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第42話 正義の鉄槌

「どうしたんだ俺は・・・一体、何が起きた」




 茫然と佇んでいたシェリアは、エルの声でようやく我に返った。どうやらエルは、自分が起こした奇跡を自覚していないようだ。


「エル、あなたは【聖属性魔法レイズ】を使ってサラを生き返らせたのよ」


「そう・・・なのか? いや確かに、サラが光に包まれて浮かび上がっていくのをこの目で見てはいたが、その時の俺は俺が俺でないような・・・わからん!」


 エルは頭を掻きむしって混乱したが、すぐに正気に戻らざるを得ない事態が発生した。





「嫌あああああっ!」


「サラ?」


 身体の傷が完全に癒え、アニーに抱き抱えてられていたサラは、意識を取り戻すと目を見開いて叫んだ。


「お願い! 私を殺してーーっ!」


 絶望の表情で泣き叫ぶサラを、アニーは涙を流しながらギュッと抱きしめる。


「辛かったね・・・サラ。あんたの気持ちは痛いほどよくわかるよ・・・」


「この身体が嫌っ! もう自分で居たくない! 今すぐ死んで楽になりたい・・・お願い助けて・・・」


「ごめんねサラ・・・あんたを救ってやれるのはもう神様しかいないよ・・・でも私はずっとそばにいてあげるから遠慮せずお泣き」


「アニー・・・うわあああん!」


 エルの魔法で命が助かり、身体の傷も完全に癒えた二人だったが、心の傷までは癒されなかった。


 二人は人としての尊厳を踏みにじられ、精神的には盗賊たちに殺されたままの状態だったのだ。


 そんな二人を助けてやることもできず、エルはただおろおろするばかりだった。




「そんなに泣かないでくれ二人とも。俺にできることがあれば何でも言ってくれ」


 困り果てたエルにアニーは、


「・・・ありがとよエルちゃん。私たちがされたことはもうどうにもならないけど、死んだりはしないから安心しておくれ」


「そうか・・・でもサラは」


「この子もしばらく泣けばそのうち落ち着いてくるさ。でも今はそっとしておいておやり」


 自分の胸に顔をうずめて泣くサラの頭をなでながら、アニーは気丈に答えた。


 そんな二人を見ていられなかったエルは、自分が着ていた冒険者用インナーを脱ぐとアニーに手渡した。


「俺はこんな服しか持ってないけど、何もないよりはマシだろ」


 アニーはそれを受け取ると、


「ありがとよエルちゃん。遠慮なくお借りするよ」


「それからサラが落ち着いたら、こいつを着せてやってくれ」


 そう言ってエルは具足を荷物袋に放り込みながら、鎧と兜をアニーに指差した。


「小柄なサラには少し重いかも知れんが、素肌を隠すには十分なはずだ」


 そしてエルは荷物袋から黒い服を取り出すと、シェリアに向き直って、


「シェリア、俺はこれを着るから手伝ってくれ」





 黒のロングスカートのセーラー服に身を包んだエルは、襟の赤いリボンと黒のリボンチョーカーを締めて気合いを入れた。


 そして右腕の籠手だけ装備して、鞘から抜いた両手剣を地面に思い切り突き刺して、仁王立ちになった。


「男桜井正義、天に代わって悪を斬る!」



 ゴオオオオオオッ!



 光属性オーラが身体から溢れだし全身に力がみなぎってくると、金髪がキラキラと輝きを放った。そして澄んだ緑色の瞳が、凛々しく正面を見据える。


 サラに鎧兜を着せ終えたアニーは、そんなエルの姿を見て思わずため息を漏らした。


「エルちゃんって、とんでもない美人さんだったんだね。でもさっき首筋に見えていたあれって・・・」


「ああ奴隷紋だ。だから兜で隠していたんだ」


「そうだったのかい・・・」


「俺を軽蔑したか?」


「エルちゃんを軽蔑なんかしたりしないよ。でも村人には隠しておいた方がいいね」


「じゃあ、俺が奴隷だってことはここだけの秘密な」


「もちろん。私もサラも口が裂けても言わないよ」


「よし二人とも服を着たようだし準備完了だな。では今から盗賊団ヘル・スケルトンをぶっ潰しに行く。シェリアはバリアーでこの二人を守ってやってくれ」


「任せてエル! もう一切容赦なんてしなくていいから、あんな奴ら皆殺しにしちゃいましょう!」


「ああ。あわよくば生け捕りにして追加報酬を狙っていたが、そんはセコいまねはもうやめだ! てめえの一時の快楽のために平気で人の人生を踏みにじるような奴らは、絶対に生かしてはおけん!」




 エルは両手で自分の頬を叩いて気合を入れ直すと、エンパワーの魔法をかける。


不動明王ふどうみょうおう伐折羅神将ばさらしんしょう 虚空刹那破魔煉獄こくうせつなはまれんごく 帝王羅漢之男魂ていおうらかんこれおとこだま 光属性初級魔法・エンパワー】



 魔法が発動し、空気が震え地面が鳴動する。



 オオオオオオオオオオオッ!



 エルは剣で扉をぶち壊すと、元来た道を静かに歩き出し、ジャンとカサンドラの待つ戦場へと戻った。





 そこは地獄だった。


 狭い坑道に大挙して押し寄せて来る盗賊たち。


 そのことごとくを斬り捨てていく、二人の鬼神の姿がそこにはあった。


 辺りは血の匂いで咽返り、血の海にうごめく男たちの阿鼻叫喚の声が渦巻いている。


 そんな地獄にエルが颯爽と踊り出ると、襲い掛かる盗賊どもを血祭りに上げた。


 そして二人の方を振り返ったエルに、


「ほう、随分といい面構えになったじゃないかエル」


「エル殿のこの研ぎ澄まされた殺気は・・・フフッ、地獄への道案内はこのカサンドラにお任せを」


 腕を組んで不敵に笑うジャンと、片膝をついて騎士の礼をとるカサンドラ。


 そんな二人にエルは力強く言い放った。


「ジャン、カサンドラ。俺たちの手でヘル・スケルトンを壊滅させるぞ!」


 だが凛々しく敵を見据える美少女の出現に、盗賊たちは異様な興奮に包まれる。


「おいおい女だぞ。しかもとびっきりの極上品だ」


「うひゃー! やべえぜありゃ。うひゃひゃひゃ!」


「頭目に知られる前に、俺たちで食っちまうぞ」


「「「俺が先だーーーっ!」」」





           ◇





 坑道をゆっくりと歩くエルの隣には、カサンドラに締め上げられる盗賊団幹部の姿があった。


 男はうめき声をあげながら、頭目の部屋への道案内をさせられていた。


 そんなエルの進む道は盗賊どもの血で真っ赤に塗装され、その両脇には盗賊の骸が街路樹のように積み上げられていった。



 エルを見た男たちは、自分のモノにしようと目を血走らせて襲い掛かったが、その全員が一撃でミンチにされた。


 エルと盗賊にはそれほど戦闘力の差があるにもかかわらず、新たに現れる盗賊たちはその全員がエルの容姿に惑わされ、我先にと突撃を繰り返して、そのことごとくが返り討ちにされていった。


 そんな男たちを指揮していた盗賊団幹部は早々にエルに倒されたが、あえてトドメを刺されず、エルがたった一人で手下全員を倒していく様子を目の当たりに見せられたのだ。


 もちろん幹部は戦意喪失して、カサンドラの拷問を受けて四肢の骨を砕かれ、地獄の苦痛を味わいながら頭目の部屋への道案内をさせられたのだ。


 その後もエルに襲いかかる盗賊が後を絶たなかったが、隠れることすら無駄とも言わんばかりに、間合いに入った瞬間一刀両断に斬り捨てて行くのみだった。




 そしてエルは、頭目の部屋の扉を開け放った。

 次回「頭目vsエル」お楽しみに。


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