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第44話 エクスプロージョン

 シェリアのバリアーは完ぺき過ぎた。


 あまりにも硬く、盗賊が破れないのは当然のこと、坑道の壁面も簡単に削り出せてしまったため、調子に乗ったシェリアが曲がりくねったアジトを一直線に掘り進めたのだ。


「やることが適当すぎるよ、シェリアは」


「エルにだけは言われたくないわね」


 そんなシェリアのバリアーに巻き込まれた盗賊たちは次々と土砂に埋まっていき、微妙なバランスを保っていた網の目のような坑道は音を立てて崩れ始めた。


「アジトが崩壊するぞ! まだ中に女たちが残っていたらどうするんだよ!」


「それは大丈夫。全員助け出せたのは確認したから」


「いつの間に?!」


「エルが剣を振り回して大暴れしていた時よ」


「そうだったのか・・・サンキューなシェリア。ならこんなアジト、滅茶苦茶に破壊してやれ!」


「了解よ、行っけーーっ!」


 地面が激しく揺れ、頭上には崩れた岩盤が雨のように降り注ぐ。


 そんな崩落現場をトンネルのシーリングマシンのように真っすぐ掘り進んで行くエルたちは、ついにアジトから脱出することに成功した。




            ◇




 アジトの入り口のある岩山からは、眼前に広がる原生林を遠くまで見渡すことができたが、そこでは既に大規模な戦闘が始まっていた。


 アジトを脱出した盗賊の数が意外にも多く、周囲を包囲していた騎士団と真っ向から衝突していたのだ。


「盗賊って一体何百人いたんだ。普通に恐ええよ」


 今頃エルは顔を青くするがジャンは呆れたように、


「だから俺が言ったじゃないか。このヘル・スケルトンの恐ろしさは戦闘力ではなく人数の多さだって」


「やっと理解できた。あの人数を相手にしてたら体力が持たん。シェリアに狼煙を上げておいてもらって本当によかったよ」


「そんなことよりエル。向こうにいるのってベリーズとタニアたち親衛隊じゃないの?」


「遠すぎてよく分からんが、あの見覚えのある感じはおそらく。でもアイツら、剣じゃなく魔法で戦ってるみたいだな。・・・木が邪魔でよく見えん」


「青いオーラがキラキラ輝いてるから、たぶんアイスジャベリンっていう水属性魔法を使ってるのよ。弓矢より遥かに強力な氷の槍で、騎士団の戦術にも採り入れやすいから好んで使われる攻撃魔法よ」


「だが、かなり押され気味のようだ。すぐに俺たちも参戦するぞ!」





 その時、上空から聞きなれた関西弁が聞こえた。


「アニキーっ! 大丈夫でっかー!」


「インテリじゃないか。一体どうしてここに」


「何言うてますねんっ! アニキのピンチや思うて、急いで駆け付けたんですわ。・・・ってあれ? 妖精の祝福を使うたのに、ピンピンしてはりますね」


「妖精の祝福ってあの初心者用クエストのことか?」


「それやおまへん、ハーピー族の魔法のことですわ。ワイには魔力がないさかい関係ない思うて特に説明せんかったんですが、妖精の祝福を使うと何でも望みが叶うというあれです」


「それって、おとぎ話に出てくるやつだな」


「へえ。でもその魔法を使うと、金銀財宝を得るのと引き換えにハーピーが使えばハーピーの寿命を、人間が使えば人間の寿命の半分を吸い取られますねん」


「恐わっ! とんでもなく恐ろしい魔法じゃないか」


「そうなんですわ。でもそんなこと知らへん人間は、自分の欲望を満たすためにハーピーに願い事をするんですけど、ハーピーは自分の命を使いたくないから、人間に魔法を教えて使わせるんですわ」


「ひでえ話だな。でもアイツら性格悪そうだし、別に驚きはしないけど」


「でもアニキは、そんな恐ろしい「妖精の祝福」を使うてもうたんですわ。しかもワイのおらん所で」


「サラが生き返ったのはそう言うことか・・・なら俺の寿命は半分になってしまったのか」


「それが、なってへんからビックリしてるんですわ。しかも「妖精の祝福」の効果は全く消えてまへんし、一体どんな願いをしたんでっか?」


「分からん。あの時は、サラが死んだと思って完全にブチ切れてたからな。強いて言えば融通のきかん神様をしばき倒したろうかと思ってたぐらいかな」


「神様をしばき倒すって、そんなメチャクチャな! まあ、よう分かりまへんが、祝福の効果はずっと継続してるようですし、何かの拍子にまた発動することもあるんちゃいますか」


「寿命が減ってないのなら特に興味はない。そんなことより今は盗賊どもとの戦いだ!」


「それなんですけど、空からここまで飛んできた時、辺りの戦況も確認しといたんですわ。全体的には騎士団の優勢なんですが、左翼の一角にだけ攻撃が集中してまして、たぶん女騎士ばっかりやから弱いと思われてるんとちゃいますかね」


「女騎士ばかりって、もしかしてベリーズたちの部隊か! インテリ、詳しく状況を教えてくれ」




           ◇




 インテリの話を元に、エルが作戦指示を出した。


「敵を一気に殲滅するため、シェリアのエクスプロージョンを使いたい。俺が盗賊団のど真ん中に飛び込んでいくから、超特大級のド派手な一発を頼むぞ」


「私の出番ね! でもエルはともかく、ベリーズたちが爆発に巻き込まれたら大変なことになるわよ」


「アイツらは騎士団だからバリアーで防げると思う。もちろん作戦は事前に知らせておきたいし、ジャンにはその伝言役をお願いしたい」


「つまりお前さんと一緒に盗賊団に突撃するんだな。面白そうだし乗った!」


「ありがとう。カサンドラはここでシェリアとアニーたちを守り、インテリは空からシェリアに発射指示を出してくれ。そしてシェリアは余計なことを考えず、心置きなくエクスプロージョンをぶっぱなせ!」


「「「了解!」」」




           ◇




 岩山を駆け降りて原生林に突入したエルとジャンの二人は、シェリアの狼煙が延焼して炎が立ち上る林の中を全速力で走り抜けて行った。


 そして盗賊団の群れの最後部に食らいつくと、行く手を遮る盗賊を斬り捨てながら、前へ前へと突き進んで行く。


 やがて盗賊団の先に、騎士団の姿が見えて来た。


「たぶんベリーズとタニアたちだ」



 青いオーラが煌めき、騎士団からは氷の槍が一斉に原生林に向けて撃ち込まれる。


 だが木の幹に隠れてそれをやり過ごす盗賊たちは、僅かな間隙に矢を放って応戦する。


 そんな騎士団の中にベリーズの姿を見つけた。


 初陣だからか、かなり緊張した面持ちで必死に魔法を撃ちまくっている。


 そんな彼女の隣には、矢をことごとく叩き落していくタニアの姿があった。


 魔法攻撃の邪魔になるからか、ベリーズの周りにはマジックバリアーが展開されていないみたいだった。



「みんな頑張ってはいるが、やはり盗賊の数が多すぎるみたいだ。俺はここに留まって敵を引き付けるからジャンは騎士団に向かってくれ。作戦開始だ!」


「了解だ。こんな所で死ぬなよエル」


「おうよ!」


 ジャンが一気に加速すると、盗賊どもを弾き飛ばしながらアレス騎士団へと駆け抜けて行く。


 一方エルは適当な所で立ち止まると、思いっきり息を吸い込み、遠くまで聞こえるよう大声を上げた。



『嫁も貰えねえようなロクでなしのクズども! そんなに女が欲しければ、女騎士じゃなくこの俺を捕まえて見やがれーーーっ!』


 すると盗賊たちの攻撃の手が一斉に止まり、みんながエルの方を振り返った。


 そしてその姿を見た盗賊たちは、ゴクリと唾を飲みこむと顔を上気させて興奮した。


「おい、あんな所で女が俺たちを誘っているぞ。しかもとんでもねえ美女と来た!」


「あんな上物見たことねえぜ・・・俺は女騎士よりこっちの女にしよっと」


「おいちょっと待て、あの女は俺のものだ!」


 エルを見た盗賊たちは、我先にとエルに殺到する。彼らは戦いの勝敗より刹那の快楽を優先させたのだ。


「こらあ! 持ち場を離れるな、お前ら! 騎士団に背を向けたらすぐにあの世行きだぞ!」


 盗賊団幹部は、手下どもに言うことを聞かせようと声を張り上げたが、下っ端ほど女に飢えているため、幹部の命令など全く耳に入っていなかった。


 エルの周りに集まった盗賊たちは、目を血走らせながら前屈みに「はあはあ」と息を荒げ、我先にエルに飛びかかろうと足の引っ張りあいを始める。


 そんな盗賊たちを横目に、エルは冷静にその魔法を発動させた。



【無属性初級魔法・マジックバリアー】



 シェリアの強力なエクスプロージョンに耐えるために身に着けた、魔力さえあれば誰でも使える詠唱要らずの魔法「マジックバリアー」。


 エルは残る魔力の全てを投入し、全力でバリアーを展開した。



 キーーーーーーーーーーーンッ!



「さあ来い盗賊ども! バリアーを最初に突破できた奴には、褒美にこの俺をくれてやる。好きにしろ!」


「「「どけーっ! こいつは俺の女だーっ!」」」





 上空でその様子を見ていたインテリは、盗賊たちの群れにエルが飲みこまれたのを確認すると、シェリアに大声で告げた。


「シェリアはん、今やっ!」


 既に魔法の詠唱を終えて、いつでも発射できる態勢が整っていたシェリアは、こくんと一つ頷くと、その魔法を発動させた。



【火属性上級魔法・エクスプロージョン】



 すると上空に巨大な魔法陣が出現し、その中心部から白い光点がゆっくりと地上に落下していく。


「行っけーーーーーーっ!」


 シェリアが叫ぶと、光点はその輝きを増しながら、エルのいる方向へと加速して行った。そして、



 まばゆい閃光が放たれ、それに続く衝撃波が原生林を根本から薙ぎ払った。


 巨大なきのこ雲が無気味に沸き立つと、轟音と稲妻を伴って空高くへと昇って行った。







 アレス騎士団左翼に展開していたベリーズは、エルの作戦を伝えたジャンの隣でその推移を見守っていたが、盗賊の群れに飲み込まれた美女がエルだと聞かされても、いまだに信じられないでいた。


 だが上空に出現した巨大な魔法陣を目の当たりにすると、ベリーズは思わず驚きの声を上げる。


「本当にエクスプロージョンを撃ってきた! あんな上級魔法を使える冒険者がいるなんて本当に信じられないんですけど、シェリアって一体何者なの」


 好奇心旺盛なベリーズが、上空の魔方陣から白い光点が落下する様子をボンヤリ見ていると、タニアが慌ててベリーズに飛び付いた。


「そんなことは後でお考え下さい! 総員、マジックバリアーを全力展開! 地面に伏せろっ!」


 タニアに頭を押さえられ地面に伏せさせられたベリーズは、それでも顔を上げて作戦の行方をその目にしっかりと焼き付けた。


 白い光点が美女のいた辺りで炸裂すると、眩い閃光とともに巨大な火球が膨れ上がり、原生林を根こそぎなぎ払っていく様子を見届けた。


 衝撃波と熱線、爆風、地揺れ、轟音。


 ベリーズに次々と襲いかかる巨大なエネルギーは、目の前の原生林をその大地ごと上空へと巻き上げて、赤黒い爆炎が不気味に視界を遮る。


 昼間なのに真っ暗になった原生林は、だがしばらくすると光が差し込み、爆風と轟音が次第に収まって、徐々に視界が回復してきた。


「そろそろ大丈夫よね」


 ベリーズは居ても立ってもいられず、誰よりも先にその場に立ち上がると、爆心地にいたはずのエルの姿を探した。


 目の前の原生林はその一部が完全に消失して荒野と化し、地面はえぐれて巨大なクレーターが出来上がっていた。


 盗賊はおろか何も存在しないクレーターの中心に、だがたった一人、黒い服を着た美女が仁王立ちで剣を高々と空に掲げていた。


 光属性魔力のオーラで純白に輝くその姿は、戦いの女神と見紛うほどの神々しさを放っている。


「綺麗・・・」


 そのあまりに幻想的なエルの姿に、ベリーズはただただ見惚れるばかりだった。

 次回、本章エピローグ。お楽しみに。


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