その1 第七話 唐揚げ飽きました
第七話 唐揚げ飽きました
先日、犬飼真希と2人麻雀をした日の帰り際、連絡先を交換する流れになった。
俺の方はこんな美人に連絡先聞くとかもちろん出来ないが犬飼さんの方から「ねえ、連絡先交換してよ」と言われれば話は別だ。そういうことなら「はいよろこんで」てなもんです。
「プッ! なにそれ。嬉しいの?」と笑われたが、そりゃ嬉しいに決まってる。自慢じゃないがおれのケータイに登録されてる異性なんて家族しかいないんだから。奥手すぎないかって? いや、そんなつもりも無いんだがな、けど連絡先交換ってちょっとハードル高くないか?
そう言えばあやのさんは「マキのこと気に入ったならもらってやって」と言っていたが、本気の話だろうか。
だとしたら全然オッケーというか。むしろありがたい話だ。
たしかに、犬飼真希の年齢を考えると出産は難しいので子供は望めない。それは俺の両親はがっかりするかもしれないが、そもそも結婚相手がいない俺だ、交際相手を見つけたらそれだけで大いなる躍進と言えないだろうか。
いや、その『交際相手』というものになれると思い込むのは大変危険だ。「もらってやって」と言っていたのはあくまであやのさんであり犬飼さんの言葉ではない。
犬飼さんの年齢は45歳だ。26歳の俺なんかと付き合う気は全く無いという可能性は大だ。
そもそも、俺のことは何歳くらいだと思ってるのだろうか。よく考えてみたら年齢を言った記憶がない。
(え、おれは何歳くらいに見えてんだ……?)
「ま、どうでもいいか! それよりも……」
そう、それよりも。だ。俺はあやの食堂でメシを食べ始めてからというもの美味いものを食べるということに興味がわいていた。それもこれもあの食堂の唐揚げが美味しすぎたから。
どうしたら唐揚げであれほど差を出せるのだろうか。
今は便利な時代だ。ケータイで検索すれば様々な美味しい唐揚げの作り方が出てくる。手始めに一番上に出てきたレシピを参考に必要な買い物をして忠実に実行してみた。
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「……違うな……」
美味いけど、この程度の唐揚げはどこにでもある。
真剣に作ったつもりだが、俺の作るものじゃ結局この程度か。と思いつつも、納得もした。
「唐揚げでこれじゃ油淋鶏なんか出来る気がしないな。やっぱりプロは凄えや」
そう納得しつつも、それでもいつか自分もと思ってその後も色々なレシピを読んでレシピ通りを再現したがあやのさんの作る唐揚げとは全く違うものになる。
唐揚げ作りの答えにたどり着く前に唐揚げの食いすぎで気持ち悪くなってきた。
「う、飽きてきた。料理の研究をひとりでやるってのはこういうことなのか。きついな……」
漫画とかでよく見る。隣のお姉さんが「作りすぎちゃったの」というやつは創作による作り話ではなく、もしかしたら料理の研究をしてるのかもしれないな、と思った。