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第59話 ハーピーの里からの脱出

「この洞窟、ハーピーの里だったのか。でもそれってどこにあるんだよ」


「ギルドの初心者用クエストで行くあの遺跡の地下の泉ですわ」


「なんだあそこか。よし、ここから出てすぐにシェリアたちと合流するぞ。きっとアイツら心配してるだろうからな」


「そらもう、キャティーはんなんか泣いてましたで。でもここからそう簡単には出られまへんのや」


「出られないって、あの泉だろ?」


「ワイらあの祭壇の魔力で封じ込められてて、願いを叶えるに値する冒険者が泉にたどり着かんと、外に出してもらえまへんのや」


「ええっ?! だったら俺たちはいつ外に出られるか分からないじゃないか」


「そうなんですわ。それこそ明日かも知れまへんし、10年後か100年後かも」


「ウソだろ・・・ひょっとしたらここから一生出られない可能性も」


「すんまへん。ワイもアニキを助けたい一心で、まさかここに飛ばされるとは思てなかったんですわ」


「いや、インテリは悪くない。気にするな」


「そやけど、ここから出る別の方法もあるにはあったんですけど・・・」


「なんだ、あるのか」


「ワイらハーピーって大聖女様のしもべやさかい、彼女の許しがあれば外に出してもらえるんですけど」


「なら早速お願いしに行こうぜ」


「でも大聖女様は、ずっと不在なんですよ」


「どこに行ったんだ」


「異世界に行ったきり戻ってこれなくなったって、従者のオッサンが嘆いてはりました」


「異世界? それってどこにあるんだよ」


「さあ、どこにあるんでっしゃろな・・・」


「・・・・・」





 完全に詰んだ二人は、ガックリ肩を落としながらハーピーが住む里へと移動した。


 そこは七色の光に包まれた幻想的な場所で、可愛らしい庭付き一軒家が点々と立ち並んでいる。


「なんかメルヘンチックな場所だな」


「へえ。遊園地のアトラクションみたいでっしゃろ。ワイの家もここにあって、さっきの魔法で自分の家に瞬間移動させられたんですわ」


「ふーん、じゃあお前の家で一休みするか」


「ワイらのような小人サイズの家なので、アニキは入れまへんで」


「そらそうだな・・・」


 そんなエルが家を踏み潰さないように里にそっと足を踏み入れると、それに気づいたハーピーが一斉に家から飛び出し、二人の周りをふわふわと飛び回りながら話しかけて来た。


「こんなところに人間が来るなんてめずらしいわね」


「あらこの人、この前私たちを選ばなかった女よ。失礼しちゃうわね」


「あなた、もうその男に飽きたのかしら。だからって私たちを連れて行こうなんてむしが良すぎるわよ」


 いきなり感じの悪いハーピーにムッとしたエルだったが、インテリが間に割って入る。


 そしてここに来た経緯を話したのだが、彼女たちは二人を助けるどころか笑うだけ笑うと、あくびをしながら家に帰ってしまった。


「おいインテリ、アイツらぶん殴ってもいいか?」


「別に構いまへんけど、アイツら空飛びますからアニキでは捕まえられまへんで」


「ならお前が捕まえてこい」


「ワイには無理です。だってアイツら魔力が強くて、ワイ、ケンカに勝ったことないんですわ」


「男のくせにマジかよ・・・分かった、もうアイツらのことは無視するとして、俺はしばらくこの里で待たせてもらう。ひょっとしたらシェリアが何とかしてくれるかも知れないしな」




            ◇




 だがあっという間に一週間が経ち、シェリアの助けをひたすら待ち続けたエルは、いつのまにか里の生活に馴染んでしまっていた。


 ハーピーの里の周りは果樹園が広がっており、食べ物に困ることはない。


 しかも洞窟の中は雨も降らないし気温も暖かく、家がなくても全く問題はなかった。


 そう、エルは破れたドレスを見にまとって、その辺に適当に寝そべりながら果物にかじりつくホームレス生活を送っていたのだ。


 あまりにだらしないエルを見かねたインテリが、


「アニキ、少しは運動でもしたらどないでっか。そんなことしてたら太りまっせ」


「やろうとは思ってるんだが、ここの生活があまりに楽勝すぎて、働いたら負けのような気がしてきた」


「あっちゃー・・・完全にあのハーピー女どもと同じ思考に陥ってますやん。ていうか前から思ってたけどアニキは順応力があり過ぎとちゃいまっか」


「そうか?」


「だってアニキは奴隷やのに、デルン城での貴族生活を存分にエンジョイしてましたがな。どれだけ豪胆な精神力を持ってるんやと、ワイ驚愕してましたで」


「いやいやあれは正直地獄だったぞ。今だから言うけど、あの時の俺はスザンナから夫婦生活の悩みを相談されていて、胃に穴が空く思いをしてたんだ」


「アニキが凄いのはまさにそこでんがな。ウィルにもすっかり気に入られてたし、あの夫婦に頼られている時点でアニキは完全に貴族令嬢を演じきってたということや。普通の奴隷ではそんなことできまへんで」


「俺は大した演技をしてなかったんだが、なんでバレなかったんだろうな」


「それはアニキが美少女やからとちゃいまっか。美少女は何をやっても許される全宇宙の大正義。その代わり恋愛もせえへんし、うんこせえへんのや」


「お前って好きなアイドルにも同じこと言ってたが、俺はいい女を恋人にしたいし当然うんこもする。そもそも俺は男で美少女ではない」


「・・・まあアニキが男か女かは置いといて、貴族だけでなくあのハーピーどもとも仲良くやってるのが衝撃的なんやけど」


「俺がアイツらと? それはないな」


「ワイは一切関わりたくなかったから遠目に見てただけやけど、しょっちゅう喋ってましたやん」


「いやアイツらは俺の願い事をかなえようと御用聞きに来てただけだ」


「願い事って、まさか・・・」


「アイツらこのドレスを修繕する代わりに、俺の寿命を半分持っていこうとしやがった」


「うわ・・・そりゃ酷い。キャティーはんやったら喜んで直してくれまんがな。しかも無料ただで」


「そもそもここは暖かいから、服が破れていても全く気にならん。むしろ涼しいぐらいだ」


「いやいや、さすがにそのドレスはあきまへんがな。最初はワイも、アニキの下着が丸見えで目のやり場に困ってましたから」


「でも今の俺はホームレスだし、服なんかこんなもんだろ」


「全くアニキは・・・そう言えばこの一週間で一つ分かったことがあるんやえど、聞いてくれますか」


「何だ、言ってみろ」


「女には恥じらいが必要やということですわ。アニキがあまりに堂々と過ごすから、そのあられもない姿も風呂上がりオカンの裸ぐらいにしか見えんようになりましたわ」


「なるほどな」


「ついでにアニキに愚痴も聞いてほしいんやけど、あのハーピーどもの性格の悪さは治りまへんやろか」


「死んでも治らんな」


「ワイの不幸は、アイツらの誰かを彼女にせんと大人の階段を一段も登ることができへんことですわ」


「アイツらを彼女にか・・・俺は絶対に嫌だ」


「しかもワイ誰からも相手にされてまへんし、どないしたらええんですかねえ」


「お互い、不自由な身体に生まれ変わっちまったな」


「「はあ・・・」」


 二人でため息をついたその時、ハーピーの里を強大な魔力が包み込んだ。


「何が起こったんだ、インテリ!」


「まさかの呼び出し来たーっ!」


「呼び出しってまさか」 


「新人冒険者が例のチュートリアルに挑戦して泉に到達したんや思いますが、奇跡的にも祭壇にその能力が認められて、ワイらが召喚されてるんですわ」


「やったぞ! 俺たちは元の世界に戻れるんだ!」




           ◇




 気がつくとエルは、妖精の泉の祭壇に座っていた。


 そして目の前には見覚えのある人物が立っている。


「エルくんっ!」


「え、エミリーさん?」


 いきなりエルに抱きついてきたエミリーは安物の防具に身を包み、身体中傷だらけになっていた。


 そんなエミリーはいつもの笑顔でエルに微笑んだ。


「私、受付嬢を辞めて冒険者になっちゃった」


「辞めたって、どうしてそんなことを」


「だってエルくんが行方不明になって、シェリアちゃんたちが血眼になって探しても手がかり一つ見つからないし、私にできることはハーピーに願い事をすることだけかなって・・・」


「それでエミリーさんが、たった一人でここに」


「ここまで来るのは本当に大変だったけど、エルくんが無事に見つかってよかった・・・」


 そう言うとエミリーはエルをしっかりと抱きしめ、彼女の涙がエルの首筋にポタポタと落ちた。




 エルを救いだしたのはシェリアではなく、受付嬢のエミリーだった。しかも滅多に現れることのない祭壇に選ばれし冒険者として。


「ありがとうエミリーさん。俺、どう感謝していいのかもう分からないよ・・・」


「ううん、こちらこそ。無事でいてくれて本当にありがとうね、エルくん」


 エミリーのその言葉にエルの胸は熱くなり、全ての感謝を込めて飛びきりのキュアを発動させた。


 聖なるオーラがキラキラと煌めきながらエミリーの身体を包み込むと、瞬時に傷が消えていく。


「すごい、これがエルくんのキュア・・・痛みもすっかり無くなったし、不思議な力が湧き出してくる」


「俺にできることはこんなことしかないから、せめて受け取ってほしい」


「エルくん・・・ありがとう」


 優しく微笑むエミリーに、エルの心は彼女への愛おしさで張り裂けそうになった。

 次回からエルの反撃開始。お楽しみに。


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