表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/203

第31話 収穫祭

 奴隷商会「アバター」への借金返済期日を明日に控えた朝、「獄炎の総番長」の3人がギルドのテーブル席に座って今日のクエストについて相談していた。


 普段はキャティーと行動を共にしているインテリも、この日は知恵袋としてエルに付いてきている。


「インテリ、明日期限の200Gだが何とかなりそうなんだよな」


「へえ。アイテムを売れば返済できますけど、もうひと踏ん張りして現金で返済した方がすっきりするんとちゃいますか」


 そう言ってインテリが現時点の全財産を報告する。



□所持金=185G


□アイテム=50G

 ポーション2(売価12G)

 傷薬2(売価4G)

 ランプ2(売価10G)

 ロープ2(売価6G)

 ナイフ2(売価10G)

 荷物袋2(売価8G)


□総額=235G


「アイテムは初心者クエストで手に入れてから一つも使うてないから2人分100Gの半値で50G、剣や防具、光の魔石は最初から売るつもりがあらへんので、ここには含めてまへん」


「つまり現金は185Gか。かなり稼いだつもりでいたんだけど、こんなものなのか・・・」


「キャティーはんのおかげで食費は助かってますが、身体を作るために肉を多めに買うようにした分をアニキたちの稼ぎで補ってます。後はナギ工房から消耗品を買い足したり冒険者仲間との付き合いとか何だかんだ費用がかさんだ結果、1か月トータルでこの金額になったんですわ」


「まあ、借金返済に目途が立ってひとまず安心だが、現金返済と言ってもあと1日で15G稼ぐのは少し厳しくないか。宿代もそろそろ請求が来る頃だろ」


「へえ。経費を考えたら20Gの現金収入を見といた方がいいんですが、実は1泊2食付きで一人10Gという破格の報酬が貰えるクエストがあるんでっせ。しかも女冒険者限定で」


「・・・女冒険者限定かよ。また奴隷オークションの警備とかじゃないだろうな」


 エルは女冒険者限定という言葉に疑心暗鬼になっており、奴隷商会の仕事ならもちろん断ろうと思っていたのだが、インテリは涼しい顔で説明を始める。


「今、各地の農村では収穫祭が開かれとるんですが、アレス騎士爵家が警備の補充を募集してるんですわ。特にご令嬢はんが祭りに参加される際のボディーガードが足りひんらしく、腕の立つ女冒険者が何人か欲しいそうです」


「ご令嬢のボディーガードか。なんか楽そうだし1泊2食付きということは、ひょっとして俺たちも祭りに参加できるんじゃないのか」


「さいです。かなり盛大にやるみたいでっせ」


「やっぱりそうか! 祭なんか久しぶりだな」


 前世の盆踊り以来の祭にエルがガッツポーズで喜んでいると、カサンドラも満足そうに頷いた。


 これで二人分の報酬20Gが加算され、クエストが無事完了すれば明日の時点で現金が205Gとなり、借金は完済される。


 だがシェリアだけは不満そうな顔で、


「エル、悪いことは言わない。その仕事は止めた方がいいわよ」


「どうしてだシェリア」


「アレス騎士爵家は貴族なのよ。私、貴族とは関わり合いを持ちたくないの」


「貴族か。確かにあまり関わりたくないが、かなり割りのいい仕事だし・・・」


「仕事は楽かもしれないけど、貴族令嬢なんてどうせ高慢ちきで平民を見下す嫌な女だと思うし、もしナーシス・デルンの子飼いの貴族家だったらマズいんじゃないの?」


「確かにそれはマズい。俺はあいつとトラブルを起こしているし、ヒューバート伯爵家の縁者だとかウソを付いてその場を逃げ切ったからな」


 エルはこの一か月間、街中では極力目立たないように気をつけてきたし、クエストも街から離れた荒野でモンスター討伐ばかりしてきた。


 それも全て街中でナーシスと出くわさないようにするためだったのだがインテリは、


「アニキ、そこは既にチェック済みで、アレス騎士爵はデルン子爵本家の直参。分家のナーシスとは派閥が異なり、どうやら敵対関係にあるみたいでっせ」


「敵対関係だと? ていうか貴族に派閥があるのか。不良連中もいろんなグループに分かれて抗争してたし似たようなものなのかな・・・」


「貴族も不良も、ついでにやーさんもみんな勢力争いが大好きでっから同じ人種と考えて間違いあらへん」


「貴族と不良は同じ人種・・・なるほど!」


 貴族を別世界の生き物で到底理解できないものだと思っていたエルは、インテリの話を聞いて彼らも同じ人間なんだと、妙に納得感を覚えた。


 たがシェリアは、それでも嫌がるそぶりを見せる。


「ねえエル。そんなクエストじゃなく、いつものモンスター討伐にしましょうよ。お金が足りなければ私が払ってあげるし・・・」


「それはダメだ。これは俺が作った借金だし仲間から金を借りることだけは絶対にしたくない。いざとなればアイテムを売れば済むことだし、今回は金銭的にも余裕がある」


「だったらモンスター討伐を・・・」


「そこなんだが、アレス騎士爵家がナーシスと敵対関係にあるというのが気になるんだ。もしここで顔をつないでおけば、ナーシスとトラブった時に力になってくれるかもしれないし、ついでにこの街の貴族について少し勉強しておくのもいいかと」


「それはどうかしらね。分家とは言えナーシスは子爵家一族で副騎士団長だし、たかが騎士爵家が彼と対抗できるとは思えないわ。それに貴族のことなんか勉強したって何も面白くはないわよ」


「シェリアって、貴族のことが本当に嫌いなんだな」


「ええ、大っ嫌いよ!」


「・・・分かった。じゃあ今回のクエストは俺とカサンドラの二人だけで受けることにする」


「エル、私を置いていくつもりなの? ・・・もう、仕方ないわね。私も一緒に付いて行ってあげるわよ」


「シェリア?」


「だって世間知らずのエルとオーガ族のカサンドラの二人だけで貴族に会わせるわけにはいかないでしょ。今回だけ特別なんだからねっ!」


「そうか、すまんなシェリア」


 こうして3人は、アレス騎士爵家令嬢のボディーガードの仕事を受けることになった。




            ◇




 アレス騎士爵領はデルン子爵家直轄領の南側に接しており、エルたちが住む領都デルンからはそれほど離れていない。


 現地に到着したエルは、首筋に刻まれたデニーロ商会の奴隷紋をしきりに気にしていたが、特に反応もせず痛みも感じなかった。


 両親から聞いていた通りこの奴隷紋は子爵家家臣の領地を含む全域をカバーしているらしく、この程度の距離の移動では「逃亡」とは見なされないようだ。


 そんなアレス騎士爵領内には農村が広がっており、そこで収穫された穀物の半分は租税として騎士爵家の穀物庫に収納される。その運搬の際の警備を行うのがアレス騎士団の仕事である。


 ところがそのアレス騎士団の一部がデルン騎士団と共に現在遠征中らしく、今年の収穫祭では人手が足りないため冒険者ギルドに傭兵を募集していたのだが、こちらの仕事は男女を問わないため、エルが向かった騎士団の集合場所には、いつもの飲み友達のオッサンたちの姿を多数見かけた。


 エルが冒険者仲間に早速声をかけていると、その中に意外な人物を見つける。


「あれ、風来坊のジャンじゃないか? 今日は奴隷商の用心棒の仕事はいいのか」


 エルは、なぜか冒険者たちに混じって傭兵の仕事にありついていていたジャンに声をかけた。


 カサンドラは忌々し気にジャンを鋭く睨みつけたが、ジャンは時に気にする様子もなく飄々とエルたちに近づいてきて、


「よう、元気そうだなエル。それにあの時のオーガ娘も随分と男前になったじゃないか。お前さんにはまだ言ってなかったが俺はあそこの用心棒を辞めたよ」


「そうか辞めたのか・・・」


「ああ。今の俺は一介の冒険者で、今日はお前さんたちと同じ傭兵の仕事にありついたってわけだ」


 そう言ってニヤリと笑うジャンだったが、


「俺たちの仕事は運搬警備ではなく、騎士爵家令嬢の護衛なんだ」


「ほう、つまりベリーズ嬢の子守りってことか」


「ベリーズ嬢? 子守り?」


「おっと、噂をすればご本人が到着したようだ。俺はここで失敬するが、じゃじゃ馬娘の世話係を精々頑張ってくれたまえ。ハッハッハ!」


 右手をひらひら振りながら冒険者たちの集団の中に消えていくジャンと入れ替わるように、アレス騎士団の女騎士たちを連れた令嬢が俺たちの前に現れた。


 そのリーダー格の女騎士が、両手を腰に当ててエルたちに命令する。


「お前たちが護衛の募集に応じた女冒険者だな。こちらがお前たちがお守りするベリーズお嬢様だ。早くご挨拶をしろ」


 女騎士に急かされ慌てて一列に並ぶ3人。そしてエルが代表して挨拶をする。


「俺はエル。隣にいるのが炎の魔法使いのシェリアと剣士カサンドラだ」


 3人で頭を下げるとお嬢様がニッコリと笑った。


「私はアレス騎士爵家の長女ベリーズ。そして隣にいるのが私の親衛隊長のタニア。ちょっと口うるさいけど頼りになるのよ。明日の朝まであなたたちと一緒に私の護衛をしてもらうけど、よろしくお願いね」


 このベリーズという令嬢。


 ちょうどシェリアと同じぐらいの年齢で背格好もよく似ており、栗色の長い髪と淡い赤茶色の瞳が特徴的な、とても美しい女性だった。


 そして気さくな性格だったこともあってエルはほっと胸を撫で下ろしたのだが、ふっとベリーズの顔から笑みが消えると不思議そうに尋ねる。


「ところであなたたち3人に聞きたいんだけど、本当にただの冒険者なの?」


「え、どういう意味だ?」


 エルは思わず聞き返してしまったが、タニアが即座に反応する。


「エルと言ったか、お嬢様には敬語を使え」


「す、すまない。コホン・・・えっと、俺たちは新人冒険者ですが何か気になることでも」


 するとクスクス笑いながらベリーズが答える。


「ね、タニアって口うるさいでしょ。もし私の質問が気に障るようなら謝罪しますが、ひょっとしてあなたたち3人も私と同じ貴族なのかなと思って」


「え?」

 次回「貴族と平民」。お楽しみに。


 このエピソードを気に入ってくださった方はブックマーク登録や評価、感想、いいねなど何かいただけると筆者の参考と励みになります!


 よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ