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鬼切神社の御御籤  作者: 西季幽司
エルリンとショーゴの話
1/11

親しき者の言葉に従え

「鬼切神社」の不思議なおみくじを巡るミニ・ショートショート集です。

 エルリンは迷っていた。

 名前は琉璃(るり)、エルリンは自分でつけた愛称だ。

 高校生だが、学業よりもバンド「ラストキス」のボーカルとしての活動に力を入れている。母親は「あんたは私に似て、頭、悪いから、バンドでも何でも、好きなことやったら良い。グレて犯罪者になるより、ずっとまし」と励ましにもならないことを言ってくれる。

「ラストキス」はリードギターでバンドの楽曲を作詞、作曲しているショーゴを中心に、ベースのニッタ、ドラムのサンクス、そしてキーボード兼ボーカルのエルリンの四人で構成されている。

 ドラムのサンクスとは同級生だ。同級生でカラオケに行った時、エルリンの歌声を聞いたサンクスがひとつ上のショーゴに紹介してバンド入りが決まった。

「エルリンの歌って、心に響くよね」とショーゴが言ってくれた。

 裕福な家庭ではなかったので、幼い頃からピアノを習っていた訳ではない。ボーカルとしてバンドに参加することになった時、「何か楽器を演奏したい」とショーゴに頼んで、キーボードを教えてもらった。

「なかなか筋が良いよ」とショーゴは嫌な顔ひとつせずに、エルリンの練習に付き合ってくれた。練習の時、エルリンはショーゴの横顔ばかり見ていた。

 高校生バンドだ。路上ライブが中心だが、たまにコンテストに参加したり、ライブハウスに出たりする。評判は上々で、将来は有望と言われていた。

 そんなエルリンに、人生を左右するような大事件が勃発した。

 母親が勝手に送ったアイドル・グループの書類審査に受かったのだ。国民的と言われる女性ばかりのアイドル・グループが新規メンバーを募集しており、一次予選が書類審査で、書類審査に受かるとメンバーを決定するオーディションに参加できることになっていた。

「何、勝手なことしているのよ!」と文句を言うと、「あら、あなた、私に似て可愛いから、きっと受かるわよ。私がね~もうちょっと若かったら、自分で応募するんだけどね」とさらりと受け流された。

(アイドル・グループか・・・)

 考えてもいなかったが、興味があった。

 バンドのメンバーには内緒でオーディションを受けた。受かるとは思っていなかった。落ちたらみっともないと黙っていた。

 全国から五千人の女の子がオーディションに参加し、四度の審査を経て最終審査に合格したものがアイドル・グループの研修生になれる。

 とても無理だと思っていたが、最終オーディションに残り、合格してしまった。

 決め手はエルリンの歌声だった。「伸びのある歌声はソロでもやって行ける」と審査員に太鼓判を押された。

 エルリンはアイドル・グループの研修生となった。

 オーディションに合格したのは七名、今後は七名で切磋琢磨してメンバー入りを目指すことになる。

 エルリンは迷った。

 研修生になるということは、町を出て、東京に引っ越すことになる。このままバンドを止めて良いのか。このままショーゴたちと別れてしまって良いのか。胸が締め付けられるような気持ちだった。アイドルになりたかった訳ではない。バンドがエルリンの夢になっていた。だけど・・・

 エルリンはショーゴに相談してみようと思った。

「話がある」とショーゴに言うと、「分かった。放課後、神社で会おう」と言われた。

 山裾に神社があった。

 町の守り神だ。「鬼切神社」という名前だった。昔々、神社のある山に巣くっていた鬼たちを源頼信という武将が退治したという伝説があった。鬼を斬るで「鬼斬り神社」と呼ばれたものが、現在の「鬼切神社」になったようだ。

 その「おにぎり」という名前から「お結び」を連想し、「お結び」から縁結びを連想することから、昨今では縁結びの神様として有名になった。

 神社に着いた。ショーゴはまだ来ていなかった。

 手持無沙汰だったので、おみくじを買った。おみくじを買うのはお正月以来だ。

「吉」だった。

(まあまあかな)

 願いごとを見る。


――親しき者の言葉に従え。


 と書いてあった。

(そうしよう)と思った。

 今からショーゴにアイドル・グループのオーディションを受けたこと。そして、オーディションに受かって研修生になったことを伝えるつもりだ。

 その上で、ショーゴに「お前に抜けられたら困る。バンドに残ってくれ」と言われたら、バンドに残ろうと思った。

「おみくじかい?」

 いつの間にかショーゴが背後に立っていた。

 エルリンは飛び上がった。「止めてよ。驚かさないで」

「ごめん、ごめん。なんだか一生懸命、読んでいたから」

「うん」とエルリンが頷くと、ショーゴが言った。「オーディション、受かった――んだろう?」

「知っていたの?」

「ううん。エルリンがオーディションを受けていることは、みんな、何となく気がついていたかな。エルリンのことだから、受かったんだろうなあって思っただけ」

「そんな風に思ってくれていたんだ」

 嬉しかった。ショーゴのことが好きだということを思い知らされた。

「俺たち、ずっとエルリンのこと、応援しているから。俺、何があってもエルリンの味方だから。俺たち、この町で頑張るよ。だからエルリン、東京に行っても、俺たちのこと、忘れないで頑張ってくれよ」

 ショーゴが背中を押してくれた。

「もしダメだったら・・・」

「大丈夫さ。エルリンなら。俺、エルリンが何時、戻っても良いように、待っているよ」

「うん」と頷いた時、エルリンの両目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。

「あれっ? なんで泣いてるんだろう」

「そうだよ。これから輝かしい未来に向けて旅立つんだろう」

 決意が固まった。東京へ行こう。そして、アイドルになる。

 旅立ちの日、駅までバンドのメンバーが見送りに来てくれた。

「頑張れ!」、「応援してるぞ」、「たまには連絡くれよ」、「良かったらメンバーの子、紹介してくれ~」

 そう言いながら、バンドのメンバーが笑顔で見送ってくれた。

 列車が動き出す。

 流石に、もう我慢できなかった。

「ええ~ん」エルリンは声を上げて泣いた。

「泣くなよ~!」、「らしくないぞ~!」

 バンドのメンバーに冷やかされた。

 もうショーゴに会えないかもと思うと、それが悲しかった。

 一人になって、ふとおみくじのことを思い出した。鬼切神社で買ったおみくじは大切に持っている。

 恋愛のところを見た。


――時間はかかるが成就する。


 と書いてあった。

鬼切~おにぎり~お結び~縁結びとひらめいた時には、我ながら「う~ん」とうなってしまいました。

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