鳥はいい仕事をする
学園のカフェテラスで、アルト様と私の間にほんのり冷たい空気が流れた。
「な、2番目の兄上……ですか? ええと、その…兄上は、騎士団の第三部隊に所属しておりまして、無口で不器用な面があり…騎士団ですから…それなりに付き合いで遊ぶようなので、エレオノーラ様に合うかどうかは」
必死な顔で次男の説明をしてくれるけれど…アルト様にしては珍しく説明が要領を得ない。婚約者がいるとは仰らないからいないのだろう。ということは、やはりまだフリー。これは私にとって非常に「困る」事態。
「……そう。それは確かに困りものですね」
私が溜息混じりに呟くと、姿勢を正していたアルト様が身を乗り出す。
「そ、そうですよ! これは一般的なアレなので兄上に当てはまるかは分かりかねますが…遊びを覚えたら止めるには根気がいります! それに比べて、俺なら……その、今まで一度も女性と浮いた話もありませんし、一度心に決めた女性には、こう、一途な自信がありますし。……その、俺なら、絶対に貴女を悲しませたりは……」
最後の方は蚊の鳴くような声でモニョモニョと呟き、耳まで真っ赤にしている。でも、一度遊びを覚えたら大変というのは理解できる。
(もしかすると、次男を狙っていると思われたのかしら?そして家の為に自分を売り込みに来てくださっているの?)
彼の様子から真意を探っていると、アルト様はふと何かに気づいたように表情を引き締め、不思議そうに首を傾げる。可愛い。
「……でも、エレオノーラ様。どうしてそこまで、我が伯爵家にこだわるんです?」
その瞳には、純粋な疑問が浮かんでいる。
「エレオノーラ様の家柄なら、公爵家や他の貴族からいくらでも縁談が舞い込むはずです。なのに、長男がダメなら次男、というふうに……どうして『伯爵家の誰か』でなければならないんですか?」
……それはとても答えにくい質問。
「貴方のことが好きだから、ついでに長男から商会の情報も得たいから」なんて、今ここで正直に言えるはずもない。淑女らしい完璧な微笑みを浮かべて、少しだけ視線を逸らす。
「それは……」
本音を言うか誤魔化すか…考えた。
告白する? でも、それにしてはムードってものが…。そもそも今は打診中という微妙な時期だし。今言い出すと「長男で行けそうなら行きたかったけど、アルト様を狙ってた事にしようとする令嬢」に見えてしまうだろうか?
頭を悩ませていたその時。
バサバサバサッ!!
ギギィッ! ガァッ!バサバサバサッ!!
「えっ、……!?」
バサバサバサッ!!
凄まじい羽音と共に、空から一羽の大きな野鳥が飛び込んでくる。その鳥は、私の髪に飾っていた宝石がついた髪飾りめがけて襲いかかってきた。
「きゃーー!! 」
優雅なティータイムは一瞬で崩壊。
私は思わず椅子からテーブルの下へ滑り落ちるように体勢を低くする。しかし、その鳥は確かにこっちを見てまた突っ込んでくる。
「エレオノーラ様!」
その時、力強い声と共にアルト様が私を引き寄せ、その勢いで彼の胸の中に飛び込んだ。




