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死に戻り聖女はハッピーエンドを望まない 〜誰と結ばれても死亡エンドなので、男装して乗り切ろうと思います〜  作者: 雨野 雫


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6.もしも願いが叶うなら、もう一度あなたと


 この後ステラは、テイラーに最上級の呪魔法を放ってくる。この魔法は覚えることすら禁忌とされる即死魔法だ。


 ステラは学園でもトップ成績を収めるほど優秀な魔法使いだった。


 彼女が詠唱もなしに呪魔法を放つせいで、テイラーは防御魔法を唱える暇もなく、呆気なく死ぬ。これもプログラムされているのか、テイラーに無詠唱で防御魔法を扱えるほどの実力は備わっていなかった。


 死を覚悟して目をつむる。次に目を開けたら、またあの特徴的な木目の天井が見えるのだろう。


 ステラが呪魔法を放ち、それが近づいてくるのがわかる。もう、あと一秒の命だ。


(ああ、もし願いが叶うなら、次のループでも、またクリスに会いたい……また友達になりたい……)


 心の中でそう祈った時、「バン!!」と鼓膜が破れそうになるほどの大きな音と、凄まじい風がテイラーを襲った。


 だが、痛くない。


 目を開けても、あの特徴的な木目の天井はない。


 そこには、凛と佇むクリスの後ろ姿があった。


「ステラは本当、兄さんのことになると見境ないな。その短気な性格、いい加減直しなよ」

「ク、クリス……?」

 

 状況を察するに、クリスが無詠唱で防御魔法を展開し、テイラーを守ってくれたようだ。やはり彼女の魔法の実力は群を抜いている。


 周りの生徒たちも、目の前で起きた光景が信じられないのか、呆気に取られた様子でポカンと口を開けていた。


 それにしても、今、クリスの口調が変だったような。


 そう思った時、クリスがくるりと振り返り、テイラーの元へやってくる。静まり返った会場に、彼女のヒールの音だけがコツコツと響いていた。


 そしてクリスは片腕でテイラーの肩を抱くと、エドワードに向かってニコリと笑った。


「ごめん、兄さん。悪いけど、この子、()のなんだ」

「クリス! 僕と彼女の恋路を邪魔するのか!?」


(……今、俺って言った? というか、エドワード王子のこと兄さんって……!?)


 エドワードが何やらうるさく騒いでいるが、テイラーはそれどころではなかった。クリスの今の発言に気になる点が多すぎて、脳が思考を放棄しそうだ。


 何が何やらで思わずクリスを見上げると、彼女はハッと鼻で笑ってエドワードに言い返すところだった。


「恋路って……テイラーが女の子って今認識したばっかりでしょ? 兄さんは女なら誰でも良いわけ?」

「そんなはずないだろう! テイラーは僕の運命の相手だ。僕は今、真実の愛を見つけたんだ!」

「ハァ……馬鹿もここまでくると、もはや治療法のない病気だな」


 クリスはやれやれと両手を広げて、深い溜息をついていた。


(いや、何この展開!? ゲームのシナリオには確実になかったわよ!?)


 今の会話、そしてこの国の第一王子に対して全く敬意のない口調。クリスがエドワードの妹なのは間違いなさそうだ。


 しかし、そんな重要キャラがモブであるはずがない。そもそも、彼女の造形美が「自分は主要キャラだ」と訴えている。


 そこまで思考が及んだ時、テイラーはハッとした。


(ダウンロード、コンテンツ……)


 この乙女ゲームは、一部のニッチなファン層に刺さり、めでたくダウンロードコンテンツを発売するまでに成長した。確かそこで、二、三人ほど攻略キャラが増えている。


(ああ……! こんなことなら買っときゃ良かった……!)


 攻略キャラと結ばれてハッピーエンドからの死亡エンド、というシナリオがどうにも好きになれず、前世では購入を見送った。


 だから、クリスが本当にダウンロードコンテンツで登場するキャラクターなのか、そしてクリスルートがどういう結末になるのかは、今となっては知るよしもない。


「とにかく、僕は彼女と結婚するんだ! さあ、テイラー。こっちにおいで」


 エドワードの声で我に返ったテイラーは、無意識にクリスの腕を掴んでいた。


 怖い。


 今日を乗り越えない限り、また最初からやり直しだ。


 ふるふると震えるテイラーの手を、クリスの手がそっと包み込む。


 ハッとして見上げると、クリスはふわりと笑った。言外に「大丈夫だよ」と言ってくれている気がした。


 そしてクリスは、凄まじい殺気をエドワードに向けて睨みつける。


「兄さん。あんまり俺を怒らせないでよ。消し炭にするよ?」

「ひっ! ご、ごめんなさい……!」


 第一王子の見る影もなし。エドワードは子犬のように縮こまって、情けないことにステラの後ろにサッと隠れてしまった。ステラはステラで、クリスに魔法を防がれたことが信じられないのか、まだ呆然としている様子だ。


 クリスは大人しくなった二人を見て満足そうに頷くと、テイラーに向き直った。


「さて、と。驚かせてごめん。色々説明しなきゃね。あ、でもその前に、この格好じゃあれか」


 クリスが指をパチンと鳴らすと、その全身が美しい光に包まれた。光の粒が消えゆくにつれ、次第にその姿が露わになっていく。


 完全に光が消えた時、そこにクリスの姿はなかった。いや、女としてのクリスの姿はなかった、と言うべきか。


 そこにいたのは、白銀の短髪に青い切れ長の瞳を持つ、見目麗しい青年の姿だった。スラリと背が高く、燕尾服を見事に着こなしている。


 見た目は違えど、彼がクリスと同一人物であると、テイラーにはすぐにわかった。


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