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君の魂を黄泉へ送るまで  作者: クロサキシン
序章 10人の生贄
3/4

第2話【2度目の人生】

「何処だよ…此処。」

 少年は1人公園で佇む。

(えっと…確か俺はあの『悪魔』と契約?をしたんだったよな…。)


 少しずつさっきまでのことを思い出してきた。

「で,俺は何をすれば……?」

 まさか本当に『悪魔』がいて,そいつと契約を交わすことになるなんて思いもしなかった。というか誰もそんなこと思いつきもしないだろう。

 それに少年は死ぬために生まれてきたから,儀式の後何をしようかなんてもちろん考えたこともない。つまりは暇である。


「はぁ……。」

 ため息をついて噴水の縁に座る。

「良いよな,水は。ただそこに在るだけで良いんだから。」

 だとか何だとか言いながら水を眺めていると反射して俺の姿まで見えてくる。

 …………“俺の姿”……?


「はぁ!?」

 少年は叫びながら勢いよく立ち上がった。周りからの視線が痛い。

 いやそんなことは今どうでも良い。


 水に反射して映った“俺の姿”は知らない人間の姿だったのである。

 矛盾しているようだが決して少年がおかしくなったわけではない。大きく開いたまま閉じない口,見開いた目はどう見ても俺と連鎖しているのに,その姿は俺ではない別の“誰か”なのだ。

 その“誰か”は短めの赤い髪で,左に大きくはねたアホ毛がありなんだか派手だが,目は漆黒で地味な顔つきだ。

 少年は急いで自分自身を見てみる。すると顔だけでなく服までもが少年が着たこともないような綺麗なものになっていた。首にリボンをネクタイみたいな形で結んでいて,短いローブのようなものを羽織っているがそれは何故か5部袖で冬をこすには寒そうだ。前が開いたローブからはズボンの腰回りの端にまた結んであるリボンが見えていた。


「いやいやいや,誰!?」

 もう1度少年は水に顔を近づける。が,少年の顔に変化はなく,少年は少年の知らない人間のままだ。周りの人たちはもはや怖がっていて,好奇心旺盛な子どもたちを母親が守っている姿さえも見える。ごめんね。

 というかこの叫んだ声さえ元の元の少年の声とは違う。



 何度も自分を見返して,もうこれが現実なのだと,受け入れるしかないのだと少年は悟り,大きく倒れ込んだ。噴水の縁からちらりと反射した自分の顔を見つめる。

「……ん?何だ,これ?」

 少年は右頬に黒い何かがついているのを見つけた。菱形のような,十字架のような形だ。さすってみるが取れそうにない。


「あぁもう。何にもわかんねーよ。」


 そう呟いたときだった。


「……っ!?」

 急に心臓がドクンとはねる。右頬が,あの黒い菱形が付いていた場所が,焼けるように熱い。

 少年は反射的に立ち上がり,周りを見渡した。


 するとグラグラした視界の中,1人の怯えた顔をした少女と目が合う。と,同時にその少女が何やら魔法を打ってきた。少年はなす術もないまま魔法をモロに受け,せっかく立ったのにまた倒れる。


「いてぇ…。」


 腹が痛い。めちゃくちゃ痛い。手でおさえようとしたらグニャっとした感触が広がる。気持ち悪い。


 (あぁでもこの感じ…なんだか懐かしくて良いかも……。)


 と,新たな扉が開きかけたところで少年は意識を失った。



 ─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎



「え?」


「…え?」


 意識が戻って最初に聞いた声があまりにも素っ頓狂な声だったので,思わず少年も素っ頓狂な声を出してしまった。


「え?え?ええ?」


 その声の主はまだ素っ頓狂な声を出し続けている。

 というか,この声の主,何処かで見たような……?


「もう死んだの!?はっっっっや」


 …ん?


「はぁ!?俺,死んだの?」

「え!?あ,うん。ここに来たんなら死んだんじゃない?」


 それはなんというか…


「はやっっっ!」

「いやうん。速すぎ。」


 いやに冷静なツッコミと共に少年は自分の死を知る。が,実感は湧いていないし,そもそも何も状況を飲み込めていない。


 とりあえず声の主をジロジロ見てみると,少年はあることに気がついた。


「ん?お前…俺?」

 声の主はさっき公園の噴水で見た自分の姿と,とても似ていた。正確には,髪が黒色で目が赤色,アホ毛が右に大きくはねている,黒い菱形が無いという点で違うのだが,そこ以外は全てそっくりそのままさっき見た自分のままで,声も今の少年の声と同じように聞こえる。


「あぁ,えーっと,俺がお前じゃなくて,お前が俺っていうか……。」

 (それって同じじゃないのか?)

 ジーッとごちゃごちゃ言ってる俺2号を見ていたら


「と,に,か,く!!」

 急に大声を出すもんだからびっくりした。


「ここは死後の世界。俺はお前と『契約』した悪魔だ。お前は今魂だけの存在で,俺の肉体を借りている状況だ。」

 じゃあ,あの『儀式』の時点で俺の肉体は死んでいて,今は悪魔と『契約』し,その悪魔の肉体を借りているのか…。……待て。悪魔の肉体って何だよ。こんな人間らしくてたまるか。

「確かに,悪魔の肉体というよりも,悪魔の仮の姿と言った方が正しいかもな。」

 …こいつ,心を読みやがる。


「それで?俺また死んだみたいだけど,どうすれば良いの?」

 魂はまだ生きている,ということなんだろうが再び肉体が死んだ以上,少年は何もできない。


「それがな…。」

 フッフッフと俺2号がドヤ顔をする。

「なんとラッキー。お前が俺との『契約』で授かった能力は『死生』でした〜。」

 この口調,このドヤ顔のわりに声のトーンが低いのでなんだかとってもムカつく。


 んなことより

「『死生』って何だよ。」

「んー。簡単に言うと死に戻り?死んでもキリが良かったタイミングに蘇生出来る。」

 すごい能力だな…。


「でもそれって,俺もう2度と死なないってこと!?」

「いや,人ならざる者の力で消されたら蘇れない。」

「人ならざる者にって…死に戻りが出来ても俺は人ならざる者より弱ぇのかよ。」

「そうだね。人ならざる者っていうのは,俺みたいな悪魔とか,天使,神あたりのレベルだから。『死生』1つ持ってるぐらいでそのレベルには到底辿り着けない。」


 『死生』1つぐらい…。これヤバい能力だと思ったけど,こんな感じのがまだまだいっぱいあるってこと…なんだよな?怖。

 ってことはあれ?俺2号が俺殺す可能性もあると??

「残念ながら『契約』を交わした相手を殺すことは出来ないんだよな。」

 残念ながらって何だ。


「それで?その『死生』ってどうやって使うんだ?」

「それなら,あそこの妙に光ってるゲートを通れば良い。現実世界へ戻してくれる。」


 なるほど。実はさっきからあのゲート気になってたんだよな。


 とりあえず少年はゲートに向かって歩き始める。ゲートにたどり着いたとき,ふと俺2号の方へ振り返ってみると,俺2号は何かの本を読み始めていた。どうやら少年にもう興味は無いらしい。


 少年はため息をついてゲートへ向き直る。光っているのに,眩しく無い。不思議なゲートだ。

 そして少年はゲートをくぐった。



─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎─︎



目が覚めたとき,そこは最初にいた公園だった。

あけましておめでとうございます。

ご精読ありがとうございます。評価していただけると嬉しいです。

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