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第63話 救出(後編)

【闇属性中級魔法・ワープ】


 その可愛らしい容姿に似合わない魔物のダンスを踊ったラヴィとともに、エルの身体が空間を転移する。


 着いた先は、最初のエクスプロージョン着弾点となる城壁南端に設けられた兵士詰所と地下武器庫だ。


 こういった場所は中が空洞のため他の場所に比べて比較的防御力が低く構造上の弱点となる上、破壊できれば敵の戦力を削ぐことができ、騎士達が要塞内で戦う際に有利になる。


 敵騎士たちが仮眠を取るベッドの脇でラヴィをしっかり抱き締めたエルは、自身最強のバリアーを展開しつつハーピーの魔法を唱えた。


【ハピハピルンバ】


「今さらだが、こんな呪文で本当に大丈夫なのか?」




           ◇




 夜の闇に紛れて、城壁を狙える位置に陣形を整えたデルン騎士団。


 その隊列の先頭にはカサンドラ、アリア、タニアの3人の女騎士に守られたシェリアが、魔法の杖を握りしめて待機していた。


 そんなシェリアの肩に座ったインテリが、


「来たーっ! アニキがハーピーの魔法を使うてくれた。場所は予定どおり城壁南端の兵士詰所や!」


「分かったわ! みんな、今から作戦開始よ!」


「「「おうっ!」」」


 四頭の軍馬が城壁に向けて駆け出したその一分後、闇夜に突如出現した閃光と巨大な火球がブーゲン要塞攻略戦の号砲となった。



           ◇



 深夜。


 側近に連れ戻されたナーシスがそこに見たものは、数百年に渡ってその威容を保ち続けて来たブーゲン要塞城壁の残骸だった。


 要塞内には既に敵騎士団が殺到しており、自陣の防御砦のことごとくが突破されていった。


「一体どういうことだ! 堅牢で名高いブーゲン要塞が、なぜこうも簡単に破られたのだ!」


「シェリアです! ヤツのエクスプロージョンで城壁の弱点をピンポイントで破壊されました。こちらが後手後手に回っているうちにあっという間に城門まで」


「あり得ん! エクスプロージョンで城壁が破られたなど聞いたことがない。そんなバカなことが・・・」


「そんなことよりナーシス様。我が友軍は寄せ集めであり、ナーシス様が指揮を取らねばウィル騎士団長率いる本隊には対抗できません! このままでは要塞は早晩陥落するおそれが・・・」


「クソっ、ウィルにだけは絶対に負けたくない! 騎士を総動員して巻き返しを図るぞっ!」


「はっ!」




           ◇




「エル君お疲れ様! ちょうどナーシスがこの転移陣を通って要塞に戻って来たばかりよ」


「へん、ザマあ見ろだナーシスのヤツめ。よし父ちゃん行くぞ!」


「おう! 待ってろ母ちゃん、今助けに行くからな」


 エルとラヴィが貴族用転移陣室に到着するや、今度はマーヤを救出すべく全員で転移陣に飛び乗った。


 床の魔法陣が輝きを放ち、エルたちの目の前の景色がゆっくり歪んでいき、転移先の兵士の姿が現れる。


「何者だっ!」


 数人の兵士が一斉に剣を抜いて5人を取り囲むが、エルとオットーが前に飛び出すと、あっという間に兵士を倒して部屋を制圧した。


 全員を縛り上げて転移室を出た5人は、今度はスザンナの案内で階段を地下へと降りて行った。


 そして彼女が廊下の途中で立ち止まると、何もない石壁を指差して言った。


「ここですわエル様。この壁が魔法の仕掛け扉になっていて地下牢へと入れます」


「こんな所から・・・スザンナが居てくれて本当に助かったが、さてどうやって中に入るか・・・」


「エルお姉ちゃん。ラヴィの魔法なら大丈夫だよ」


「それがあった! ラヴィやってくれ」





 5人が転移したのは、通気孔しかない完全な密室だった。壁に取り付けられた魔術具の光が、怪しげな器具が散乱する部屋の中をボンヤリ照らし出している。


 その片隅には、鎖に繋がれた女が倒れていた。


「か、母ちゃん!」


 慌てて駆け寄ったエルが見たのは、全身を鞭で打たれて肌が変色し、ナーシスの名前を再びその肌に刻み込まれたマーヤの無惨な姿だった。


「母ちゃんに何て酷いことを。ナーシスの野郎っ!」


 怒りに震えるエルがマーヤをそっと抱き抱えると、彼女は僅かに笑顔を見せて口を開いた。


「・・・エル・・・あんたが無事で本当によかった」


「母ちゃん・・・俺の身代わりでこんな姿に・・・今すぐ治してやるから待っててくれ!」


 エルは甲冑を脱ぎ捨て渾身のキュアを発動させる。


 無心に踊り終えたエルの身体から膨大なオーラが噴出して狭い室内を聖なる光で満たすと、それを吸収したマーヤの身体が神々しく輝いた。



 オオオオオオオンッ!



 やがて光が消えると、マーヤを拘束していた鎖が全て朽ち果て、自由の身となった彼女がゆっくりと立ち上がった。


 全身の傷が完全に癒えてその美しい裸体がみずみずしさを取り戻し、身体の底からオーラが溢れ出るほどに体力も回復した。


 その光景をエミリーとラヴィは当然の表情で見つめる一方、スザンナは衝撃のあまり絶句した。


「なんてこと・・・エル様の魔法はあまりに次元が違いすぎる。わたくしのキュアは元より帝都の大魔導士様でもここまでの回復は到底不可能・・・」


 一方、エルを少し寂しそうに見ていたオットーは、だが悲しそうな目で自分を見つめる妻に気づくと、彼女の傍に駆け寄った。


「オットー・・・私はあの男に・・・」


「いいんだよマーヤ。お前が生きていてくれただけで俺はもう十分なんだ・・・」


「あなた・・・」


 オットーはマーヤをそっと抱き締めると、彼女の長い髪を優しく撫でた。


 マーヤもオットーの身体を強く抱き締めると、一目も憚らず大声で泣き出した。


「うあああああ・・・」




           ◇




 やがてマーヤが落ち着きを取り戻すと、エミリーは荷物袋から真っ赤なドレスを取り出した。


「それ俺が子爵夫人から貰ったやつだ。そうかシェリアたちが城から持ち出してくれたんだな」


「マーヤさんはエル君と容姿が似てると聞いていたから、念のために持って来ておいたの」


「俺も父ちゃんも何も持たずに飛び出しちまったよ。男はその辺が適当でダメだな」


「うふふ、エル君は女の子なのにね」


 エミリーがそう微笑みながらマーヤにドレスを着せる。そして着替え終えたマーヤの姿に、みんなからは感嘆のため息が漏れた。


「こんな母ちゃん初めて見たけど、俺なんかと違ってすげえドレスが似合ってるな。城にいたどんな貴族夫人よりも母ちゃんの方が上だぜ」


 そんなエルに、マーヤは普段通りの笑みで答えた。


「おやそうかいエル。母ちゃんもまだまだ捨てたもんじゃないだろ?」


「ああ! 母ちゃんは街一番の美人さんだ」


 するとオットーも、


「エルの言うとおり綺麗だぞ母ちゃん。よーし、今度は父ちゃんの格好いいところをエルに見せてやらないとな。ナーシスの野郎を父ちゃんの剣で血祭りだ!」


「なら俺にもやらせてくれよ。母ちゃんの恨みは俺達二人で晴らしてやろうぜ!」


 エルとオットーがグータッチすると、そこにスザンナが両手を置いて、


「微力ながらこのわたくしもお手伝いいたしますわ、エル様、オットー様、そしてマーヤ様」


 するとマーヤがスカートをつまみ上げて会釈する。


「スザンナ様もありがとう存じます」


「おわっ! 母ちゃんは貴族言葉まで完璧かよ」


 そんな和やかなムードを引き締めるように、エミリーが号令をかける。


「さあみんな、今度はナーシスを討ち取るわよっ! ブーゲン要塞は今頃大混乱になっているはずだから、ここからは必ず6人一緒に行動すること。じゃあラヴィちゃん魔法をお願い」


「わかった! じゃあみんなラヴィの所に集まって」


【闇属性中級魔法・ワープ】

 次回「決着」。お楽しみに。


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