表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/21

第二話「はじめてのおつかい」

 街に出て、数分。

 中世の街の風景も、ようやく見慣れてきた。

 当然のことだが、日本の街とはまるで違うな。

 少し寂しいけど、ちょっと楽しい。


 ……しかし、さっきのルーカスは、一体なんだったんだろうか。

 怒っているわけじゃないだろうが……ただの注意にしては、少し行き過ぎだ。

 その理由も説明してくれないし……。


 ……()()()()()()()、か。

 一体、何があるんだろうか。

 少なくとも、良いものじゃないだろう。

 少しだけ、気になるな。

 別に、行きたいとは思わないが。


 なんて思って、早十分。

 いつの間にか、俺は本屋に着いていた。

 そして、扉を開けて、一言。


「――すっげえ」


 思わず、息を飲む。

 目の前に見えるのは、恐らく千を優に越すほどの本の山。

 全てが魔法に関してのものだ。


 これでもまだ一部だ。

 店全体ともなれば、万は優に越すほどの量があるだろう。

 そして、やはり値段も高い。

 日本円に換算すれば、一つ数万なんてザラ、高ければ数十万のものもある。

 思っていたより、ずっと高価だ。


 これをいくらでも買っていいとはなんて太っ腹な。

 それとも、まさかここまで値を張るとは思っていなかったのか。


 まあ、どっちでもいいか。

 せっかく子供なんだから、ここは存分に甘えさせてもらおう。


「えっと、まずは……」


 とりあえず何か持とうと、近くの本へと手を伸ばす。

 すると、同時に取ろうとしたのか、隣の人と手が触れた。


 そこにいたのは、俺より少し小さい背丈の子供。

 同い年か、一つ下くらいだろうか。

 フードを深く被っていて、顔が隠れている。

 ここらでは見ない白銀の髪が特徴的だった。


 この子も本を買いに来たのだろうか?

 ……いや、待てよ。

 ここには魔道書しかないはず……。

 まさか、この子は魔法が使えるのか?


 なんとも珍しい。

 俺以外にそんな子が、それもこの街にいるとは。

 魔法を使える人間はわずか百人に一人ほどらしい。

 それが子供ともなると、その数はさらにぐんと減る。

 五歳となれば、一万人に一人いればいい方だろう。


 まさか、近所にそんな逸材がいるとは。

 せっかくだし、話しかけて――


「……っ!」


 俺が一歩、子供の方に体を寄せる。

 すると、その子供はビクリと体を震わせ、勢いよくその場から走り去った。 


「……え?」


 思わず、体が固まる。

 照れ隠しとかではなく、明らかな拒絶だった。

 前世でも体験したことがないくらい、とびっきりの。


 ……見すぎだったか?

 にしても、あんな逃げられるなんて……。


 ……いや、子供なんてそんなもんか。

 前世でも、小学生と目が合っただけで防犯ブザーを鳴らされたことがあった。

 あれに比べれば随分マシだろう。

 警戒心が強いのはいいことだ。

 ここは日本のように治安が良くないからな。

 ……でも、ショックなものはショックだ。


 小さくため息をつき、肩を落とす。

 その憂さ晴らしでもするように、目の前に見えた持ち運べるだけの本を手に取り、金貨をバンと会計棚に置いた。


 子供が魔道書を買うのはやはり珍しいのか、店員は目を見開き、俺と本を交互に見た。

 そして、棚に置かれた金貨を見て、また同じ動作を繰り返す。

 ちょっと楽しい。


 この国での金貨というものは、日常の買い物に使われることはない。

 普段使いするには価値が高すぎるし、釣りにだって困る。

 通常は財産として貯め込むために使用されるものだ。

 そのため、基本は銀貨が最も高価な貨幣として使用されている。

 それなのに、子供がそんなものを大量に出せば、そりゃ驚いて当然だ。


 会計が済み、本をバッグに入れ終わる。

 両手でやっと持てたはずの袋は、片手で軽々と運べるほどになっていた。

 

 ……ルーカスには悪いことをしたな。

 少しくらいは抑えておくべきだったか。

 まあ、自分で言ってたことだし、別にいいか。


 というか、そんな高価な魔導書が、なぜこんな街に大量にあるんだ?

 恐らく、あの魔導書全てで数億円は優に越すだろう。

 場合によっては、数十億という可能性も。

 そんな余裕が、あの店にあるとも思えないが。

 それとも、高いのはあそこだけで、奥の方は案外安かったりするのか?

 チラッと見た限りでは、そんな風ではなかったが。


 ……別に、なんだっていいか。

 とりあえず、戻ろう。

 ルーカスには、謝る準備をしておこう。


 そうして、俺は帰路へと足を進めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ