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第37話 ベリーズ親衛隊

 翌朝。


 騎士団詰所で目を覚ましたエルたちは、手早く着替えると少し早めにベリーズの宿舎の前に参集した。


 その宿舎の前では既に準備の整ったベリーズがすぐにも飛び出して行きそうな勢いで、それを親衛隊の女騎士たちが必死に抑えていた。


「おお、やっと来てくれたかお前たち」


 エルたちにホッとした表情を見せたタニアだったが、まだ朝なのに早くも疲れの色がにじみ出ている。


「おはようタニア。ベリーズが朝から絶好調だけど、貴族令嬢のお守りって結構大変なんだな」


 すると親衛隊に囲まれていたベリーズがエルたちに両手を振って、


「おはようみんなぁ! 今日は視察じゃなく、穀物の運搬作業の警護を手伝うわよ。私は魔導騎士を目指しているから盗賊相手に実戦経験を積みたいのよ」


「はあ?!」


 朝から物騒なことを言い出すベリーズに思わず聞き返してしまったエルだったが、タニアも困った顔で、


「いきなり人間相手の実戦訓練など、危険ですからおやめくださいお嬢様!」


「だって街道には盗賊が出るんでしょ。彼らには何をしてもいいって法律で決まってるし、実戦の相手には丁度いいじゃない」


「盗賊を甘く見てはいけません。まずは低級モンスターからレベルを上げて下さい」



 貴族令嬢とは思えない二人のやりとりを見て、エルはこっそりシェリアに事情を聞いてみた。


 するとアレス騎士爵家は下級貴族で、領主というより主君家であるデルン子爵家に仕える戦闘集団の側面が強いらしい。


 そのため本家令嬢であるベリーズも一通りの訓練を受けているはずとのことだった。


「さすがシェリアだ。やっぱり貴族に詳しいな」


「なななな、何言ってるのよ! こっ、こんなの常識だし、知らないエルの方がおかしいのよ!」



 タニアは結局ベリーズに押しきられて、今日一日穀物の運搬警護を行うことになった。


 仕方なくタニアは親衛隊を総動員してベリーズの警護を行うことにしたが、タニア以下総員10名の親衛隊全員が女騎士だった。


 もちろんエルたち3人の戦力もタニアから当てにされ、移動用として軍馬を3頭割り当てられた。だが、


「・・・俺、馬に乗ったことないんだけど」


「「「はあ?!」」」


 その瞬間、ベリーズ親衛隊の全員がずっこけた。


「そんな本格的な騎士装備をしているヤツが馬に乗れないって・・・まさか冗談だろ?」


 タニアが呆気にとられたが、エルの装備を見て親衛隊の全員がエルを自分達の同類だと思い込んでいて、まさか馬に乗れないなど夢にも思わなかったのだ。


 そしてなんとも言えない微妙な空気が漂う中、


「それでは私の後ろにお乗りください、エル殿」


「私の後ろに乗りなさいエル」


 エルを自分の馬に乗せようと、カサンドラとシェリアがほぼ同時に声をかけたが、シェリアがエルの手を無理やり引っ張るとそのまま後ろに乗せてしまった。


「カサンドラは身体が大きくて体重も重いから、全身鎧のエルを後ろに乗せたら馬が可哀想でしょ。その点私は体重が軽いし馬も大丈夫だと思うの」


 するとカサンドラはシェリアの胸元を見ながら、


「確かにその通りだ。ではエル殿のことはシェリア殿にお任せしよう」


「ちょっとカサンドラ、どこ見て言ってるのよ!」


 頬を膨らませて怒るシェリアだったが、エルはそんな彼女にただ感心するばかりだった。


「カサンドラはともかく、魔法使いのお前が馬に乗れたなんてびっくりしたよ」


「ふっふーん、どう凄いでしょ! 私って馬にも乗れる魔法使いなのよ。見直してくれた?」


「見直した、見直した。お前って魔法以外は本当に凄いよな!」


「放っといてよ!」


 結局馬を1頭返して、シェリアの後ろにドッシリと座ったエルは、「座る位置が逆よね」とクスクス笑う女騎士たちを横目に見ながら、早く馬に乗れるようになろうと心に誓った。




           ◇




 農夫達が荷馬車の列をゆっくりと進ませる中、ベリーズ親衛隊は荷馬車ではなくベリーズを守りながら、農村とアレス騎士爵家の間を往復する。


 エルたちを含め14名もの騎士が帯同しているためか、盗賊はおろかモンスター一匹襲撃してこない。


 ベリーズは「実戦訓練にならないでしょ」とタニアに文句を言っているが、タニアはベリーズの言葉を完全に聞き流して馬を歩かせている。


 そんなベリーズの後方を守るエルは、隣に馬を寄せてきたカサンドラに小声で話す。


「カサンドラ、お前も気がついたか」


「ああ。さっきからかなりの数の盗賊がこちらの様子を窺っているようだ」


「急に数が増えてきたが、攻めて来ないところを見ると、まだ分が悪いと思っているのだろうか」


「おそらくな。だがあの様子はこちらに狙いを定めているように見える」


「しかしあれだけの人数なのに姿を隠しきっているのは、奴らがただの盗賊団ではない証拠だな」


「ヘル・スケルトン・・・」


「どうやらタニアも気づいたようだ。ベリーズに気づかれないように親衛隊に指示を出して守備隊形を変えてきたぞ。俺達も動きに合わせて守りの手薄な場所にこっそり移動しよう」




           ◇




 その後も盗賊団にしつこく付け狙われたが、最後まで襲撃してくることもなくその日の警備を終えた。


 そしてベリーズを屋敷まで送り届けて、タニアから業務完了証を受け取ったエルは、彼女からこっそり耳打ちをされた。


「他の部隊にも確認したが、あの盗賊どもはどうやら女騎士ばかりの我々に狙いを定めていたらしい。親衛隊を総動員したことが裏目に出てしまったが、お前達がいてくれて本当に助かった」


「普通の盗賊と違って、戦力計算のできる統率の取れた連中だったな。やはりあれがヘル・スケルトンか」


「そうだ。急速に勢力を拡大してきた盗賊団でデルン騎士団も対策に本腰を入れ始めたと聞いている」


「農夫たちに聞いたが相当残虐な奴ららしい。今日は何とかやり過ごせたが、あまりベリーズに振り回されるなよタニア」


「ああ、忠告に感謝する」


 握手を交わしてタニアと別れたエルだったが、今回のクエストを通して、ヘル・スケルトンへの警戒心は最大限に増していた。



            ◇



 クエストを終えたエルたちは他の冒険者ちともにギルドに帰還したが、カウンターではエミリーがエルの帰りを待ちわびていた。


 早速タニアから貰った完了証を見せると、一人10Gずつ報酬が渡された。


「お疲れ様でした、エル君」


「ありがとうエミリーさん。これでやっと奴隷商会の借金が返済できるよ」


「そのオーナーが首を長くして待ってるわよ」


「えっ?」


 エミリーの視線の先を見ると、後ろのテーブル席に奴隷商会「アバター」のオーナーが座っていたが、エルの姿を見て立ち上がると、にこやかな笑顔でカウンターまでやって来た。


「1ヶ月ぶりだなエル君。200Gはちゃんと用意できたのかな?」


「もちろんだ。耳を揃えて全額お返しするぜ」


 するとオーナーは満足そうに頷いてエミリーに支払手形を渡した。そして彼女からライヒスギルダー金貨2枚を受け取り、それをじっくり確認する。


「うむ。確かに200Gは受け取った。これであの亜人二人は完全に君のものだ。おめでとうエル君」


 そう言ってエルと握手をするオーナー。


「借金を返せてホッとしたよ。これで二度と奴隷商会とは付き合わないからな」


「おやおや随分と嫌われたものだな」


「当たり前だ!」


「だがエル君好みの悲惨な奴隷女は、まだまだたくさんウチにいるぞ。今ならエル君限りの特別価格で分割払いもOKだ」


「アホかーっ! そんな話は絶対聞きたくないし借金も二度とごめんだよ!」

 次回「エルの新しい服」。お楽しみに。


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