その1 第六話 キンキンのコーラと2人麻雀
第六話 キンキンのコーラと2人麻雀
話しの流れでたまたま知ることになったのだが、犬飼真希は意外にも45歳だった。全然そんな風に見えない。
「驚いた! あと15くらいは簡単にサバを読めるよ」と本音を言ったら「ヤダー。そんなの無理に決まってるじゃない。お上手ねぇ! もっと言って!」と、たちまち気に入られてしまった。
本当にそう思ったのだが。女性の年齢は分からないなぁ。
余裕で恋愛対象として見れる健康的な美しさだが、彼女から見たら俺はお子様で対象外なのかもしれない。19も違うもんな。下手したら親子まであるよ。
「マキはこう見えて独身のバツなしなのよ。イヌイさん、もし気に入ったならもらってあげてね」
「えっ? それホント? おかしいじゃん、こんな綺麗でスタイルもいい人が独身バツなしなんて。なんか罠ないそれ?」と言ったら「罠なんかないよ。おかしいよねえ。私自身がそれを一番感じてるよ。なんでだろねえ」と言って犬飼さんはただでさえ下がってる眉をさらに下げた。吊り目が眉を下げるのって何かかわいいなと思った。親子ほども年齢が離れた女性だとは到底思えない。
卓が稼働していない店内は静かだった。彼女たちと俺しかいない。BGMである牌の音が聞こえないと本当に静かだ。
「何か飲み物でも入れようか。私がおごるよ」と犬飼さんは言ったが、おごられる理由がない。
「いえ、むしろ俺がおごりますよ」
「え、なんで?」
「これから麻雀を教えてもらうから。少ないけど、授業料です」
「あ……そ。真面目ね。そういうことなら、コーラでもおごってもらおうかな」
「すいませーん。コーラ2つ下さい」と注文をすると
「あら、私の分はおごってくれないの?」と、いたずらっぽい顔であやのさんが言う。
「おごるもなにも、この店の店主はあやのさんでしょ。勝手に好きなの飲めばいいじゃん」
「バレたか」
あやのさんは冷蔵庫から2リットルのコーラを取り出し泡立たないようにグラスを斜めにして
トクトクトク
と上手に注ぐと別の冷蔵庫の冷凍室を開けて大きなバットに張ってある氷をアイスピックで砕いた。
適当な大きさに砕けたそれをコーラにポトリ、ポトリと2つずつ入れる。
「はい、コーラです。お待たせしました」
「ありがとう。じゃ、イヌイくん。コーラごちそうになるね」
「どうぞ」
キンキンに冷えたコーラがうまい。
「おし、じゃあ2人麻雀でもしてアイツらが来るまで時間潰してよっか。ついでに実践で教えてあげっからさ」
「はい。ありがとうございます」
とは言っていたが、いつものメンツは結局来なかったし犬飼さんは俺と普通に遊ぶだけだった。
「まあ、毎回約束して集まるわけじゃないしね。ていうか、ろくに麻雀教えなかったね。ゴメン」
「いえいえ。楽しかったですよ、2人麻雀も」
「そ。楽しめたなら良かったけど」
犬飼さんはどうやら人に麻雀を教えたりするのは得意ではなかったらしい。でも、この時間も最高に楽しくて。今日もここに来て良かったなって思える。そんな一日だった。