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鬼切神社の御御籤  作者: 西季幽司
エルリンとショーゴの話
2/11

隣にいる

 研修生として一年、研鑽を積んだ後、アイドル・グループの一員としてデビューを飾った。

 七人いた同期の内、デビューまで漕ぎつけたのは三名のみ、歌にダンスにと厳しい練習に同期が次々と脱落して行った。

 ここで脱落したら、快く送り出してくれたバンドのメンバーに申し訳がないという気持ちと、グループでトップクラスと言われる歌声が、エルリンの支えだったと言えるだろう。

 やっと勝ち取ったデビューだったが、デビュー後もいばらの道だった。

 大勢いるメンバーの中で頭角を現すのは難しかった。エルリンより歌が下手でも、男好きのする可愛いメンバーが売れて行く。

「歌は上手いんだけどね・・・」とスタッフから言われるので、ダンスを頑張った。

 エルリンはダンスが苦手だった。

 だが、人気は真ん中より下といったところで止まったままだった。

(人気が出るのは愛想の良い子ばかり。私に、あんなに自然に男に媚びることなんて出来ない)

 二年が過ぎた頃から、そう思い始めた。


 エルリンはグループを卒業した。

 町に戻って来た。何もする気になれなくて、家でごろごろしていると、「家でごろごろしているのなら、買い物に行って来てよ」と母親に頼まれた。

「嫌。外に出たくない」

 アイドルになれなくて帰って来てしまった。知り合いと顔を合わすのが嫌だった。

「だ~れも、あなたのことなんか気にしていないわよ」

 流石、母親だ。エルリンのこと、よく分かっている。

「気にしてなんて欲しくない」

「良い年こいて、ぶらぶらしていないでよ。うちに、あんたを養って行けるほど余裕がないこと、分かってるでしょう。働け、働け」

「ふん。こっちだって少しは蓄えがあるのよ。欲しければあげる」

「あんた、いっつも、そうやってふくれっ面しているから、男の子に人気がないのよ」

 痛いところを突かれた。

「ほら、外の空気を吸って来なさい」と家から追い出されてしまった。

 どうせ買い物なんて口実だ。人の多いスーパーなんて御免だ。いつしかエルリンの足は神社に向かっていた。

 鬼切神社についた。

 懐かしい。変わっていない。ここでショーゴと会った。ここでショーゴが背中を押してくれた。ショーゴと会いたかった。町へ戻って来て、一番に会いたかったのがショーゴだ。いや、東京でアイドルを夢見て頑張っている時、つらいことがあると、何時もショーゴのことを考えていた。

「俺、エルリンが何時、戻っても良いように、待っているよ」

 そう言ってくれた。あの言葉が支えだった。

 だけど、アイドルになれなかった。今更、ショーゴに、バンドのメンバーに合わす顔がなかった。

 そう言えば、あの時のおみくじを今でも持っていた。残念ながら願いごとはかなわなかった。おみくじをおみくじ掛けに結んで、新しいおみくじを引いた。

 また「吉」だった。

 待ち人のところを見た。


――隣にいる。


 と書いてあった。隣にいる?

 隣を向くと、ショーゴが立っていた。

「ショーゴ・・・」

「エルリン、戻って来ていたのは知っていたよ。何故、連絡をくれなかったんだい?」

「だって、私・・・アイドルになれなかったから・・・」

「何、言っているんだい。エルリンはアイドルとしてデビューして、二年も頑張ったじゃないか。町のみんな、エルリンのこと、応援していたよ。勿論、俺たちだって」

「そんな・・・端っこで踊っていただけなのに・・・」

「それで、次の仕事、もう決まっているの? エルリンみたいな有名人だと、引く手あまただろう」

「ううん。決まってない」

「本当⁉ じゃあ、うちに、ラストキスに戻って来ない? うちのバンド、やっとデビューが決まったんだ。東京に行って、エルリンに会うんだって、みな、張り切っていた。エルリンが帰って来てくれるなら、大歓迎だよ」

「いいの? 私が戻っても」

「いいに決まっているじゃないか。エルリンみたいな有名人が加わってくれると売り込みやすくなるよ。さあ、神社にお参りしよう。僕らの門出が素晴らしいものになるように祈ろう」

「うん」

 こうしてエルリンのバンド復帰が決まった。

「お帰り~」、「やっと帰って来たか。連絡くらいしろよ」

 ニッタもサンクスも満面の笑顔で出迎えてくれた。

 エルリンの加入を受け、「フロントマンは元アイドル」としてバンドはメディアに取り上げられることが多くなった。三年前と比べ、ショーゴのつくった楽曲は格段の進歩をしていた。

 バンドはあっという間に人気になった。

 アイドルになろうと苦労したことは、結果的に、バンドが売れる為の布石になった。

 初の全国ツアーが決まった時、エルリンはショーゴと、あの鬼切神社にお礼参りに行った。

 神社にお参りを済ませて、二人でおみくじを引いた。

 二人共、「吉」だった。

 エルリンは恋愛のところを見た。


――告白しろ。


 と書いてあった。

「あの」とエルリンが言うと、同時に「話があるんだ」とショーゴが言った。

「何?」

「俺、ずっと・・・」ショーゴが言い淀む。

 エルリンが聞いた。「ねえ。おみくじ、恋愛のところ、何て書いてあったの?」

「告白しろって」

「私もよ」

最初に頭に浮かんだのが「隣にいる」というオチでした。

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