしエレオノーラ嬢と接触があっても、君は『これは少し重い、カリカリの匂いがするタプタプの猫だ』と思えば、冷静に対応できる」
「……それは、エレオノーラ様に酷く失礼な気がするんすけど……でも、確かに冷静になれる気はします!」
俺と殿下は、何か大きな偉業を成し遂げたかのような、晴れやかな顔で頷き合った。
そして殿下は改めて俺に向き直った。
「そんな事より…」
そんな事???あんなにも語り合ったのに?と疑問に思うが、真面目に次の言葉を待つ。
「兄上より俺のほうがマシなはずだ!と息巻いてエレオノーラ嬢へ売り込みに行った成果はどうなったのかな?」
そう言えばそうだった。
この報告をまだしていなかった…。殿下のその言葉に、一つの疑問を再び思い出す。
「それが…彼女は、長男でなくても次男でいいとお考えだった様子で…」
「君の兄上に好意があった訳でもない…ということか。やはり彼女の意思ではなく公爵家の意向なのだろうか」
そう言葉にして少し安心する。
兄の行動はあまりにも不敬で目に余るから。俺の方が絶対いいだろう!って思いと、兄の不敬を謝罪しに行ったのだけど…何か引っかかる。その引っ掛かりを殿下が言い当てるように呟いた。
「なぜ、わざわざ長男や次男へ行くのか…」
「それが気になっているんです。侯爵家に婿を迎えるなら絶対に俺でしょう。兄上より優秀な自信があるんですけど」
殿下は少し考えるようにして、瞼を閉じた。そして鋭い眼差しでこちらを見据える。
「君は、私に一番近い側近候補だ。となると…王家の目があると困る『何か』を抱えている。だが、私に近い君とは親戚として…若しくは、王家の動向を知る情報源として縁が欲しい…ということではないか?」
「あの侯爵家が、王家に知られて困ることがあるなど…」
殿下の言葉に衝撃を受けた。エレオノーラ様が…侯爵家が王家の目がある事を困ると考えていると? まさか…あり得ない。しかし、俺ではない伯爵家の人間を求める理由としては納得がいく。
「ただの憶測だよ。優秀な君だからこそ侯爵家を乗っ取られると考えている可能性もある。君は扱いやすい男ではないからね。」
「優秀だから…こそ…」
更に胸がズキズキと痛み出す。
殿下の言葉一つ一つが胸に突き刺さっていく。




