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第七章 格差社会


きょうは山口君のオペの日である。

執刀医は大野先生。

和田医長より知名度は低いが、実は大野先生のほうが腕は良いのだ。

整形外科の売り上げの半分は、大野先生一人で稼ぎ出している。

なんでもアメリカで相当な武者修行を積んできたらしく

帰国して直ぐにスポーツ整形という分野を立ち上げ、

夢をあきらめかけた少年・少女を数多く救ってきた。

難を言えば、全国からオペの申し込みがあるので、 順番待ちが長くなること。

山口君も怪我をしてから既に一か月以上待たされていた。

ここだけの話、テレビでよくスーパードクター特集等をやるが

はっきり言って眉唾だと思う。

本当に腕の良いドクターはテレビに出ている暇などないし、

医者だって(特に外科系)旬があるのだ。

高名な医者にオペしてもらったと思っていたら、

実は勉強中の若手にやらせて 実際は指示しているだけ 

なんてことはよく聞く話だ。

山口君のオペはあさイチの10時。

引継ぎが終わり、312号室に入ると 目の下にくまを作った山口君が居た。

顔色もあまり良くない。

昨夜から絶食だったし、やはり不安と緊張で眠れなかったのだろう。


「山口君おはよう。昨夜は眠れなかったみたいねぇ。

昨日の説明通り半身麻酔でのオペになるけど 大野先生だから安心して。

眠くなったら寝ていいんだからね。」


私がそう声をかけると


「違うんです。あ、寝てはないんですけど。・・・

そういう事じゃなくて。

あの、小和田さん、後で話があります。」


??? 話って私に? いやー困っちゃうな。

私 年下は射程に入ってなかったなあ✧♡


「勿論いいわよ。待ってるからオペ頑張ってね!」


それからはバタバタと準備が進められ、

師長による尿管カテーテル処置もめでたく開通。

半身麻酔は意識がはっきりした状態な為

術中、患者は処置を見ていることができる。

だが自分の体の内部が映し出された時点で、

殆どの患者さんは目をそむけてしまうそうだ。

寝不足の山口君も、おそらく眠ってしまうだろう。


2時間が経ち、山口君は予定通りに病室に戻ってきた。

術後のドクター説明では、全てが順調に進み手術も大成功。

流石 大野先生だ。

山口君は始まりの切開から最後の縫合までしっかりと全て見ていたそうだ。


「今までの患者さんで、ここまでしっかり見てた人初めてだよー。

良い根性してるよ。彼、医者に向いてるんじゃないかな」


って先生 褒めてたよ と、手術の成功と共に山口君に伝えたら


「あ、、、いや、目を開けたまま気絶してたんです・・・」


だそうな。


「今日はベッドから体を起こさないでくださいね。

話はちゃんとあとからゆっくり聞きますから。」


これは麻酔薬を使った術後の頭痛予防の為でもある。

私がそういうと、山口君と青木老人がこっくりと頷いた。

山口君カワイイ。

青木さんあんたやっぱり耳 聞こえてんじゃん。

嘘つきじじぃめ。


陽が傾いてきて、外が綺麗なみかん色に染まってきた。

私の勤務時間もそろそろ終わる。

きょう最後のバイタルチェックの為に312号室に行くと

青木さんも山口君も仲良く静かに眠っている。

私は山口君を起こさないように、そっと腕帯を巻き血圧を測ったり

酸素や体温をチェックした。

疲れたのか、スースーと規則的な寝息をたてている。

さてお次は と振り返ると 青木老人は背中を向け、なにやらゴソゴソしている。

さては寝たふりをしてやがったな。

貴様何を隠してやがる!

(最近私は青木さんのお陰でどんどん性格とお言葉が悪くなってる気がする…)

そーっと青木さんに近づく。

さっと反対側に回ると青木老人は慌てて何かを枕の下に隠した。


「青木さん、血圧測りますねー。あと体温計もはさみますよ」


青木老人は素直に従った。

が血圧がいやに高い。

ふっふっふ。なにかな なにかなー 枕の下から何出てくるかなー。

素知らぬふりでカルテにデータを書き込む 

と見せかけて、私は枕の下に素早く手を差し入れた。


「ふひょっ」


と青木老人が硬直した。

枕の下に隠されていたのは飴。

サクマのいちごみるく。


「あらーカワイイ飴ですねぇ。 でも青木さん、

糖尿の先生からも注意されてましたよね。

甘いものは控えていただかないと、お注射することになっちゃうんですよ。

一つだけ置いておきますからね、あとはこちらで預からせてください」


そういうと青木老人は


「あぁ そうがよ・・・」


と、わりにあっさり諦めた。

そういえば三枝さんに「じじーは飴買い幽霊だから気をつけろ!」と 助言を受けていたんだっけ。

うーん、この素直さはおかしい。

私の野性の勘は的中。

サッと布団をめくると、青木老人の下半身がやけに膨れている。

何とヤツはパンツの中に飴を5袋も隠蔽していた。

こんなものをいったいどこで手に入れた?!

面会の家族には、しっかり禁止事項は伝えてあった筈。

※後に、堀のカード明細から例の脱走時に売店で購入していたことがわかった

ええい、とにかくどうでもいい。 今は何とかこの飴買い幽霊を鎮めねば。

私は コチョコチョをしたり、怒ったりして何とか飴を没収しようと試みたが

青木老人は飴の袋を抱きかかえ、イヤイヤをして手放さない。

力ずくで奪おうとしたその時


「小和田さん!気持ち悪い…吐きそうです…」


山口君が土気色の顏で助けを求めてきた。

麻酔薬の影響で頭痛が起きてしまったのだ。

じじぃと遊んでいる場合ではない。

急いで洗面器に紙を敷き吐瀉対応をし、彼の背中を優しく摩り介助した。

可哀そうなことに退院までの5日間、激しい頭痛は治まることがなかった。

飴買い幽霊と苦しむ力士 この小さな病室の中でも確かに格差は存在した。

しかし山口君を悩ませたのは、実はそれだけではなかったのである。

青木老人VS愛子ちゃん

なんだか良いコンビのような気が 笑

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