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第五話「才能」

 あの日から、二年。

 俺は八歳になった。


 魔法は上級まで使えるようになった。

 日々は、いつも通りに進んでいた。


 

「――アラン。お前、魔法学校に行く気はないか?」


 涼しげな風が吹く、日が沈む少し前のこと。

 いつものように魔法の練習をしていると、ルーカスが突然そんなことを言ってきた。


「……え?」


 突然のことに、思わず素っ頓狂な声を出す。


 ――魔法学校。

 魔法のことについてのみ学ぶ、魔道士を目指す子供のための、特殊な学校。

 毎年夏頃に入学試験があり、その難易度は高い。

 どこの学校も、受験者四千人に対し、合格者数はたったの二十人程度だとか。

 倍率二百倍の、超がつくほどの難関校だ。


 魔法学校のその人気の理由は、ひとえに蔵書数の多さからなる。

 この世界において、本というのはそれなりに高価なものだ。

 しかし、魔法を学ぶには、手本を見るか文献を参考にするかが必須になる。

 魔法を学ぶために本を買おうとすれば、向こう数年の生活費は飛ぶ。上達を考えればもっとだ。


 俺のように、家族に魔道士がいるなんてことは稀だ。

 そして、本を買える余裕があることも。

 普通、魔道士を育てようとすれば、一般家庭ではまず資金不足に直面する。

 だからこそ、数十万冊の本を無償で借りられる魔法学校は、それほどまでの人気を誇るのだ。


 それに加え、魔法学校の教師のほとんどは高名な魔道士が担当をしているらしい。

 魔法を学ぶために必要なことが両方揃っているのだ。

 まさに、魔法を学ぶには打ってつけの環境と言えるだろう。


 ……しかし、なんでまた急に?


「魔法学校って、普通の学校を卒業しないと進学できないって聞いたんだけど……」

「まあ、大体はそうだな。だが、別にそんな決まりはない。それが一般的ってだけだ。

 それに、お前の場合はそっちの方が良いんじゃないか?あそこで学ぶようなこと……例えば、読み書きとかは、もうとっくにできるだろ?」

「うん、まあ」

「普通の学校で学ぶのなんてそれくらいだ。だったら直で試験を受けた方が手っ取り早い。

 もちろん、お前が通いたいって言うなら構わないが……」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


 別に、普通の学校に通うつもりはない。

 俺が憂えているのは、魔法学校に進学する云々のとこだ。


 確かに、試験に年齢制限はない。

 が、基本的に受けるのは十五歳を過ぎてからだ。

 大体、十七歳くらいが新入生の平均だったはず。

 流石に、八歳でってのはなあ……。


 第一、まず合格できないだろう。

 生徒の実力がどのくらいかは分からないが、流石に年齢差がありすぎる。

 普通に試験に落とされて終わりなんじゃないだろうか。


 そんな俺の不安を読み取ったのか、ルーカスが再び口を開いた。


「安心しろ。お前は十分合格できるだけの実力がある。というか、今のお前は普通の魔道士と比べても見劣りしないレベルだ」


 ルーカスが、一言。

 俺は耳を疑った。


 力が伸びている自覚はある。

 しかし、比較対象がないのだ。

 唯一の物差しであるルーカスは、実力差がありすぎてとても計れたものじゃない。

 確かに、自分の力がどれほどか、正確に図れたことはなかった。


 だけど、それにしたって、流石に買い被りすぎたろう。

 自分にそれだけの実力があるとは到底思えない。

 だって、八歳だぞ?

 本職と遜色ないなんて、そんなこと……。


「ここではっきり言っておこう。

 お前には魔法の才能がある。入学して一年も経てば、そこでお前に勝てる相手はいなくなるだろう。

 恐らく、卒業する頃には、俺なんてとっくに抜かれているはずだ。

 これは、煽てているわけでも贔屓でもない。一人の魔道士として、お前を見た結果だ」


 再び、ルーカスが言う。

 俺は言葉を失った。


 だって、そんな素振り、今までに一度だって見せられたことがない。

 いつも、少し厳しい口調で魔法の練習をさせられて。

 そのとき以外は温厚だったから、俺の才能の無さに苛立っているのか、なんて考えていたときもあったのに。


 そんな俺の気持ちを見透かしたように、ルーカスが続ける。


「お前が自分の力に驕らないよう言うのを止めていたんだが……お前にその心配はなさそうだ。

 だから、受けたいなら受けてもいいぞ? もちろん、どっちを選ぶもお前の自由だけどな」


 ……ふむ。

 とりあえず、ルーカスの言ったことは嘘じゃないみたいだ。

 ここまで言われるなら信じよう。


 どうも俺には、人並外れた魔法の才があるらしい。

 確かに、よく母さんが褒めるなとは思っていたけど……。

 ……単に親バカなだけじゃなかったんだな。

 だったら、学校で馬鹿にされることはないのかもしれない。


 ……しかし。

 やはり、倍近くの年齢の相手と過ごすというのは抵抗がある。

 いくら才能があるって言ったって、体は子供だ。

 恐らく馴染めないだろうし、疎まれもするだろう。

 場合によってはいじめなんてことも……。


「……考えとくよ」

「そうか。まあ、試験は三ヶ月後だ。それまでに決めておいてくれ」


 ……どっちにしたって、家にはルーカスがいる。

 わざわざ学校に行かなくたって、魔法の練習はいくらでもできる。

 それなりに時間が経って、新たに知識を得たくなったときに入ればいいだろう。

 それか、家の生活費が危なくなったら。

 今の不安はこっちだな。


「……と、喋って集中は切らしてないだろうな?」

「もちろん」


 手のひらに浮かぶ、魔法で作られた水の花を、崩れないよう慎重にルーカスへ向ける。


「上出来だ」


 ルーカスはそう言い、「あと五分」と続けた。


 これは、水魔法で花の形を再現するという、ルーカス流の魔法の練習だ。

 聞くだけなら簡単な練習に思えるだろう。

 言うは易しというやつだ。

 その花というのが、これまた面倒なのだ。


 最初は、アサガオのような合弁花だった。

 その程度なら、一週間も経てば完全に寄せることができた。

 しかし、次第に花の形は難化していき、今では八重咲きのバラを再現しろとまで言われるようになった。

 これを三十分続けるのだから、使う集中力は半端じゃない。

 できるようになったのは、やれと言われて一年が経った頃だった。


 これは、魔力の消費を抑える練習法らしい。

 魔力の調整を覚えることで、同時に節約も狙えるというのだ。

 実際、効果は顕著に出た。

 簡単なものでも一割、複雑な魔法なら三割ほど消費魔力を抑えられた。

 魔法の作りが複雑になればなるほど、無駄な工程は多くなる。

 その分節約できたというわけだ。


 あれから、魔力の節約法について、また色々と教わっている。

 これはその内の一つだ。


 魔道士は、魔力が無くなればただの一般人だ。

 だからこそ、魔力を尽きないように戦うことが最も重要で、魔道士としての常識なのだ。


 本には魔法の威力向上についてはよく書かれているが、反対にこういった知識は書かれていなかった。

 やはり、実戦を考えてのことは実際の魔道士に聞くしかないんだろう。

 そういう意味でも、家にルーカスがいたのは幸運なことだ。


「――よし、もう終わっていいぞ」


 ……ん、もう五分か。


 フッと息を吐き、両腕から力を抜く。

 すると、水の花は形を崩し地面に溢れた。

 それと同時に、全身の緊張がとけた。


 魔法を使うときは、無意識に全身に力が入る。

 魔法を使うと自然にそうなるわけじゃなく、ただの俺の癖だ。

 魔法初心者は大抵こうなるらしい。直すべき悪癖だと、本に書いてあった。

 これでも、昔よりはずっとマシになった方だが、まだまだルーカスのようにはいかない。


「……そうだな。やはり、もう充分か」


 ルーカスが何やらぶつぶつと呟いている。

 その間、俺は地面にできた水溜まりを鏡代わりに、自分の顔をまじまじと眺めていた。


 ……やはり、中々整った顔立ちなんじゃないだろうか。

 この世界の水準は知らないが、元の世界で言えば中々良い方だと思う。

 やはりまだ子供のあどけなさは残るが、成長すればかなりの色男になりそうだ。

 少なくとも、前世の俺よりは良い顔だ。


 ……まさか、自分に嫉妬する日が来るとは思わなかったな。


「アラン。この後、何か用はあるか?」


 ルーカスが言う。

 その表情は、いつになく神妙で、真剣だった。


「一応、本を買いに行こうかなって……」

「そうか。ならそのあとでいい。お前に少し、話がある」


 ……話?

 それは、さっきの独り言と何か関係があるのだろうか。

 もう充分だとか言っていたのは……一体何なんだ?


「……わかった」


 いくつもの言葉を飲み込み、その一言を喉へ通す。

 聞きたいことはいくらでもある。

 しかし、ルーカスが話さないのだから、それはきっと話せないことなんだろう。

 だったら、俺は黙って待てばいい。

 曲がりなりにも、息子だからな。


「……それと、アラン」

「なに?」


 ルーカスは、相も変わらず眉間に皺を寄せながら。

しかし、少しだけ優しい顔で。

 

「……気を付けてくれ。何度も言うが……街の外にはでないでくれ」

「……うん、わかってるよ」


 ルーカスが俺に財布と袋を手渡す。

 用意周到なことだ。

 俺が出かけるとわかっていたらしい。


「……いってきます」

「ああ、いってらっしゃい」


 ルーカスがふっと笑みを浮かべる。

 返事の代わりに、三度ほど手を振る。

 ルーカスも、同じように手を振った。

 

 何度も繰り返した、同じやり取り。

 なぜだか、心が軽くなる。

 そんな、取るに足らない掛け合いを最後に、俺は家をあとにした。

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