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第39話 村の悲劇②

 収穫祭辺りからヘル・スケルトンが村周辺に出没していたことを警戒していたガイは、この数日、高台の騎士詰所で自主的に見張り役を買って出ていた。


 それが奏功して盗賊団の襲撃に最初に気づいたガイは、アレス騎士団を連れて村の救援に駆けつけた。


 そして騎士団が正面から盗賊団に相対する間に逃げ遅れた村人を助けようと、秘密の地下道を通って反対側に回り込もうとしたガイだったが、出入口となる村の裏手の洞穴に差し掛かったところで中に入ろうとするアニーとばったり出くわした。


「こんなところで何をしている! 早く逃げろ!」


 だがアニーはガイの制止を振りほどくと、


「村の女たちが盗賊に捕まってるんだよ。助けに行くからあんたもついておいで!」


「女たちが・・・分かった俺も連れていってくれ!」


 そしてガイはアニーの後に続くと、ようやく追いついたハンスもガイの後ろに続いた。




 洞穴の中を進んで行くと、やがて村人の手で掘られた秘密の地下道へと続き、そこを通って村の地下に作られた非常用の隠し倉に入る。


 この倉こそ、盗賊に襲われた時のために穀物をこっそり隠しておく非常用のもので、中には今年取れた穀物がぎっしりと詰まっていた。


 アニーは壁に架けてある梯子を登り、天井板をずらしてとある農家の納屋に出る。その後をガイとハンスも続いて、納屋の扉の隙間から外の様子を覗き見た。




 そこはちょうど盗賊団の荷馬車の近くで、辺りには殺された村人の遺体が無残に転がっていたが、その盗賊たちは村の入り口付近で騎士団と戦っている。


 装備を整えた騎士たちに対し、着の身着のままの格好でナイフを片手に戦う盗賊たちであったが、その数が遥かに多かったためか戦いは意外にも均衡し、村中に散っていた盗賊たちも入り口付近に集結して騎士団との戦いに投入されていた。


 そんな状況の中、荷馬車を見張っていた盗賊たちも騎士団との戦いに呼ばれ、周囲に誰もいなくなった。


「今のうちに女たちを助けるよ!」


 アニーが指示を出すと、ハンスが先に外に出て荷馬車の陰から戦いの様子を覗き込んだ。


「俺が盗賊どもを見張っているから、アニーとガイで女たちを助け出してくれ」


「あいよあんた!」


「ハンス、気を付けてくれ」




 荷馬車は全部で3台あり、それぞれに穀物と女たちが無造作に乗せられている。


 アニーとガイは、女たちを縛り付ける縄をナイフで切っていくと、次々と荷馬車から降ろしていった。


「ありがとうアニー・・・グスッ」


「泣いている暇があるなら、さっさと逃げな。地下道を通れば高台に抜けられるよ」


「わ、分かったわ!」


 助けられた女たちは、涙を流してアニーとガイに礼を言うと、急いで地下道へと降りて行った。


 そうして馬車2台分の女たちを救出したところで、盗賊たちが荷馬車の異変に気づいて戻ってきた。


「マズい気づかれたか。もうここまでだ、逃げるぞ」


 ハンスは3台目の荷馬車に乗り込むと、まだ女たちの救出を続けている2人を連れて逃げようとする。


 このままでは自分たちも殺されてしまうし、盗賊に隠し倉を見つけられたら中の穀物を全て奪われ、村人は冬を越せなくなってしまう。それに高台への通路がバレたら、避難した村人にも危険が及ぶ。


 それでもアニーは女たちの救出を止めなかった。


「・・・私には女たちを見捨てられないよ」


「ダメだ! 今すぐ逃げるぞ!」


 ハンスは、アニーを無理やり荷馬車から引きずり降ろそうとするが、それを見たガイは自分が持っていたナイフをハンスに渡して、


「俺がおとりになる。その隙に女たち全員を助け出してくれ」


「・・・何を言ってるんだガイ、やめろっ!」


「ハンス、この村には男よりも子供を産める女の方が必要なんだ。だから・・・」


 そう言うとガイは荷馬車から飛び降りると、後ろを振り向くことなく盗賊に向かって走り出した。


 そして盗賊の一人を力一杯殴り付けると、その男が持っていたナイフを奪い取った。


「ガイーーっ!」


 そもそも盗賊になるような男は、食いっぱぐれて身体も貧相な元農夫が多く、農夫の中でも若くて強靭な肉体を持つガイに敵うはずもなかった。


 次々に盗賊を倒していくガイの奮闘を見たハンスは、貴重な時間を作ってくれたガイのためにも、アニーと手分けして女たちを救い出していった。


 圧倒的に数に勝る盗賊団は、ガイを殺してしまおうと怒涛のように襲い掛かる。それでもガイは盗賊たちに食い下がると大声で叫んだ。


「ちんけな盗賊どもめ! お前らのような虫けらが、この俺様に敵うと思っているのか。全員ぶち殺してやるからかかってこい。うおおっ!」


 ガイは盗賊の敵意を煽ると、ナイフを振り回して自分に注意を引き付け、女たちを助ける時間を必死に稼いだ。





 そんなガイのお陰で女を全て助け出せたアニーは、最後の一人に取りかかっているハンスに声をかけた。


「あんた、こっちは全部片付いたよ!」


「そうか。こっちも後一人だからアニーは先に逃げ」


 だがハンスの前に、怒りで目を血走らせた盗賊が突然現れた。


「おい貴様・・・せっかく捕まえた女どもを逃がしやがったな。くたばれっ!」


 盗賊はハンスを力いっぱい殴りつけると、ハンスはその勢いで荷馬車から転げ落ちて、さらに納屋の壁を突き破って身体が挟まってしまった。


 そんなハンスにトドメを差そうと、ナイフを握りしめて納屋に向かったその時、別の盗賊が慌てて駆けつけてきた。


「撤収だ! アレス騎士団の増援部隊が街を出発したらしい。ヤツラが村に到着する前に今ある戦利品だけでも確保しろとの上からの命令だ」


「それはマズいな・・・今すぐ撤収を急ぐぞ!」


 盗賊はハンスを無視して荷馬車を動かす準備を始めると、もう一人の盗賊がアニーを捕まえて縄で縛り、助けきれなかった女の隣に転がした。


 そんなアニーは盗賊たちに必死に懇願する。


「後生だから、この娘だけは助けてやっておくれ! 収穫祭でやっと幼馴染と結婚したばかりで、これから幸せになろうとしてるんだよ」


 するとその娘も、自分だけが助からなかったことをようやく理解したのか、狂ったように泣き叫んだ。


「イヤっ! お願いだから私を連れて行かないで! あなたーっ、私を助けに来てーーっ!」


 だが盗賊たちは脱出の準備を急ぐと、


「おい少し静かにしてろ。あまり騒ぐと二人ともここで殺しちまうぞ」


 それでもアニーは盗賊たちの説得を続ける。


「あんたたちも元は農夫なんだろ。まだ人の心が残っているなら、サラだけでも助けてやっておくれ。その代わり私はどうなってもいいからさ」


 すると盗賊もチラッとアニーの顔を見て、


「・・・まあ気の毒だとは思うが、女たちにほとんど逃げられちまったから、せめてお前たち二人を連れて行かないとこの俺が殺されちまうんだよ」


「そこを何とか、この娘だけでも助けておくれよ」


 アニーが必死に懇願するが盗賊は首を縦に振らず、サラも泣き叫ぶばかりだった。


「イヤーっ! 助けに来てバーツ! バーツーっ!」


 だが荷馬車の準備ができた盗賊たちは、アニーとサラを乗せたまま無情にも走り出す。


 するとこれまで気丈に振る舞っていたアニーも、ついに泣き崩れてしまった。


「あああああ・・・あんた・・・ハンスーっ! 私を助けておくれよ、ハンスーっ!」




 ハンスは必死に立ち上がろうとしたが、身体が納屋の壁に挟まってどうにもならなかった。


 そして走り去っていく荷馬車に向かって、ただひたすら叫んでいた。


「やめてくれーっ! 俺のアニーを連れて行かないでくれ! どうか頼む・・・」


 だが荷馬車はスピードを上げると、一気に騎士団を突破してそのまま村を出て行ってしまった。


「アニーーーーーっ!」




           ◇




「酷すぎる・・・」


 ハンスの話を聞いたシェリアは、止まらなくなった涙をハンカチで拭い、エルはあまりの怒りに肩の震えが治まらなかった。


「それでガイはどうなったんだ」


「死んだよ。自分がおとりになって盗賊たちを引っかき回していたが、奴らが逃げ去った後には、滅多刺しにされたガイの無残な死体が残されていた・・・」


「くそおっ! あいつは本当にいい奴だったのに」




 真面目で優しい人間ほど早死にし、他人を食い物にする悪人ばかりが我が物顔でのさばる。


 そんな理不尽な世の中に、エルは言いようもない怒りを感じた。


「・・・ああ分かったよ。誰も悪を裁かないのなら、この男桜井正義が天に代わって正義の鉄槌を食らわせてやる。そこで待っていろよ、ヘル・スケルトン!」

 次回「捜索」。お楽しみに。


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