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第23話 エルの巣立ち

 奴隷オークションでラヴィたち3人を仲間に加えたエルは、5人での新生活を立ち上げるため、長年住みなれた奴隷長屋から巣立つことになった。


「父ちゃん、母ちゃん、ジェフ、ヨブ、エイク、ミル、みんな達者で暮らせよ」


 エルは心配そうに家族一人ひとりの手を握り締めて別れを惜しむが、ジェフが呆れたように言った。


「大げさだなエル兄は。どうせこの近くに家を借りるだけだろ」


「それはそうだが、本来家を継ぐべき長男の俺が家を出ていくんだから、お前が長男として一家を支えて行かねばならん。その覚悟はできているのか?」


「家を継ぐって言ってもウチは奴隷だし、エル兄は女だったんだから長男は最初から俺だろ」


「女の身体で生を受けても、常に俺は真の男を目指している。そんな俺から見れば、お前には長男としての自覚が足りん! 長男たるもの、」


「エル兄の男談義はもう聞き飽きたから、早く新しい家を探しに行けよ!」


「いや、ここからが大事な話で、」


 面倒臭そうにエルを追い払おうとするジェフだが、その腕の中にいるまだ1歳になりたてのミルは、エルが居なくなることが理解できたのか突然泣き出した。


「うわあああんん!」


「大変だ、ミルが泣き出したぞっ! ジェフ、ミルを俺によこせ」


 ジェフからミルを奪うと、エルはいつものようにミルを抱き上げてあやし始めた。


 この姿だけ見ればエルは小さな弟の世話を焼く優しい長女なのだが、そんな子供たちのやり取りを微笑ましく見ていたマーヤも、


「母ちゃんたちはそろそろ仕事に行く時間だし、ミルはジェフに任せてあんたも早く行きな」


「俺が家を出て行くというのにみんな素っ気ないな。それより母ちゃん、こいつらの服を徹夜で作ってくれて本当にありがとうな」


 マーヤは裸同然のキャティーとカサンドラを見かねて3人の服を一晩で繕ってくれたのだが、それに着替えた3人はみんなとても似合っていた。




 まずラヴィの服だが、奴隷商が着せていたお人形さんのようなドレスから華美なフリルや装飾を全て外して、平民の少女が着られるように作り変えた。


「昨日よりはマシになったが、それでもまだお嬢様っぽさが残っているな。誘拐されると危ないから絶対に俺の傍から離れるなよ」


「うん、エルお姉ちゃん!」


 嬉しそうにエルに抱きつくラヴィだが、彼女の長い耳を隠すための赤いフードも、街の流行を取り入れたデザインでとても可愛らしい。



 次にカサンドラの服だが、180cmを優に越える高身長が災いして母ちゃんの服を繕い直す訳にはいかなかったらしく、納屋の奥に仕舞い込んでいた父ちゃんの昔の服を繕い直したそうなのだ。


 確かに二人の体格は良く似ており、ほんの少しの手直しで済んだらしいのだが、


「おいインテリ、こんな男装の麗人をどこかで見た記憶があるんだが、何だったっけ?」 


「アニキ、宝塚歌劇団とちゃいますかね。毎週土曜の夕方にテレビでやってますがな」


「それだ! こうして見るとカサンドラってかなりの美男子だよな。それに父ちゃんがこんな服を持っていたなんて全然知らなかった」


 華美な装飾こそないものの、清潔な白いシャツとスラリと長い黒のスラックス。そして機能性とデザインを両立させたような黒い革靴。


 とても奴隷の所有物とは思えない高級感溢れる一品であり、さらに頭には角を隠すためのシルクハットまでかぶされており、カサンドラの整った顔がより引き締まって見えた。


 エルが感心していると、マーヤが少し得意げに話しだした。


「昨夜はキャティーちゃんが手伝ってくれたから大助かりだったよ。お裁縫が得意だし色々と気も利くし、きっといいお嫁さんになるよ」


 そんなマーヤの隣ではキャティーが並んでニッコリほほ笑んでいる。


 どうやら昨夜のうちにマーヤとすっかり意気投合したらしいが、そんな彼女自身も綺麗な服を着ていた。


 黒を基調としたワンピースに大きな白の襟が清楚さをかもし出している。そして白い前掛けと白い頭巾がとても似合っていて、ネコ耳がリボンの様に見える。


「・・・インテリ、キャティーの服装もどこかで見たことがあるんだけど、何だったかな」


「あれはメイド服でっせ」


「メイドって何だ?」


「洋画に出て来る、大富豪の家で働くお手伝いさんと言えば、アニキにもピンと来るんとちゃいますか」


「テレビで見た気もするが、お手伝いさんならやはり割烹着が基本だろう。だが、さすがインテリだな」


「分からんことは、何でもワイに聞いてください」


 そんな感じでどう見ても貧民街では浮きまくる服を着たラヴィ、カサンドラ、キャティーの3人が、エルの後ろに整列して一斉にマーヤに礼を言った。


「ありがとう、マーヤママ!」


「父上殿、母上殿、このような立派な服をいただき、誠にかたじけない」


「昨夜はお疲れさまでしたマーヤ奥様。人族のお裁縫の技術、大変勉強になりました」


 マーヤは満足そうに笑みをたたえると、


「みんな、エルと仲良くしてやっておくれ。それと、この家にはいつでも遊びに来ていいからね」


「「「はいっ!」」」




            ◇




 オットーとマーヤの仕事に合わせて、朝一番にギルドにやって来たエルたちは、二日酔いが治って元気にカウンターに立つエミリーを見つけ、奴隷商会であった出来事を話した。


 亜人3人を突然見せられたエミリーはとても驚いたが、すぐにいつも通りの気さくな笑顔に戻ると、彼女たちに挨拶をした。


「こんにちは! 私はこのギルドの受付嬢をしているエミリーよ。みんなエル君に助けられて本当によかったわね」


 すると3人を代表して、キャティーがスカートを軽くつまんでお辞儀した。


「初めましてエミリーさん。わたしはエルお嬢様専属メイドのキャティーと申します。わたしたち3人は、今日からエルお嬢様と一緒に暮らすことになったのですが、どこか安い借家を紹介頂けると助かります」


「エルお嬢様専属メイドって、・・・あらあらエル君もすっかり女の子らしくなってきたわね」


「違うんだよエミリーさん! 俺が真の男を目指しているのは変わらないんだが、奴隷商人が言うには猫人族はストレスに弱いらしく、キャティーの好きなようにさせた方がいいと思っただけなんだよ」


「ふーん、そういう事情があったのね。あそうそう、安い物件を探してるのなら、ウチのギルドが提携している宿屋にいい部屋があるから見てきたら」


「助かるよ、エミリーさん」


「それとナギ爺さんにエル君が昇格したことを伝えたらすごく喜んでいたわよ。後で顔を見せてあげてね」


「しまった! 爺さんにまだ報告をしてなかった」


「別に気にしなくていいわよ。ついでにその3人を紹介してくればいいし」


「そうだな。カサンドラの装備もいずれ揃えないといけなかったし、ちょっくら行ってくるか!」

 次回「新生活の始まり」。お楽しみに。


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