第29話 ラヴィのおしごと
シェリアの熱血指導のもと、エルがベッドの上で応援団長風の魔法詠唱を練習していると、カサンドラが風呂から上がって来た。
「シェリア殿、お風呂をありがとうございました」
そう礼を言ったカサンドラは、何も服を身に着けていない素っ裸だった。
「うわっ! カサンドラ早く服を着ろ!」
慌てて目をそらしたが、カサンドラの裸体がエルの目にハッキリと焼き付いてしまった。
カサンドラは肌が緑っぽくて小さな角があり、頭髪以外に体毛が全く生えていないが、それ以外は普通の人間と同じだった。
胸はエルほどではないが十分に大きく、細くくびれたウエストと引き締まった尻、そして180cmを超える高身長でモデルのような抜群のプロポーション。
無駄な贅肉が一切なく、筋肉質で女性ボディービルダーのような精悍な肉体で、整った顔も含めてとても絵になる美しい女性だった。
隣のシェリアは羨ましそうにカサンドラを見た後、自分の胸を見て絶望の表情を浮かべているし、さっきまで退屈そうに浮かんでいたインテリは、鼻血を噴き出して床に墜落してしまった。
唯一ラヴィだけが何の反応も見せず、魔法の勉強を続けている。
そんなカサンドラの背後から、急いでメイド服を着こんだキャティーが飛び出して来て、
「ちゃんと服を着なさいカサンドラ! エルお嬢様の前で裸になるなんて失礼でしょ」
「そうか? オーガ騎士団では女騎士同士は裸の付き合いが普通だし、別に隠す必要はないだろう」
「ここはオーガ騎士団ではありませんっ! 女としての節度をわきまえてください」
キャティーにこってり搾られたカサンドラは、浴室に戻され執事風の服を再び着せられた。
◇
幸せそうに気絶しているインテリを茶碗風呂に無理やり浸からせると、キャティーが用意してくれた夕食をみんなで食べ始める。
キャティーが縫子の仕事で稼いだ日給で、売れ残りのパンと野菜、そして肉を市場で安く譲ってもらい、それを故郷・猫人族の里風の味付けで作った料理はとても美味しく、みんな残さず平らげてしまった。
「キャティーは裁縫だけじゃなく、料理も上手なんだな。母ちゃんの言う通り、いい嫁さんになるぞ」
エルはそう言ってキャティーを褒めたが、
「わたしはもうお嫁さんになんかなりません。男の人が怖いのです」
「男が怖い?」
「はい。わたしは人族との混血で他のみんなより成長が遅く、これからいい男性を見つけようとしていた矢先、猫人族の里に盗賊団が攻め込んできたのです」
それからキャティーは自分の身に起こった出来事を話し始めたが、それはとても聞いてられないような陰惨な話で、盗賊団はたくさんの猫人族を殺して食料を奪った上に若い女性をさらって行った。
その中にはキャティーも含まれたが、他の女性たちが盗賊たちにひどい目にあわされる中、唯一キャティーだけが商品として奴隷商に売られたらしい。
その後彼女たちがどうなったかはキャティーも知らないそうだが、奴隷オークションで男たちの欲望の目にさらされ危うくナーシスの奴隷にさせられそうになったことで、男性恐怖症になってしまったらしい。
ラヴィもエルフの里を襲った盗賊にさらわれたし、奴隷にされる女性の多くは盗賊団が絡んでいる。つまり人間の天敵はモンスターや害獣なんかではなく盗賊ではないのか、エルはそう考え怒りを爆発させた。
「盗賊どもめ絶対に許さんっ! 見つけたら手当たり次第血祭りに上げてやる! キャティーも無理に結婚する必要はないし、一生食っていけるように商売でも始めたらいい」
するとキャティーは笑顔で、
「承知しました。ではエルお嬢様のお世話を誠心誠意頑張って、お裁縫の腕を磨くことにいたします!」
「ああ! どんどん腕を磨いて、超一流の縫製職人になればいいさ」
「はい、頑張ります!」
◇
食事も終わり、エルは自分の宿に帰るため再び冒険者の装備を身に着け、ルームウェアをシェリアに返した。だがそれを受け取ったシェリアは、
「このルームウェア、エルにあげる」
「え?」
やっと脱ぐことのできた、屈辱のピンクのゆるふわワンピース。
それを再びエルに押し付けようとするシェリアと、絶対に受け取りたくないエル。
だが隣にいたキャティーが満面の笑みでそれを受け取ると、
「ありがとうございますシェリア様! エルお嬢様にとてもお似合いでしたし、これから毎日着ていただくことにいたします」
「喜んでもらえて嬉しいわ! それ私のお気に入りだったけど、エルに着てもらえるならその方がいいし、結構着心地がいいからそれで眠ると次の日も快適に過ごせるのよ」
「では夜は必ずこれを着て寝るよう、エルお嬢様にはちゃんと指導しておきます」
それを聞いたエルは愕然としたが、悲惨な体験をしたキャティーがこうして笑顔を見せているし、彼女の涙は二度と見たくない。
エルはぐっと我慢してルームウェアを受け取った。
◇
さて宿に戻ったエルたちは、これから共同生活1日目の夜を過ごすことになる。
自宅の奴隷長屋ではエルの装備を狙って盗賊が襲撃して来るため夜間も甲冑を着こんで警戒していたが、宿ではそんな必要もないため普通にベッドで眠ることができる。
エルは甲冑を脱いで冒険者インナーでベッドに横たわると、だがすぐさまラヴィが駆け寄ってエルの世話をしようとする。
「ラヴィ、俺は何でも自分でするから世話なんかしなくていいぞ」
それでもラヴィは目を潤ませてエルに主張する。
「ラヴィだけ家でお留守番だしちゃんと働きたいの。だからエルお姉ちゃんのお世話をさせて」
「働くって、そんな無理して・・・」
真剣にエルを見つめるラヴィに、キャティーとカサンドラも援護射撃をする。
「ラヴィはエルお嬢様に助けてもらった御恩をお返ししたいのです。どうかラヴィにも仕事をさせてあげてください」
「私からもお願いする。それに女性の願いを聞き届けるのが、エル殿の目指す真の男の姿であり騎士道精神ではないのか」
「真の男! 騎士道精神!」
その言葉にエルは腕組みをしてしばらく考えると、カッと目を見開きラヴィに言った。
「ようし分かった! ではラヴィの仕事は俺の世話に決定だ。しっかり頼むぞラヴィ!」
「うんっ! 一生懸命頑張るねエルお姉ちゃん!」
目を輝かせたラヴィは早速エルの世話を始めたが、その動きたるや、まさに神速だった。
エルの冒険者インナーを素早く脱がせて丸裸にすると、あっという間に女性用の下着を履かせてピンクのルームウェアを着せてしまった。
「はいできました。エルお姉ちゃん」
ニッコリ笑ったラヴィの顔を見て、ようやくエルは自分が屈辱のルームウェアを着せられたことに気がついた。
「この俺が何の抵抗もできずに、またこの格好にさせられたとは・・・ラヴィ恐るべし」
もはや抵抗する気も失ったエルがベッドに倒れ込むと、そのまま4人並んでベットで眠りについた。
◇
だが深夜、妙な違和感を感じてエルは目を覚ます。
隣で眠るラヴィが、エルの胸に顔をうずめてしきりに寝言を言っていたのだ。
「・・・ママぁ・・・ママぁ」
どうやらラヴィは夢にうなされているようで、エルはそっとラヴィを抱き上げて仰向けに寝かせ直した。
だがラヴィはすぐにエルの胸に顔をうずめて、「ママ、ママ」と寝言を繰り返す。
その閉じられた目蓋からは涙がにじみ出ていて、おそらくエルフの里が盗賊団に襲われて母親と引き離された時の夢を見ているのだとエルは思った。
だったらラヴィが安心して眠れるようにと、エルはラヴィをしっかり抱きしめ、青い髪を優しく撫でてあげた。するとラヴィの顔に安らぎが戻ってきた。
「よかったなラヴィ。せめて夢の中だけでも、母親と楽しく過ごすがいい」
エルはホッとすると、自分も眠ることにした。
だがラヴィが突然もぞもぞ動き出したかと思うと、エルのルームウェアの裾から中に潜り込んで、エルの胸を一生懸命吸い始めたのだ。
「うわっ! な、何だと・・・」
「ママぁ・・・ママぁ・・・」
まるで赤ん坊のようにオッパイに吸い付くラヴィ。
ハーフエルフの成長についてはよくわからないが、ラヴィはその見た目以上にまだ幼く、精神的にはまだ乳離れもしていない幼女だったのかもしれない。
だが男・桜井正義としてこの状況は屈辱以外の何物でもなかった。
「くそっ・・・ぐぬぬぬ・・・」
「ママぁ・・・ママぁ・・・」
幸せそうに寝言を言うラヴィとは対照的に、男としてのプライドをズタズタに引き裂かれたエルは、そのまま一睡もできずに朝を迎えたのだった。
次回、本章エピローグ。お楽しみに。
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