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3.初めてのお友達


 続けざまにそう言われ、テイラーは慌てて謝罪した。


「ご、ごめん。つい見惚れてしまって」

「フフッ。正直ね」


 笑った顔は、まるで天使のように美しかった。


 もし自分が画家だったら、迷わずこの美しさを絵に表現するだろう。


 それほどまでに、心動かす何かがあった。


(何、この気持ち……)


 胸が高鳴る。こんな綺麗な子いただろうか。


 少なくとも今までのループの中では見たことがない。制服を見る限り、どうやら同学年のようだ。


 これまでは攻略キャラたちに付け回されて自由に行動できなかったから、出会うことがなかったのだろうか。それにしても、こんな目立つ子がいれば気づきそうなものだ。


(あれ……?)


 よく見ると、彼女には人避けの魔法がかかっている。テイラーはそこでようやく彼女を知らなかった理由を理解した。


「どうして人避けの魔法を?」

「へえ。見破るなんて、流石は聖女ね」


 彼女はそう言ってこちらを見ると、驚いたように目を見開いていた。


 人避けの魔法は、他人から認知されにくくする風属性の魔法で、かなりの上位魔法である。聖属性魔法しか使えないテイラーには扱えない代物だ。


 自分が彼女の存在に気づけたのは、かなり近い距離まで近づいたからだろう。


 すると彼女は、サラリと理由を述べた。


「顔に釣られた人間が寄ってきて鬱陶しいからよ」

「な、なるほど……」


 彼女が言うと説得力がある。顔が良すぎるが故に、これまで色々と苦労してきたのかもしれない。


「僕はテイラー。テイラー・アンダーソン」

「言われなくても知ってるわ」

「そ、そうか……ええと、君の名前を聞いてもいいかな?」

「クリスよ」


 口調は冷たいが、拒絶はされなかった。


 クールでとっつきにくい人物かと思いきや、案外優しい子なのかもしれない。


 少なくとも会話は続けても良さそうだ。


「あの、クリス。初対面でいきなりこんなお願いをするのは非常識だとは思うんだけど……」

「何?」

「僕にもその人避けの魔法、かけてもらうことってできないかな? 僕にはその魔法、扱えなくて」


 テイラーは思い切ってクリスにお願いをした。


 入学して一週間。女子にモテまくり、悪目立ちしてしまっている。シナリオから外れているのは良いことだが、平穏な学園生活には程遠かった。目立てば目立つほど、攻略キャラたちとの接触機会も増えるだろう。


 もしクリスに人避けの魔法をかけてもらえるなら、これほどありがたいことはなかった。


 人が密集する教室では影が薄くなる程度だろうが、それだけでも十分助かる。


「それくらい別にどうってことないけど、どうしてか理由くらいは教えてくれるかしら?」

「恥ずかしながら、毎日のように女の子たちに囲まれてしまってね。これ以上、変に目立ちたくないんだ」

「なるほど。聖女様も大変ね」


 クリスは本をぱたんと閉じると、テイラーに向かって指を一振りした。


 すると、途端に光の粒がテイラーの体を包み込み、程なくしてスッと消える。


(すごい……上位魔法を詠唱も無しに……)


 これほどの魔法の使い手なら、魔法実技の成績上位者に名を連ねていてもおかしくはない。しかし、その中にクリスという名前はなかった気がする。


 人避けの魔法はそれなりの魔力を使うはずだが、クリスは朝飯前といった様子で涼しい顔をしていた。保有する魔力量もかなりのものなのだろう。


 モブキャラにしては明らかにハイスペックすぎる彼女に、ますます興味が湧いた。


「ありがとう。とても助かったよ」

「効果が続くのは丸一日よ。毎日お昼休みに、このガゼボにいらっしゃい。かけ直してあげるから」


 クリスからの思わぬ提案に、テイラーは目を丸くした。彼女はやはり、とても親切で優しい子のようだ。


「そんな毎日いいの? 流石に面倒じゃない?」

「別に構わないわ。ただし、一人で来ること。他の人間と関わりたくないの」


(私は良いんだ)


 そう思うと、なんだか自分が彼女にとっての特別になれた気がして、思わず笑みがこぼれてしまう。もしかしたら、彼女とは良き友人になれるかもしれない。


 この世界に来てからというもの、友達らしい友達ができたことは一度もなかった。否が応でも攻略キャラたちに囲まれるため、女生徒たちは皆、テイラーと関わらないようにするか、疎ましそうな視線を向けてくるかのどちらかだったからだ。


 今回の取り巻きの令嬢たちは……友人と呼ぶには少し違うだろう。


「わかった、ありがとう。何かお礼をさせて」

「お礼?」


 クリスは顎をつまんでしばらく考え込んでいた。


 その横顔も見事な美しさだ。彼女を造形した神に感謝したい。


「そうね……あなた、料理は得意?」

「え、うん。それなりに」

「じゃあ、毎日お弁当を作ってきて。目立ちたくない者同士、ここで一緒に食べましょう」


(友達と、毎日一緒にお昼ごはん……!)


 想像するだけでワクワクする。


 前世ではよく料理をしていたし、味には問題ないだろう。学園寮には自由に使える調理場があるから、毎朝少し早起きをして、二人分のお弁当を作ろう。


 やはり、想像するだけで胸のときめきが止まらない。


 永遠に続くループの中では、死を恐れるばかりで楽しいと思えることなどほとんどなかった。こんな気持ちになるのはいつぶりだろうか。


 テイラーは、満面の笑みで答えた。


「わかった。とびきりのを作ってくるよ」

「楽しみにしているわ」


 その後、テイラーは毎日クリスと昼食を共にし、彼女に人避けの魔法をかけてもらった。


 そして、昼休みの時間にひたすらお喋りする中で、彼女のことをたくさん知った。


 好きな食べ物、好みの味、普段読んでいる本のこと。


 得意な魔法や、扱える魔法の種類について。


 やはり彼女の魔法の実力は素晴らしかった。聖女しか扱えない聖属性魔法を除き、他の全ての属性を使うことができ、保有する魔力量も国内で五本の指に入るほどだ。


 しかし、目立ちたくがない故に、学園ではその実力を隠しているのだという。座学においてもテストで常に満点を取るほど優秀だが、成績順位表には平均点あたりに名前が載るよう先生に頼んでいるらしい。


 男に言い寄られないよう、そうまでして自分の存在を隠そうとするなんて、余程過去に嫌な思いをしたのかもしれない。


 男装して攻略キャラから身を隠している自分と通じるものを感じ、テイラーはクリスに対して密かに親近感を覚えていた。


 そんな調子で毎日少しずつ彼女のことを知っていったが、一つだけ教えてくれないことがあった。


 どこのクラスに在籍しているのか。


 それだけは、いくら聞いても頑なに教えてくれなかった。彼女に会えるのはお昼休みのときだけで、それ以外の時間は校内で見かけることすらないのだ。


 違和感を覚えつつも、あまり深く聞くことはできなかった。せっかく仲良くなれたのに、その場の好奇心で彼女との関係を壊したくなかったのだ。



 そして、入学してもうすぐ一年が経とうとしていた頃。


 いつも通りクリスと昼食を取っていたところ、とうとう顔を会わせたくない人物に出くわしてしまった。


「あら? そこにいらっしゃるのはテイラー様ではありませんか」


 声をかけてきたのは、ステラだった。その隣には、金髪碧眼でスラリと背の高い、いかにも王子様顔の男がいた。


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