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第51話 貴族の社交

 翌日からアイクへの武術指南が始まった。


 午前は剣術、午後は魔法という形で、一日中アイクと行動を共にする熱血指導を領主様に頼まれてしまったが、それでも日給10G、月にして300Gはやはり破格の報酬だった。


 そんな武術指南の一日目はアイクの実力テストだ。


 まずはアイクと剣を交えるエル。


 だがエルが軽く剣を当てただけでアイクはバランスを崩し、試しに打ち込ませてみてもすぐに息が上がってしまう始末。


 これから成長期を迎えるアイクは、まだエルよりも背が低く力も弱い。普段天使のような笑顔を絶さないアイクも、悔しそうにエルを見上げるしかなかった。


「本当にエルは強いな。ボクには敵わないや・・・」


「アイクはまだ13歳だし強くなるのはこれからだ。ただ今は俺との体格差もあるし、腕力も違いすぎる。次はシェリアとやってみろ」


「ええっ! 私もやるの?」


 まさか自分の出番があるとは思ってなかったシェリアは、エルに話をふられてびっくりする。


「俺が見る限り、お前らの剣の実力は同じレベルだ」


「ていうか私、魔法使いなんですけど・・・」


「細かいことは気にするな。だがお前の分の剣は用意してないから、その魔法の杖で手合わせをしてくれ」


「アホかーっ! これって聖なる御神木から作られた超高級品なのよっ! エルの剣を貸しなさいよ」


「これは両手剣だしシェリアに扱うのは無理だ。仕方がないからその辺に落ちてる木の枝でも使え」


「適当過ぎでしょっ!」


 シェリアは仕方なく、初心者用の魔法の杖を取り出すとアイクとの組み手を始めた。



 そもそもエルはケンカ番長であり、剣術の心得などない我流の剣なので、人に教える立場になかった。


 一方、カサンドラのオーガ流剣技は、アイクみたいな非力な美少年には不向きな剣で、どちらかと言えば怪力自慢のオッサン向きだった。


 二人とも指南役に向いてないことは事前に説明したのだが、子爵は「エルが教えることに意義がある」の一点張りで、自由にやって構わないと言われたのだ。


 こんな修練でいいはずがないし、エル自身も領主様の要求に甚だ疑問ではあったが、シェリアと組み手をするアイクがとても楽しそうだったので、しばらく様子を見ながら進めることにした。





 午前の指導が終わり、午後はエルたちの客間で魔法の勉強を行うことになっているが、その前に昼食という大きなハードルが待ち構えていた。


 というのもこの時間帯は、アイクと共に貴族との社交が組まれていたからだ。


 一度客間に戻ったエルは、女騎士装備を全て外して子爵夫人からもらったドレスに着替え、庭園に用意された昼食会のテーブルに向かわなければならない。


 そんなエルに嬉々とした表情のラヴィとキャティーが着せたのは、ゴージャスなデザインの真っ赤なドレスだった。


「よりによって、このド派手なドレスかよ。まだこっちの黒のドレスの方が100倍マシだよ」


 エルがブツブツ文句を言うが、シェリアは満面の笑みを浮かべて、


「結構似合ってるじゃないエル!」


「昼飯を食うだけなのに、何でわざわざ派手なドレスに着替えなくちゃならねえんだよ。面倒くせえな」


「それはエルが伯爵令嬢という設定だからよ。これぐらいパンチの効いたドレスの方が他の令嬢を牽制できるでしょ。貴族の社交は戦いなんだから!」


「昼飯を食うのが戦いなのかよ。貴族って暇なのか」


「でも安心したわエル。余計なことさえ言わなければ、見た目は完全に伯爵令嬢よ」


「奴隷の俺がまさか伯爵令嬢とは、ほんと参ったよ」


「後は貴族らしい身のこなしだけど、とりあえず私の真似をしなさい」


「お、おう・・・」


 子爵夫人からもらった大きな扇子をキャティーから無理やり持たされると、ピンク色の可愛いドレス姿のシェリアを先頭に客間を出発した。




 部屋の前ではタキシードに着替えたアイクが既に待っており、天使の笑顔で二人をエスコートする。


「二人ともとてもお美しいです。それではボクと一緒に食事に参りましょう」


「おう、腹減ったし早く行こうぜ。ところでアイク、何で武術指南役の俺たちが貴族の社交なんかする必要があるんだ」


 まだ納得の行かないエルは、今度はアイクに愚痴をこぼし始めたが、そんな彼は微笑みを絶やさず理由を説明する。


「社交は貴族の最も大切な仕事だと父上から聞きました。そしてお二人は武術指南役である前に、名門貴族家のご令嬢です。なので城にいる貴族と社交するのが自然ですよね」


「くっ・・・理屈ではそうかも知れんが、貴族が一人もいなければ社交なんかする必要はない。なのに何でこの城には貴族どもがたくさんいるんだよ」


「それはここが領都であり、しかも交通の要所で立地もよく、近隣の貴族家が集まりやすい城だからです。だから当家と主従関係にない子爵家や男爵家まで集まって、自由に社交を繰り広げています」


「わざわざ他領から来てたのかよ、アイツら」


「ええ。ですので城の客間はいつも満室ですし、エルも彼らと全く同じ立場ですので、彼らと社交をしないのは不自然でしょ」


「最早ぐうの音も出ねえよ・・・ガクッ」





 社交の舞台となる城の大ホールやそれに面した庭園には、たくさんの貴族たちが集って会話に花を咲かせている。


 そこをエルたちが通り過ぎると、みんなが一斉に注目してざわめきが起こり、特に若い貴族令息たちは、エルとシェリアの美しさに色めき立った。


「彼女がヒューバート伯爵家のご令嬢か。まさに帝都の華やかさを体現したような完璧な美貌だ・・・」


「ポアソン家の令嬢の方も中々どうして。一つ一つの所作も洗練されているし、我が帝国女性にはない独特の気品が感じられる」


「デルン子爵家もツイているよな。まさか自領の冒険者に武者修行中の令嬢が紛れ込んでいたなんてよ」


「デルン子爵はどちらかを次男アイク殿の結婚相手として狙っているのだろうが、さすがに二人同時には結婚できん。余った方は是非このボクが!」


「いいや、ボクこそが彼女たちにふさわしい」


 そう言ってウインクをしたり、爽やかな笑みを投げかけてアピールしてくる令息たちに、だがエルは背筋がゾッと寒くなった。


(おええっ・・・男に色目を使われても気持ち悪いだけだな。だが俺のことを本物の伯爵令嬢と勘違いしてくれているし、このドレス姿は案外行けるのかも)




 伯爵令嬢のふりに少し手応えを感じたエルだったが、一方で貴族令嬢たちは、大きな扇子で口元を隠しながら眉をひそめて囁きあっている。


「まあっ! 何でしょうあの娘。伯爵家か何か存じませんが、派手なドレスをお召しになってご自分の財力を見せつけているのかしら。ほんと性格の悪い」


「お可愛いドレスのポアソン家令嬢も、赤いドレスのお方に張り合っているようですけど、随分とスマートでいらっしゃって、ダイエット要らずで本当に羨ましいこと。オーッホホホホ!」


「やはり危険なのはヒューバート家の方ね。虫も殺さないような清楚なお顔立ちのくせして、あのお下品な身体でわたくしたちのアイク様に色仕掛けをしようと考えてらっしゃるのですわ」


「ほんとお見苦しい」


 今度は女の嫉妬というか敵意むき出しの令嬢たちに、うんざりするエル。


(お前らわざと聞こえるように言ってるだろ。性格が悪いのはどっちなんだか)


 シェリアのこめかみには血管がハッキリと浮かび上がっていたが、「ふんっ」とそっぽを向くと彼女たちを無視して歩みを速めた。




 そんな貴族たちの注目を一身に浴びたエルたちは、子爵本家直参貴族が集まるテーブルにたどり着いた。だがそこにいたのは、なぜか若い貴族令嬢ばかり。


「何だこの女ばかりのテーブルは・・・あっ!」


 だがエルは、そこに顔見知りを見つける。


「ベリーズとタニアじゃないか! どうしてここに」

 次回もお楽しみに。


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