その1 第二話 初めての麻雀
第二話 初めての麻雀
商店街を後にして数歩進んだところで、俺はふと立ち止まり、スマホで時間を確認した。さっきの『あやの食堂』のことが頭に浮かぶ。全自動卓のジャラジャラという音、唐揚げの香り、美人店主『あやの』の少し低めの声。あの店、妙な魅力がたくさんあるな。
日曜の昼下がり、商店街は人影もまばらで、シャッターが下りた店が目立つ。それでも、どこか懐かしい空気が漂っていて、都会の喧騒に慣れた俺にはそれもまた心地よくて(『満たされる』とはこう言うことだろうな)なんて思った。
◆◇◆◇
翌週の土曜日、仕事が一段落した俺は、なんとなくまた足をあやの食堂に向けていた。実はここにまた来るつもりでこの1週間は本や動画で自分なりに麻雀を勉強していた。
暖簾をくぐりガラガラガラと扉を開けると、またあの油の香りが鼻をくすぐる。カウンターの向こうでは、先週と同じくあやのが黙々と鍋を振っていた。
「こんにちは」
「あ、いらっしゃいませ。ちゃんとまた来てくれたのね。嬉しいわ」と、彼女が軽く笑みを浮かべて言う。
「唐揚げ定食、ご飯大盛りで」と注文しながら、店内を見回した。奥の全自動麻雀卓には、またあの4人——若い男性、年配の女性、30代くらいの女性、中年男性が陣取っていて、牌がシャーッと配られる音が響いている。
「ポン」
「リーチです」
4人は勝負に夢中でこちらのことなど気付いてもいないようだった。
「はい、唐揚げ定食ご飯大盛り。お待たせしました」と、あやのが皿を置く。こんがり唐揚げと山盛りのご飯。見るからに美味そうだ。
一口頬張ると、カリッとジューシーな味わいが広がり、やっぱり抜群に美味い。黙々と食べてると、麻雀卓から声が飛んできた。
「お、兄ちゃん! また来たのか。今度こそ一局どうだ?」
先週と同じ中年男性がニヤッと笑いながらこっちを見てる。俺は唐揚げを飲み込んで答えた。
「いいですよ。少し勉強してきましたから」
最後の一口をかっ込んで水を飲むと俺は500円を置いた「ごちそうさま!」
「おお、勉強してきたのか! えらいな。よおし! みんな、新入りだ。誰か休憩するか? みんなやるならおれが抜けるが」
全員まだ休憩するつもりはないようだ中年男が抜け番になる。
「よし、そしたら兄ちゃんのセコンドにおれがついててやる。ただの遊びだからよ。気楽にやんな」
「ありがとうございます」
「おれは『メタ』だ。よろしくな兄ちゃん」
「乾です。よろしく(メタ? それ名前なの?)」
――こうして、俺の初めての麻雀が今始まった。