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第45話 エピローグ

 盗賊団ヘル・スケルトンは壊滅した。


 シェリアの放ったエクスプロージョンにより盗賊団の一部が消滅すると、騎士団が突撃を開始。短時間で一気に勝負が決した。


 盗賊たちは容赦なく殺され、それでも辛うじて生き残った者は、幹部を含め全員がアレス騎士団によって捕縛された。




 クレーターから這い出したエルは、そのままタニアの元に向かうと救出した女たちの保護を頼んだ。


「承知したエル。だがお前にはすっかり騙されたな。それのどこがゴリラみたいな醜い大女なんだ」


 タニアはセーラー服姿のエルを見てため息をつくが、エルは両手を広げてとぼけるように答えた。


「ギルドからの指示で、普段から顔を隠してたんだ。冒険者の男どもが大騒ぎするから迷惑なんだとさ」


「確かにその美貌なら、男どもが殺到してクエストどころではなくなるからな」


 エルは本当の理由をタニアに隠したことを後ろめたく感じたが、貴族である彼女をどこまで信用できるか分からなかったのだ。


「それにしても、お前もシェリアもバケモノみたいな強さだな。是非ウチの騎士団に入隊してほしい」


「有難い申し出だが、俺は大金を稼がなきゃならないから、もうしばらく冒険者を続けるよ」


「そうか・・・」


 勧誘を断られ、残念そうなタニア。


 だがベリーズには、そんなことよりどうしても気になることがあった。


「ねえエル」


「何だベリーズ」


「あなたってやっぱり金髪に翠・・・もがっ!」


 ベリーズが何かを言いかけたところで、ジャンがベリーズの口をふさぎ、自分の口に人差し指を当てた。


 それを見た親衛隊が一斉にジャンに槍を構えたが、彼の放つオーラに一歩も動けず、ベリーズもただならない雰囲気を察して、大人しくジャンの指示に「コクコク」と首を振って従った。


 だがそれに慌てたのがエルだった。


「何やってんだよジャン! お貴族様に失礼だろ」


「おっとそうだった。失礼しましたベリーズ様」


 ジャンがすっと後ろに下がって片膝ついて謝罪すると、周りには何とも言えない白々しい空気が流れる。


「許します」


 ベリーズはため息を一つつくと、親衛隊に命じて槍を下げさせた。




           ◇




 エルたちはその後、騎士団に協力して盗賊団の残党狩りを手伝ったため、ハンスの村にアニーたちを連れ戻ったのが夕方近くになってしまった。


 ハンスが心配してるだろうと思ったエルは再び女騎士の装備に着替えると、アニーとサラを連れて村へと急いだ。


 だが二人が村に入るのをためらったため、ひとまずエルが一人でハンスの家へと向かう。


 村には人が戻り、破壊された家や納屋の修理にみんな大忙しだったが、ハンスの家は荒らされたままの状態で、家の前ではハンスとサラの夫バーツ、そしてその両親が深刻そうな顔で話し合っていた。


 そこにエルが現れると一斉に彼女に注目する。ただならない緊張感の中、ハンスがおそるおそる尋ねた。


「どうだった・・・エル」


「心配するなハンス、アニーとサラは無事だぞ」


「そうか!」


 ハンスはホッと胸を撫で下ろしたが、サラの家族はなぜか複雑な表情をしていた。


「どうしたんだ? サラは無事だったんだぞ」


 不思議に思ったエルが尋ねると、バーツの父親が、


「せっかく助けてくれたのに申し訳ないけど、サラは離縁することになった。ウチとはもう関係ないし報酬は払わないことをハンスに伝えに来たんだ」


「え、離縁ってサラを? なんで」


「盗賊に拐われた女など、ウチの嫁にしておけるか。そんなの常識だろ!」


「何を言ってるんだ、お前たちは・・・」


 エルはその言葉に耳を疑い、隣でじっとうつむいている夫のバーツを問いつめた。


「おいお前、本当にそれでいいのか? お前らは子供の頃から好き合っていた幼馴染同士なんだろ。サラはちゃんと生きて帰って来たんだ。だから・・・」


 バーツは一瞬エルを見たが、すぐに目をそらすと辛そうに顔を歪めてそこから走り去ってしまった。


「おい、待てよ!」


 エルが追いかけようとするが、そのバーツを追って両親も立ち去ってしまった。


 そんな様子を家の中からこっそり覗いていた子供たちが、エルの周りに集まって来る。


「エル姉ちゃんが母ちゃんを助けてくれたのか!」


「ありがとう、エル姉ちゃん!」


「なあ母ちゃんはどこに居るんだよ!」


 早く会わせろとせがむ子供たちに少しホッとしたエルだったが、その後出てきたハンスの両親が子供たちを追い払った。


「さあさあ子供らは外で遊んでおいで! 今から大人の話をするから、家に戻ってくるんじゃないよ」


「ちぇっ! おいみんなで母ちゃんを探そうぜ」




 子供が全員いなくなり、中で話をしようと言われたエルは、嫌な予感がしながらも家の中に入っていく。そして父親がハンスに言い聞かせた。


「今の話を聞いて分かっただろ。エルちゃんが頑張って二人を助けてくれたのは有難いが、結局そういうことなんだよ」


 母親も黙って父親の言葉に相槌を打っているが、ハンスは耳を塞いだまま首を横にふる。


 そんな息子に父親はため息をつき、


「アニーは操を守れなかったんだ。このままだと死んでも天国には行けないし、あの子を離縁して修道院に送ってあげるのがせめてもの情けってもんだ」


「くっ・・・だが俺はそれでもアニーを!」


「いい大人なのに、まだ分からないのかお前は。仕方がない・・・エルちゃん、コイツをアニーに会わせてやってくれないか」


 父親から許可の出たハンスは、フラフラと立ち上がると、アニーの元に連れて行くようエルに頼んだ。




            ◇




 ベリーズ親衛隊が待機する街道の一角。そこに救出した他の女たちと共にアニーが待っていた。


 だがハンスは、アニーがいつもの服ではなく、他の女たちと同様に騎士団から借りたマントに身を包んでいるのを見て、ようやく彼女の身に何が起きたのかを現実のものとして理解できた。


 生きて再会できたにも関わらず表情が強ばっていくハンスを見て、アニーも悲しそうな顔で佇んでいる。


 二人の間にはもう、収穫祭の夜に見せたあの仲睦まじさは消えていた。





 ハンスは言葉が出なくなり、長い沈黙が続く。そんなハンスを見かねたアニーが話を切り出した。


「お義父さんに、私を離縁するよう言われたんだろ」


 ハンスはハッとした目でアニーを見つめ、


「だが俺は断った! またアニーと一緒に暮らしたいと言ったんだ・・・」


「・・・そうかい、ありがとうよハンス。でも、やっと私の顔を見てくれたね」


「え?」


 ハンスはそこでようやく、自分がアニーの顔を見ずにずっと目をそらしていたことに気がつく。


「あんたの気持ちはそういうことなんだよ。それに村の人たちの目もあるし、今まで通りの暮らしなんかできやしないんだよ」


「そんな・・・アニー、俺はどうしたら」


「・・・ハンス、私を離縁しておくれ」


「い、嫌だ・・・」


 頭を抱えてうずくまるハンスに、だがアニーは彼を突き放すように言った。


「あんたは好奇の目にさらされながら、狭い村の中でこれからも生きていけるのかい」


「え?」


「私は盗賊どもの慰み物にされたんだよ。もしかするとお腹の中にはもう・・・」


「うわあああっ!」


 アニーの言葉を聞いた瞬間、ハンスは耳をふさぐと叫び声をあげながら村へ引き返してしまった。


「ごめんよあんた、もう一緒にいてあげられなくて。子供たちを頼んだよ・・・」


 自分の元を去っていくハンスを寂しそうに見つめていたアニーは、エルに向き直って言った。


「見てのとおりさエルちゃん。私のような女は、古い因習が根強い村社会では生きていけないんだよ。サラや他のみんなと一緒に修道院に入ることにするよ」




            ◇




 後味の悪さを残してクエストを終えたエルは、ギルドに帰還してエミリーに完了報告を行った。


 今回の顛末を聞き終えたエミリーは、優しい目でエルを見つめた。その時ようやくエルは、最初エミリーが頑なに依頼の受理を断っていた理由を理解した。


「エミリーさんはこうなることが分かっていたから、ハンスの依頼を断ったんだね」


「ええ。ギルドの受付嬢をしてると同じような依頼がたまに来るのよ。今回はエル君たちの頑張りで無事に救い出せたけど、ほとんどの場合は既に殺されているか奴隷として売り飛ばされたってのがオチなのよ」


「そうなんだ・・・」


「今回はエル君も勉強になったと思うし、ハンスさんは気の毒な結果になったけど、彼から預かった報酬はちゃんと渡しておくわね」


 そう言って渡されたのは18ギルと34セントだった。


 銀貨や銅貨が混在した布袋を受け取るとそれを4等分し、エルはカサンドラの分と合わせた9ギルと17セントを受け取った。


 Bランククエストにしてはかなり少ない報酬だったが、ハンスに支払えるありったけの金額に込められた思いを想像し、エルの目から涙がこぼれ落ちた。



           ◇



 しばらくするとデルン子爵家の使者がギルドを訪れ、今回のヘル・スケルトン討伐結果が報告された。


 あくまで推計値とはなるものの、盗賊討伐クエストの依頼主はデルン子爵でありスポンサーの決定は絶対なので、これが報酬額の算定根拠となる。


【討伐対象、盗賊団ヘル・スケルトン】

・総人数870名

・頭目 1名

・幹部 9名(うち生存者、2名)

・団員 860名(うち生存者、110名)



【報酬対象者、獄炎の総番長】

・頭目 1名

・幹部 3名

・団員 370名(うち生存者、10名)



【報酬額】


・頭目 150G

・幹部 30G × 3 = 90G

・団員 50C × 370 = 185G


・生存者報酬 30C × 10 = 3G


合計 428G




「すげえ! たった1日で428ギルって、Bランククエストってめちゃくちゃ報酬が高いな」


 エルが感心しているとシェリアがドヤ顔で、


「まあまあってところね。ところで報酬の分け方はどうする?」


「考えるのがめんどくせえし、山分けでいいんじゃねえか。ジャンはどう思う」


「俺はどっちでもいい。リーダーに任せるよ」


「なら4等分ということで、一人152ギルだ」


「107ギルでっせ、アニキ・・・」


 エルの肩の上でため息をつくインテリに、大笑いするジャンとシェリアだった。



           ◇



 今回の一件でデルン領から盗賊が一掃された。


 そのため当分の間は治安が著しく改善し、女性が夜に出歩いても襲われる心配がなくなるだろう。


 冒険者パーティー「獄炎の総番長」は今回の功績が認められてランクCの筆頭に昇格、つまりデルンギルドで最上位パーティーにいきなりランクアップした。


 それとともにシェリアはBランク、エルはCランク、カサンドラはDランクと、新人冒険者としては異例とも言える昇級を果たした。


 そんなエルだったが、アニーとサラが村に帰れなかったことには心が傷つき、生涯アレス領の村に立ち入ることはなかった。


 その一方で修道院に入ったアニーたちとは、意外に早く再会することとなる。




            ◇




 翌朝ギルドにやってきたエルとカサンドラの二人。


 シェリアを待つ間、いつものように掲示板のクエスト一覧を見て時間を潰していると、エミリーが慌てて駆け寄ってきた。


「大変よエル君っ! 今回の盗賊討伐の件で、デルン子爵が直接褒美を渡したいと言ってきたのよ! 今すぐお城に来るようにって!」


「お城って・・・ええええっ!」

 次回、第1部最終章スタート。お楽しみに。


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[気になる点] ここまで読んで思った事を描きます。 文章も読みやすく、主人公含めその周りのキャラ達はとても好印象な者たちばかりで応援したくなるのですが、あまりにも世界観がクソすぎるのと、救いの無さすぎ…
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