表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/203

第47話 領主様からの招待状

「おはよう!」


 いつものように元気にギルドにやって来たシェリアは、だが、いつもと違って冒険者たちがどこか浮わついている。


「どうしたのみんな。何かあったの?」


 シェリアが尋ねると、みんなが一斉に拍手した。


「おめでとうシェリア! お前、デルン子爵のお城に招待されたんだぞ」


「え? 私がなんで?」


「俺たちも今朝聞いてビックリしたんだが、お前たちのパーティーがあの盗賊団ヘル・スケルトンを壊滅させたんだって」


 するとシェリアはいつものドヤ顔になると、


「ふっふーん! どう私すごいでしょ!」


「ああ、すごいすごい。それでデルン子爵が褒美をやるから、今すぐ城に取りに来いってさ」


「・・・褒美を城に取りにって、ええええっ?!」





 慌ててエミリーから招待状を受け取ったシェリアは、だがそれを読んで真っ青になった。


 そしてテーブル席でのんきに冒険者と話しているエルを見つけると、孟ダッシュでエルの両肩を掴んだ。


「エル! 一体どうするつもりなのよっ!」


 シェリアに肩を揺らされ首をガクガクするエルは、


「どうするも何も、領主様の命令だから城に行くしかないだろ。それとも断れるのかこれ」


「断れるわけないでしょ! もう最悪・・・」


 頭を抱え込んでしまったシェリアにエルは、


「まあ、褒美をくれるというなら貰いに行けばいいんじゃないか。別に殺されるわけでもないし」


「そんなの分からないわよ。貴族なんて平民のことを人間扱いしてないし、気に入らなければ首を斬っても平然としている人たちなんだから」


「マジかよ・・・逃げるか?」


「逃げたら確実に殺されるわよ! だから私は収穫祭の時にアレス騎士団のクエストを受けるのが嫌だったのよ。貴族と関わるとロクなことがないんだから」


「あの時シェリアが嫌がってた理由が、やっと理解できたよ」


「もう遅いわよっ!」





 シェリアにひとしきり文句を言われたエルは、領主様からすぐに来るよう言われていることもあり、早速城に向かおうとした。


 だがシェリアは慌てて、


「ちょっと待ってエル。その格好で行くつもり?」


「ああ。別におかしくはないだろ」


 いつもの女騎士装備のエルは、両腕を広げて特に問題なさそうな仕草を見せた。だがシェリアは、


「あなた、ちゃんと招待状を読んだの?」


「いや読んでない」


「ちゃんと読みなさいよ! 報奨を渡した後はお城で舞踏会を開催するって書いてあるでしょ! ・・・でも変よね、報奨金なんて既にギルド経由で支払われているのに、何で二重に支払った上に舞踏会までやるのかしら。怪しいわね・・・」


「へえ武闘会をやるのか。腕が鳴るな」


「そっちじゃないわよ! ダンスの方の舞踏会っ!」


「ダンスだと? 俺には無理だ。逃げるか」


「だから殺されるって言ってるでしょ! もう時間がないから急いで仕度するわよ」




 シェリアは宿に戻って自分のドレスを適当に選ぶとギルドにとんぼ返りし、エルとカサンドラを連れて2階のエミリーの部屋に飛び込んだ。


 勝手に部屋を使われたエミリーはぷりぷり怒りながらも、みんなの着替えを手伝い始める。


「カサンドラはいつもの男装の麗人スタイルで問題なさそうだけど、シルクハットは脱いだ方がいいわね。でもそうするとツノが見えちゃうし・・・」


 エミリーが困っているとシェリアは、


「だったら頭に怪我をしたってことにして、包帯をぐるぐる巻きにしておけばいいんじゃない?」


「それはいい考えね! じゃあついでに血糊もつけてそれっぽくみせちゃおうか」


 エミリーとシェリアが嬉々としてカサンドラの世話を焼いている隣では、エルが防具を脱いでセーラー服に着替えていた。


 報奨金をもらうだけなら女騎士装備で全く問題なかったのだが、舞踏会で甲冑はNGらしく、他に服を持っていないエルに選択の余地はなかった。


「まさか奴隷の俺が城の舞踏会に出ることになるとはな。しかしこのセーラー服がなければ冒険者インナー1枚で舞踏会に出るところだったよ」


 エルはブツブツ文句を言いながら、赤いスカーフと黒のリボンチョーカーをしめて鏡の前に立った。


「まあこんなものかな・・・適当だけど。しかしウチの工業高校の制服を着てるはずなのに、何でスケバンに見えないんだろう。顔に気合いが足りてないというか、無駄に上品なのが良くないな」


 鏡に映った自分を不満そうに眺めるエルだったが、そんな彼女にエミリーが衝撃を受ける。


「こ、これがエル君!? ウソ、なにこれ・・・」


「何か変か、エミリーさん」


「私、ちゃんと女の子してるエル君見るの、たぶん初めてよ! かかかかカワイイーっ!」


 エミリーは興奮し、両手をワナワナさせながらエルに吸い寄せられると、思わず抱きついてしまった。


 エルより背の低いエミリーは、彼女の胸に顔をうずめて至福の笑みを浮かべる。


 それに慌てたシェリアが無理やり彼女を引き離す。


「私のエルに何やってるのよ、エミリー!」


 すると我に帰ったエミリーが、


「あ、あれれれ? 私は今、何をしてたのかしら?」


「エルに抱きついて、クンクン匂いを嗅いでたのよ。この変態!」


「ううっ・・・だってエル君が可愛すぎるんだもん」


「・・・ま、まあその気持ち分からなくはないけど。それより私も着替えるから手伝ってよエミリー」


 シェリアは魔法使いの服を乱暴に脱ぎ捨てると、ドレスをエミリーに手渡した。




           ◇




 準備が整った3人が1階に降りて来ると、冒険者たちに衝撃が走った。


「・・・おい、あの白いドレスの女、ポンコツ魔法使いシェリアじゃないのか。改めて見るとすごい美少女だな。相変わらず胸はないけど」


「ああ全くだ。殺されてもいいから、もう一度アイツに求婚してみようかな・・・いやちょっと待てっ! 後ろにいる女は誰だよ!」


「見たことねえ女だな。シェリアとタイプは異なるがこれまたドえらい美少女だ。しかも胸と尻もでけえ」


「あそこまで完璧だと、気軽に声をかけるのも憚られるが、あの胸と尻はどこかで見たような・・・」


「後ろにカサンドラを連れてるがまさか・・・」


「「「ゴリーだーーーーっ!」」」




 エルたちが冒険者の前を通りすぎるが、みんな一言も発せずにただ茫然とそれを見送った。そんな男たちの中にエルの飲み仲間のオッサンもいた。


「どうしたオッサン。そんなアホ面ぶらさげて」


「その汚ねえ言葉遣いは、やっぱりゴリーか!」


「おう俺だよ。ちょっくら領主様のお城に行って報奨金をもらってくるぜ」


「きっ、気を付けて行って来るんだぞゴリー・・・。そ、そうだ、無事に城から帰ってきたら、おっちゃんの子供を産んでみないか?」


「誰が産むか!」


 オッサンの抜け駆けに冒険者たちが一斉に罵倒を浴びせかけるが、そんな男たちをかき分けて一人の男がエルに声をかけた。


「おいちょっと待てよ! 俺を置いて行くなよエル」


 呼び止めたのは、風来坊のジャンだった。


「そう言えば、お前も居たんだったな」


「ああ。臨時のメンバーだったが、俺も城に呼ばれちまったよ。しかし面倒なことになったな・・・」


 そう言って困った顔をしたジャンも既に着替えは終わっており、いつもの傭兵風の装備ではなくカサンドラと似たような感じのパリッとした服装をしている。


 そんなジャンはエルの服装をしげしげと眺めると、懐からシールを取り出した。


「城にはあのナーシスもいるはずだ。念のためにこのシールを服につけておいた方がいいだろう」


「それはこの前の紋章コレクションっ!」


「ああそうだ。カッコいい紋章が色々揃っているが、今回もこの前と同じヒューバート伯爵家のシールでいいだろう。襟の所に貼っておくぞ」


「すまないなジャン。しかしナーシスの野郎もいるんだったら、余計に行きたくなくなったよ」


「いいかエル、今度は絶対にケンカすんじゃねえぞ。適当にダンスを踊ったらさっさと帰って来ようぜ」


 そう言いながらジャンは、正面の首元に1枚、背中の襟の両端に2枚シールを貼った。


「これでよしと。では城へはこの俺様がエスコートしてやろう。お手をどうぞエル・ヒューバートお嬢様」

 次回もお楽しみに。


 このエピソードを気に入ってくださった方はブックマーク登録や評価、感想、いいねなど何かいただけると筆者の参考と励みになります!


 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ