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第五章 進撃の老人


床を拭き上げ、立ち上がってベッドを見ると

青木老人の姿は忽然と消えていた。

え?え?

パニックになった私は、慌ててナースボタンを押した。

直ぐに師長と主任が駆けつけてくれたので、手短に事情を話した。


「大丈夫よ、愛子ちゃん。入院着のままだし、

そんなに遠くまでは歩けない筈だから

『おおごと』にしないで私達で探しましょう」

・・・甘かった、、、

もう既に『おおごと』は始まっていたのである。

他の患者さんに悟られないよう、病棟、待合室、ホール、外来、売店 

と手分けして必死で探し回ったが、青木老人の痕跡すら掴めない。

失踪してからもう一時間は経つ。

どうしよう、どうしよう、もし外へ出て転んだりしたら大変な事になる。

道路で車にはねられたりするかもしれない。

師長と主任も流石に焦り始め、

コール99をかけてもらおうかと話しあっている。

(コール99とは緊急を要する時に全館内に放送し

職員の協力を要請する院内の隠語である)

走り回ってかいた汗とは違う冷たい汗が背中を伝う。

そうか、三枝さんは今の私と同じ

看護師なりたての5年前にこういう思いをしたのだ。

青木さーん、どこに居るの?

お相撲でもなんでもするから、返事してくださーい。

私は泣きそうになりながら、青木老人の姿を求めた( ;∀;)


結果的にクソじじいは、院内にいた・・・ 有り得ない場所に。

お手柄は件の三枝さん。

顛末はこうだ。

私が一生懸命 床の清掃に励んで目を離した隙をみて

青木老人は堀の脱ぎ捨てていった白衣に着替え脱走。

なんと職員食堂でB定食を召し上がっていやがった。

(因みにB定食は一番高い)

職員食堂は、IDカードで食事を注文・決済できる仕組みになっている。

ポケットに入っていた堀のカードを使い、

ジジイはただ飯を食っていたのだ。

その姿があまりに堂々としていたので、

周りの人達も不審に思わなかったらしい。

やればできる子なんじゃないのー 偉いぞ青木くん。

いや違った、ジジイそれ普通に犯罪だかんな。

勿論そのあと、私は堀にこっぴどく叱られた。

元はと言えばこいつの不手際が原因なのに理不尽である。

口をパクパクしながら音声を発してるなーと堀を見ていたら

ふいに三枝さんの言ったことが頭に浮かんでしまい

不覚にも落涙してしまった。

涙をこぼした私を見て堀は

「まったくもう!これだから女は嫌なんだよ!

泣けば済むってもんじゃないからな。

今回は大目にみるけど、次は気をつけろよな」

と言い捨てて行ってしまった。

どうやら女の涙には弱いらしい。

また何かトラブったらこいつにはこの手でいこうと学習した。

三枝さんがジジイを拿捕したキーワードは

これまたマリーアントワネット。

食事を終えた青木老人が食器の返却口に向かう後ろ姿に

妙な違和感を覚えた三枝さんが医師では無いと気づいたのだ。

「だってね、脛が丸出しなのよ、な・ま・あ・し。

ズボン履いてないんだから。 そんで何よりおかしかったのは、腰。

コルセットの装着がへたくそなせいで

白衣が可愛らしく ふくらんでるのよー。

マリーアントワネットかと思ったわよ。あはははは」


怒られている最中にそれを思い出してしまい

じじいのカワイイふんわり白衣姿が頭に浮かんだのだ。

吹き出しそうになるのを堪えていたら涙が流れてしまった。

そんだけー 笑

青木老人の洗礼を思いっきり浴びた愛子ちゃん

でも案外楽しんでる?

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