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第四章 青木覚醒 第二形態突入す!


夜勤からの休みも明け、きょうから3日連続の日勤に入る。

その日は雲が低く、今にも泣きだしそうな朝だったが、

よもや私自身が泣く事になろうとは…


いつもの通り朝の引き継ぎを終え、

通常の作業に入った。

佐藤さんは三枝さんの代わりに夜勤担当だった為、

日中は私がひとりで青木さんのお世話をすることになった。

若干のプレッシャーはあったものの、

佐藤さんの当直の日を境に

不思議と青木老人は模範囚になり、

腰の痛みのせいか、それともドクターに言われたせいか

あまり歩くこともせずベッドでおとなしくしている。

あ、そうだ。

たしかきょうは一昨日型取りした腰のコルセットが出来上がる日だった。

私には初めての装着介助となるので、少し不安。

上手くできるかなぁ。


青木さんのコルセットは朝イチで届いた。

流石 整形外科。

整形外科部長である和田先生は

テレビにも出演するくらい腕が良く、知名度も高いし

他の科に比べ営業成績も抜群にいいのだ。

当院内ヒエラルキーの頂点がこの科。

整形外科の意見は絶対。

つまりハッキリ言うと、威張っている。

整形外科の指令は最速、最短で叶えなければならない。

通常4日はかかるコルセットも2日で仕上がるお代官ぶりだ。


「小和田、手ぇ貸して」


くそ生意気な堀が私を呼んだ。

堀は今年2年目の研修医。

何を勘違いしたのか、整形外科に入ったとたんに

自分まで腕のいいドクターになった気でいるらしく

我々看護師に威張り散らし呼び捨てにする。

なので私達は陰で堀を「スカ」とか「越後屋」と呼んでいる。

「スカ」はヤツが「はずれ」そのまんまの意味だが

「越後屋」というのは三枝さんがつけたあだ名だ。

三枝さんは可愛い容姿を武器に、人の懐にするりと入るのが上手く、

私は密かに 「くノ一」と呼び その情報収集能力にかなりの信頼を寄せている。

三枝さんによると、

堀はもともと この病院の研修医採用に一次では落ちていたらしい。

が、当病院長の沖島先生の大学の先輩医師が堀の祖父で

(こちらは大学病院の教授)

そのじーさまが沖島先生の自宅まで来て

孫の面倒をお願いしたらしい。

三枝さん曰く


「お金が大好きな医者同士がさ、手ぶらで頼み事って無いっしょ。

お代官様そこをひとつ・・・越後屋おまえもワルよのぅ ぐえっへっへ、

とか言ったんじゃないの」


休憩室でお茶を飲んでいたナース全員が噴き出しそうになった。

カス越後屋の爆誕である。

採用合格のいきさつを本人は知らないらしい。

幸せなヤツ。

堀は 頭悪い、腕悪い、性格悪い、と三拍子揃っているが

なぜか見た目はそこそこなのである。

しかもお金が大好き。

※ のちにヤツは整形外科になりそこない、美容外科の道にすすむ。

自分の顏をも改造し、まあまあのイケメンになった堀は

金への執着力を遺憾なく発揮し、

綺麗になりたい女達を次々と騙し医療裁判を起こされ係争中。

いい気味だ。


越後屋と私が、312号室に入ると

青木さんはベッドの上に置きもののようにちょこんと正座していた。

どうやらコルセットを楽しみにしているらしい。

高齢者になるほど、骨が形成されるのに時間がかかる為

青木さんは部屋のトイレに立つ以外は禁止されていた。

コルセットをつければ、廊下を散歩するくらいの事は許されるのだ。

このじーさん、そのへんの事を全部理解しているようだ。

こいつめーと私がじっと青木さんを睨んでいると


「小和田!ぼーっとしてんじゃねーよ。青木さんの腰支えろよ!」


と堀医師がコルセットを手に苦戦していた。

青木さんがなかなか腰をあげてくれないので

コルセットの装着に苦労している。

男のくせに、こいつは力もないのか。

「は、はい。すみません」

私はそう言うと仰向けになった青木さんの腰をクイッと持ち上げた。

ボロン。。。

なんか出たゾ。

こんにちは!アオキくんでしたかー。

青木さんの息子との初めての出会い♡

私は急いで堀の目に留まらぬよう素早く息子を隠してあげた。


「ちょっと何やってんのアンタ!しっかり支えててよ」


今度はアンタ呼ばわりか。

こっちは息子さんの保護で忙しいんだよ。

と体を支えようとすると、またまた息子がポロリンと顔を出す。

なかなかお茶目な息子さんなのである。

二度三度と繰り返し、堀に叱られながらも

漸くコルセットを巻くことができた。

今度はコルセットの紐の調整だ。


「よいしょっと」


非力な堀の代わりに青木さんをベッドの脇に立たせてあげると、

青木さんは


「ポークわっはっは」


となぜか高笑いし、私の腹を両手でむんずと掴んできた。

おっ、やるのか?はっけよい のこったのこった・・・

って 相撲じゃねーよ!

モーレツにムカついたが、佐藤さんの教えを思い出し、スルーした。

えらいぞ 私。

微調整は医者である堀がやる決まりなので、

私は一歩引いて後ろから、悪戦苦闘している堀を冷ややかに眺めていた。


ついに青木老人が目覚めた

危機の予感がプンプン・・・笑

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