第六章 アイドル登場
青木さんが入院してから3日が経った。
実に濃いぃ三日間。
勿論あれから戦犯 青木老人への監視は強化された。
そして4日め。
空いていたもう一つのベッドに新しいメンバーが入った。
これがその後、思わぬ展開の幕開けに繋がる。
患者さんの名は「山口 将」という大学1年生。
部活動(相撲部)で膝の半月板を損傷してしまい、
二日後には内視鏡を使ってのオペが予定されている。
この子がとにかく可愛いのだ。
元大関 貴景勝そっくり。
色白で、まるで動く博多人形のよう。
しかも礼儀正しくて、賢い。
入院してすぐに看護師全員が虜になった。
山口君をかまおうと、用も無いのに皆やたら部屋に出入りし、
312号室は俄然賑やかになった。
青木さんひとりの時は避けていたくせに・・・
凄かったのは、オペ前の導尿を誰がやるかでもめた時だ。
本気の喧嘩になりそうな勢いだったので、見かねた師長があみだくじを作った。
驚いたことに師長もちゃっかりくじに参加し、
見事に権利を勝ち取ってしまった。
八百長かも・・・賭場のやくざ並みだ。
まあ師長はテクニシャンだし、
山口君にとってはこれで良かったのかもしれない。
明後日のオペを控えた山口君は、病室で大人しく本を読んだり
パソコンを開き勉強したりしていた。
本当に真面目ないい子だ。
一方 青木老人は相変わらず私を「ぽーく」呼ばわりし
バイタルの測定時には、ファイティングポーズをとって
血圧や体温を計らせてくれない。
特に今日は朝から好戦的で、一度もデータが取れないので
看護日誌に空欄が目立つ。
困り果てた私は佐藤さんに泣きついた。
夜勤明けにも関わらず、佐藤さんは笑いながら付き合ってくれた。
二人で312号室に入ると、青木老人はサッと寝たふりをした。
「あららー あ・お・き さーん。寝てらっしゃるのかなー?」
と佐藤さんが呼びかけると
「はい」
と青木老人は返事をし、隣のベッドの山口君が ぶふっ!と噴き出した。
「あのね、青木さん。よく聞いてね。
この看護師さんはね(私の事)小和田 愛子さんというの。
わかるでしょう?天皇家の遠縁にあたる方なのよ。
青木さんが治療に協力してくれないなら
陛下にご注進しなくてはならないわねぇ」
私はびっくりした。 よくまあこんだけの嘘を平気で言えるもんだ。
そりゃあ皇室大好きな母と、かなり右に傾いてる父が、
雅子様の子と同日に生まれた私に愛子と名付けはしたが、
陛下とそれほど親しい付き合いをした覚えはない。
無い、、、がこれは効果抜群だった。
次の日から青木老人は素直に腕を差し出し、体温を計らせ
聞いてもいないのに
「大便2回。小便5回であります」
と申告してきた。
恐るべし佐藤卓子。
佐藤看護師、一流の技で青木老人をコントロール