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ホラー短編シリーズ

記憶がないから怖い事

作者: リィズ・ブランディシュカ



 俺は一週間前に交通事故にあった。


 それで記憶が飛んだらしい。


 でも幸いにも財産がたっぷりあったから、治療の事やその後のことは心配しなくてもよくなった。


 問題なのは、身の回りの人間たちだった。


 俺の家にあった日記。その記録にはある、名前の人たち。


 家族や友人、恋人。


 けれど、思い出も顔も声も覚えていないから。


 本当に本人なのか分からない。


 記憶を失う前の日記には、俺の遺産を狙っているやつがいると書いてあったから。


 誰かが俺の命を狙っているのは間違いないのに。





 俺の生活を気にして、しょっちゅう電話をかけてくる家族か?


 バイト先で手取足取り仕事を教えてくれる友人か?


 勝手知ったる様子で家事をやってくれる恋人か?


 俺が事故にあったのはそいつらのせいなんじゃ……。






 彼らの言葉が、


「いつでも実家に帰っておいで」


(田舎の山の中に? そこで俺を殺そうとしているんじゃ)


 彼らの思いやりが、


「何でも教えてやるから、遠慮なんてするなよ」


(さっき教えてくれなかっただろ。それはわざとなのか?)


 彼らのしてくれる事が、


「ご飯をたくさん作っておいたから、お腹がすいたら食べてね」


(毒を入れて殺すつもりなんじゃ)


 すべて疑わしく思えてくる。


 そのうち、近所の人間ですら信じられなくなった。


 だから監視カメラをつけたり、家を分厚い壁で覆ったり、できることは何でもした。


 家のカギだって変えたし、防犯ブザーもとりつけた。


 これで、大丈夫だ。


 でも俺の世界に、安らぎはなかった。


 夢の中では無意味だからだ。


 悪夢を見ては飛び起きる、その繰り返しになった。





 そんなことに疲れ果てた俺は、久しぶりの外出でふっと思った。


 向かいから猛スピードでやってくるあの光の前に飛び出せば、楽になれるなと。






 一つの事故が起きたその日。


 刑務所から出てきたとある男は思った。


 人の命なんて狙うもんじゃないなと。


 ハッキングで偶然知った金持ちの男の情報。


 そいつの財産を狙おうと、いろいろやってたら、顔を調べる前に人をはねてしまった。


 それはバレなかったようだが、その後、窃盗の罪で捕まってしまい。刑務所暮らしする事になってしまった。


「やっぱり悪い事はするもんじゃねぇな」


 天罰が下ったのだと考えて、これからは心を入れ替えて生きていくことにしようと思った。





 彼は知らない。


 人違いで、とある人物を狙ってしまった事を。


 そして狙われた人物は、自分の財産目当てで身の回りの人間に命を狙われたのだと思い込んでいるという事を。



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