【第9話】足手まといがいなければ、私は殺されていただろうに。
「英断かな?」
「お前の技リスク高すぎんだよソビア」
「そこまで勇気あるなんて、こっちも本気出さなきゃいけないやつ?」
「何年一緒だと思ってる?使う技はバレっバレよ」
彼が使う技の傾向には偏りがある。そんなことはわかっており、そしてこの状態では私はいつでも殺すことができよう。だから狙いはソビアじゃない
「うぉ」
国王が後ろに下がった所で鎖が現れ、その手足を拘束した。
「国王!」
「捉えた」
詠唱を唱えずに魔法が使える特権としては、その技を目視するまで何を使ったかが分からないこと。一定の魔術師なら、そのトラップすら簡単に見破れるだろうが、そのトラップ自体を薄い膜で覆うことにより、トラップから滲み出る魔力の最小限に抑えている。
「貴様」
「飛べるもんなら飛んでみやがれ」
「ウウウ!ヴゥ!」
「可哀想に」
ソビアの目は血走り、息は荒く、まるで理性を失った猛獣のようだった。その鎖のぶつかり合う音が耳をつんざく。冷や汗をかきながら、それでも冷静に間合いを見極める。怒り狂うソビアの攻撃を避けながら、その隙にシリウスを回収し、ソビアがその床から足を確認した。
「ア・タロク:オン」
国王の口を封じ、詠唱を唱えられないようにして、仮に干渉できたとしても、その手足の枷はそう簡単に壊せまい。
「ンゥゥゥゥ!!!!」
手に持ってた杖を取り上げ、見えるように手の届かない所まで下がる。
「喋れないねおっさん、あーこの杖のこと?どうしよっかかぁ」
「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!」
この杖がもし売れるなら、この国中の人間が一生遊んで暮らせるほどの富を得るだろう。杖というものは基本的に使用年数、埋められている魔法玉、木の材質で魔力の出力量が左右される。700年物の杖というのが、わずが60年ほどしか生きない私たちからすれば、何世代、何十世代と継承しなくてはならない。1度折ればその杖はただの棒切れとなり、魔法玉も割れて使い物にならなくなる。つまりは、その杖は魔術師にとって命よりも大事とも言える。
「ウウウウウ!!!!!」
「悪いねおっさん」
『バキッ』
「お、止まった」
さすがに杖が壊れれば魔法も使えるはずがなく、セラフィットは石のように固まった。この隙にシリウスを連れて王宮の外に移動を行った。
「オフ」
シリウスを助けるために、全てを捨てた。シリウスを助けられるなら、生まれ育った待ちを、かつての仲間も、全て捨ててやろうではないか。
「あぁ…わしの…わしの杖が…」
「国王!見てはなりません」
「杖が…」
「わしは…わしは…」
先程痛めた翼角のせいであまり早くは飛べない。追っては特にいないのでこのまま飛んでも問題は無いだろう。先程の洞穴に戻る道中、護衛や魔法少女、村民が見える範囲で全て殺されていた。さすがにくる吐き気を抑えつつ、始祖龍を殺した洞窟の最下層にたどり着いた。
「戻ってくると思いましたよ、セレスさん。」
先ほどいたシュレイドの番人と、虫のような形をした生物、130cm程の幼子がいた。
「こいつ…セレス?喰べたい」
「殺しますし、殺されますよアントン?私たちよりも遥かに強いです」
「その右腕かっこいい!!光ってる!」
さすがに動揺はしないけど、この空気はなんだろうか。
「シュレイドの番人とやら、契約してくれ、シリウスを生き返らせると」
「いいでしょう」
双方の床に魔法陣を敷き、その文字を自らの血で書かせることにより契約は成立する。
「契約を破ったらあんたの首は吹き飛ぶ仕組みだ」
「生き返らせられなかったら殺すと?期間はどのくらいですか?」
「1年は」
「無理があります、せめて5年」
「3年」
「無理です、なら4年でどうですか」
「分かりました。」
「嫌ですねぇ…まるで信用されてないみたいじゃないですか」
「まだ出会ってそこそこの奴を、どう信じればいいのか」
「それもそうですね、尽力致します。所でその腕は」
「あぁ、毒を盛られて即死になる前に切り捨てた。」
「私たちが居なかったらどうしてたんですか、あまり無理はしないでください。今治すのでこちらに、」
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