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第1話 純潔のシスター

 入学が認められたエルたちに、ジル校長から学校の制服が手渡された。


「これ、尼さんの服じゃないのか」


 早速キャティーに着せてもらうエルだったが、立ち鏡で確認すると、やはり領都デルンでもたまに見かける修道女が着ている服だった。


 黒が基調のロングスカートで、大きな白い襟が聖職者っぽい高潔な印象を与え、胸には十字架をあしらったロザリオが光っている。


 外出する時に被る頭巾は、半透明の絹のようなベールが顔全体を覆い、光の加減によっては顔の表情が見えなくなる仕組みだ。


「エルお嬢様、とても可愛いです!」


 キャティーが金色の眼を更に光らせて喜び、ジルもエルの制服姿を絶賛した。


「まあまあまあ! さすが光の始祖アスター家のエルさんね。修道服がとてもよくお似合いよ」


 全員が着替え終わると、ジルが魔石を4つテーブルに置いた。


「皆さんには魔石をお渡ししておきます。これを胸のロザリオに取り付けておくとよいでしょう。特にキャティーさんは魔力がとても小さいようですので、この大きな魔石をお使いください」


「魔石か。それなら俺は自分のを持ってるぞ」


 エルはセーラー服の胸のポケットにしまっていた光の魔石を取り出すと、ロザリオにセットした。


「おおっ! 何か魔力が増した気がする」


「このロザリオも魔術具の一種で、魔石の効果を強くしてくれます。さて今度は寄宿舎を案内しましょう」





 だがジルは寄宿舎に直接向かわず、少し遠回りして大聖堂全体を案内をしてくれた。


 最初に訪れたのは大聖堂の中心、千人近くの信者が同時に祈りを捧げられる礼拝堂であり、正面の祭壇にはテルルという女性の像が祭られている。


 その礼拝堂のさらに奥には、帝国南部地域を統括する教会支部の事務所があり、そこの責任者は今年20歳になったばかりの若い青年だった。


「初めましてエル皇女殿下。ここの責任者のクリストフ・ネルソンと申します」


「まだ皇女(仮)なので、呼び捨てで構わないぞ」


「承知しました。ではエルさん」


「ああクリストフ、よろしく頼むぜ」


 彼は祖父の後を継いで最近枢機卿になったらしく、将来は中央教会全体を統べる立場にあるらしい。


 相当な美男子でとても誠実そうな好青年だ。




 次に向かったのは修道女が生活する区画、いわゆる女子修道院だ。


 全ての信者に解放されている礼拝堂と異なり、教会関係者であっても女子しか入れないのがここ。


 責任者のクリストフでも立ち入りが許されない女の花園である。


 ここではたくさんの修道女たちが共同生活をしており、帝国有数の孤児院も併設されている。


「何で孤児院が女子修道院にあるんだ?」


「ここには様々な理由で全国各地から女性が送られてきますが、中には望まぬ妊娠をした者も多く、彼女たちの子供もこの孤児院で育てられるからです」


 貴族も平民もここに来るのは圧倒的に女性が多く、女子修道院は大聖堂の中でも一番面積が広い。まるで一つの街のようだ。


 そんな彼女たちは、エルたち学生と全く同じ修道服を着ており、パッと見区別がつかない。


「修道女って、普段は何をしてるんだ」


「神に祈りを捧げています」


「神に祈りを捧げて飯が食えるのなら悪くないな」


「あとはそう・・・人助けでしょうか」


「人助けはいいことだ。例えば何をするんだ」


「貧しい人達に生活の糧を与えたり、神に祈るお手伝いをしています」


「炊き出しと辻説法だな」


「修道女の中には貴族女性もいて、彼女たちの魔力を使って貧民たちの病気や怪我を治したりもします」


「領都デルンの貧民街でも病人が修道女に群がっていたが、あれはそういうことだったのか」


「彼女たちは適性に関わらず全員が光魔法を使う必要があるので、先ほど皆さんにそうして頂いたように、ロザリオに魔石をつけています」


 よく見るとロザリオの中心に魔石がくっついている修道女が何人かに一人いる。彼女たちがおそらく貴族出身の女性なのだろう。


「魔力持ちの修道女は活躍の場も多く、親しみを込めて「シスター」とみんなから呼ばれています」


「魔力持ちの修道女は「シスター」か、なるほど」


「そしてシスターの中でも清らかな乙女は神の加護を多く得られるため、より強力な魔法が行使できます。そんな彼女たちは「巫女」と呼ばれています」


「純潔のシスターが「巫女」か、ふむふむ」


「その巫女たちの中から「聖女」が誕生します」


「修道女→シスター→巫女→聖女だな。よし覚えた」





 ジルにつれられさらに女子修道院を奥へと進むと、ロザリアに魔石を着けた修道女ばかりになってきた。


「この辺りは巫女たちの住まう区画で、そこにあなたたちの寄宿舎もあります」


「俺達は巫女の区画に住むのか」


「はい。あなたたち生徒も巫女であり、教室での勉強以外にも、他の巫女たちと一緒に街で奉仕活動をしてもらいます」


「ここは宗教の学校だから奉仕活動も授業なんだな。さすがお嬢様学校、公立の工業高校とは違うぜ」


 妙に感心しながらエルが周囲の修道女を眺めていると、その中の一人に声をかけられた。


「おや、もしかしてエルちゃんじゃないのかい?」


「え?」


 その修道女は小柄だが恰幅がよく、安産型の大きな尻をしており、人懐っこくてとても面倒見がよさそうな女性だった。


「ていうかアニーじゃないか! こんな遠くの修道院まで送られていたのか・・・」


「やっぱりエルちゃんだったのかい。とうとうあんたもここに来ちまったとは、可愛そうに・・・」


 そう言って目に涙を浮かべるアニー。だがエルは慌ててそれを否定する。


「違う違う、誤解だよアニー! 俺は修道院に送られたんじゃなく、ここの寄宿学校に入学したんだよ」


「あんたが寄宿学校の生徒だって?! 冗談はよしとくれよ、だってここはお貴族様の学校じゃないか」


「あれから色々あって、俺は今ヒューバート伯爵家の世話になってるんだよ。それで貴族のことを勉強するためにここに来たって訳さ」


「ヒューバート伯爵家の世話に? ・・・よくわからないけど、エルちゃんが酷い目にあったわけじゃなくて本当に良かったよ」


「心配してくれてサンキューなアニー。ところで聞いてもいいか?」


「何だいエルちゃん」


「アニーのロザリオにも魔石がついてるけど、確か魔法は使えなかったはずだよな」


「そうなんだけどあたしゃ巫女になっちまったんだ」


「へえ、アニーも俺と同じ巫女か。あれちょっと待てよ、巫女って確か・・・」


 するとアニーの顔が真っ赤になり、


「検査したら、なんと純潔のシスターだったんだよ。子持ちの農婦であんなことがあって夫から離縁されたというのに、恥ずかしいったらありゃしないよ」


「肝っ玉母さんのアニーがまさかの純潔っ! ジル、あの魔石はやっぱり間違ってたんじゃないのか」


 後ろを振り返ってジルに尋ねるが、


「魔石が間違うことなど絶対ありません。確かに彼女たちについては私たちも疑問に思い、身体中くまなく検査を行いました」


「身体中くまなく検査・・・そ、それで」


 急に身体がムズムズして思わず股間を押さえてしまったエルだったが、ジルは微笑みながら、


「結果、二人とも完全無欠の純潔の乙女でした」


「そんなバカなことが・・・あれ? 二人ってことはまさかもう一人はサラなのか?」


「あそうそう、サラがエルちゃんに感謝してたから、ちょっと呼んで来るよ。ここで待ってておくれ」





 しばらくするとアニーがサラを連れてきた。


「ようサラ! 元気にしてたか」


 エルが手を振ると、サラが猛スピードで駆け寄って来て足下に土下座した。


「救世主エル様っ! サラをお救いいただき、本当にありがとうございました!」


「感謝しすぎだよ! いいから土下座はやめてくれ」


「いいえ、神に等しい創造主たるエル様にそのような失礼はできません!」


「創造主じゃねえし! とにかく土下座は止めろ」


 そこでようやくサラが顔を上げると、エルの足元に跪いた。


「ははーっ! サラはエル様のしもべですので何なりとご命令を」


「悪の組織かよ! て言うかお前って素朴で大人しい村娘だったじゃないか。性格が変わりすぎだよ」


「村娘サラはあの時に死にました。今はエル様のおかげで生まれ変わった巫女サラなのです。だからサラの身も心も全てエル様の物であり、この奇跡の力はエル様のために使うのです」


 そう言ってエルを見つめるサラの目には、狂おしいほどの執着的な愛が満ち溢れていた。


「すまんがサラの言ってることが俺には全く理解できん。アニーかジル、分かりやすく俺に教えてくれ」


 するとジルが、


「サラは巫女の中でも特に強力な光魔法を行使でき、新人ながら聖女の有力候補と目されています。ですが洗礼時の記録では魔力適性なしとされていたため、後天的に強大な魔力を獲得したものと思われます」


「サラが聖女候補だとっ! しかも元々魔力を持ってなかった上に、あの状況で純潔など絶対あり得ない。これってやはり、あの時の魔法が原因なのか」


 エルが真剣に首を傾げていると、アニーがおおらかな笑い声をあげた。


「あまり難しいことを考えても仕方ないよ。とにかくエルちゃんのおかげで、私もサラも充実した日々を送れてるってことさ」


「そうだな。俺はバカだしもう考えるのは止めよう。俺も今日からここに住むから、よろしく頼むな」


「もちろんだよエルちゃん。あんたは命の恩人だし、困ったことがあったらいつでも相談にのるよ」

 次回もお楽しみに。


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