第三章 佐藤さんの(表)
それにしても佐藤さんは何でも把握していて
本当にスゴいと思う。
これで独身、仕事一本槍なら何となく納得できるが、
実は四人の子持ちなのだ。
旦那さんはいったいどんな人なんだろう、
何をしている人なんだろうと、
私はものすごーく知りたかったが、
佐藤さんはいつもはぐらかして
ちゃんと教えてはくれないのだった。
ただ佐藤さんが以前電話で旦那さんと話しているところを
偶然聞いてしまった事があるのだが
「セイさぁん セイさぁん」とやたら甘いので、
思わず
「仲良いんですねー」
と言ったら、
「うん、私 セイシチ 推しだから」
って堂々と宣言され、面食らった。
旦那さんは 清七 と言うらしい。
結婚して10年以上経つのにセイさんだって・・・
ラブラブかっ!羨ましすぎる!
そんな佐藤さんの謎に包まれた私生活だったが、
少しだけバレる機会に恵まれた事があった。
私が入職して丁度1ヶ月経った5月の連休前、
県主催での健康祭りが青葉の森公園で大々的に開催された。
これは県民の健康意識を高めようと、
近隣病院、保健所、消防局、県警合同で
毎年行なう県主催の大きなイベントだった。
新人の私もかり出され、
勿論当病院自慢のナンバーワン、
スーパーナース佐藤さんも参加していた。
当日は気持ちの良い晴天に恵まれ、老若男女、
皆さん血圧を計ったり、体力測定をしたり、
救急蘇生やAEDの使い方を習ったりして楽しそうだった。
医療関係のエリアには、小さなクリニックや
地域の中核になっているやや大き目な病院まで
合わせて10以上のブースが設けられ
医療相談や骨密度や肺活量など
簡単な検査を行っていた。
相談も検査も無料なので、どの病院も賑わっていたが
特に我が森村メディカルには
他病院の倍くらいの長さの行列ができていた。
お目当ては佐藤さんの血圧測定である。
どうだ、うちの佐藤さん凄い美人だろう、
ひれ伏すがよいぞ、ふぉっふぉっふぉっ と、
私は他の病院のナース達との謎のマウント合戦に勝利したような
いい気分であった。
なんというか、修学旅行で自分のクラスの担当バスガイドさんが
他クラスよりも可愛かったりすると 勝った!って思うアレである。
佐藤さんに血圧を計って貰いたいおっさん達が
おもいっきり腕まくりして、爽やかな風の中お行儀よく並んでいる。
20人はいるな。うん。
私のほうには女性が多く、男はパラパラ…
ムカつく!
でも佐藤さんに計って貰ったヤツは
「あれっ?おっかしいなあ、いつもは120位なんだけどなあ
でへへ、も一回測ってもらえる?」
二回目はもっと高くなり、白髪のオヤジすごすごと退場。
「え?170もあるの?新記録でちゃったよ~すごいよねー」
そこのハゲおやじ、喜んでいる場合ではありません。
明日にでも病院へ行ってください。
・・・等と男性はことごとく測定値が高く、ざまあみろなのだった。
勿論私が計った人達は低値安定。
そりゃポークじゃときめかないもんね。
一方 子供達には消防はしご車や、パトカー、白バイが大人気で、
そのあたりは多くの子供連れで賑わっていた。
「凄い人気ですね、お巡りさん。カッコいいですもんねー」
と私が指差すと、佐藤さんもそちらを見てニコッとした。
するとその中でも、特にカッコいい白バイ隊員が、
バイクの上から私達にウインクし、チャってしたのだ!
バイク乗り同士が譲って貰ったりした時にやる例のチャっ!である。
ひょえーーー!
かっちょ良すぎる!
(後で知ったが、これはヤエーと言うのだそうだ。
単なる挨拶だけでなく、ようこそ とか道中お気をつけて、
楽しんでいってね、等の意味があるそうで、イエーの誤変換が元になっているらしい)
白衣を着ていなかったら、
危うく子供らに混じって握手しに走るところだった。
「佐藤さん!佐藤さん!
あの白バイの人こっち見て挨拶してくれましたよね、ネ。」
「うん。だってあれうちの人」
なぬ!
聞いてないぞ。
警察官だったとも、白バイ隊員だったとも、イケメンだったとも、
しかもきょう一緒の仕事だったなんて…
健康祭りは何事も無く盛況のまま終了した。
佐藤さんと後片付けをしていると、
先に撤収作業を終わらせた白バイ夫が、
「たかこ、じゃあ」
と言って夕日を背に去って行った。
近くで白バイ夫を見た私は、その場で固まった。
日本人のくせになんと言うハンサム!
そこらの芸能人なんか、鼻くそレベルに思える程のイケメンっぷり。
(ちなみに家に帰って、
母に 今までで一番ハンサムだったのは誰だと思う?って聞いたら
「若い頃の草刈正雄」と答えたので、検索かけてみた。
少しだけ白バイ夫に似てたけれど、
白バイ夫はもっとアラブの王子様系入ったちょーイケメン)
後で聞いたことだが
佐藤さんと白バイ夫が一緒に街で買い物をしていたりすると、
雑誌の取材を申し込まれたりはしょっちゅうらしい。
実際にグラビアで写真が掲載されたりもしたが、
あまりに頻繁に声がかかるので、面倒で断りまくっているそうだ。
実はここだけの話、
私もこの前街を歩いていて、声をかけられ
モデルの誘いがあった。
ちょっと嬉しくなってよく話を聞いたら、
なんと「しまむら」のデブ宣モデルだった。
ソッコーお断りしましたとも。
東京オリンピックの時、
白バイ夫はマラソンの先導をしていたそうだが、
その時も女性ファンが追っかけをし、
選手より早く追いかけて来たと怯えていたそうだ。
以上は全て、前出の三枝さん情報である。
ただ三枝さんは実際に白バイ夫には遭遇した事がないので、
「私も健康祭りに行けば良かったなあ」と
とても悔しがっていた。
以上が佐藤卓子の私生活に関する現時点での情報である。
その後私は佐藤一家に大きく絡む事になるのだか、
その話はまた次の機会に。
まだまだ深そうな佐藤さん
青木老人とどう戦う?
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