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第21話 新たな仲間

 ラヴィの落札価格100Gからオークションの警備報酬50Gを差し引いた50G。


 その支払手形を切ったエルは、ラヴィを連れて奴隷控え室から立ち去ろうとしたが、それをオーナーから呼び止められる。


「話はまだ終わっていません」


「この支払手形を冒険者ギルドに渡せば大銀貨5枚を支払ってくれるはず。俺はもうこんな場所に居たくないし、帰らせてもらうよ」


「ラヴィの件ではなく、別の話をしたいのです。いいからそこに座ってください」


「別の話だと?」


 エルは仕方なく椅子に座り直すと、再び部屋の扉が開いて従業員がぞろぞろと中に入って来た。


 だがその後ろには、ナーシスから回収されたあの亜人女性二人が連れられている。


「その二人がどうしてここに」


 鎖に繋がれた猫人族の女性は相変わらず涙を流して泣いていたが、エルの姿を見ると声を張り上げて助けを求めた。


「お嬢様っ! どうかわたしを助けて下さい!」


 一方オーガ女性も相変わらず反抗的な態度で、鎖をどうにか引き千切ろうと必死にもがいている。


「もぐーっ!! もがもがっ!」


 そんな二人の姿に心が痛くなったエルに、オーナーは真剣な顔で尋ねる。


「さてエル君。この二人がとても希少価値の高い亜人であることは理解できていると思いますが、そんな彼女たちの将来について君と相談がしたい」


「この二人の将来を・・・俺と相談?」


「はい。見ての通り二人は奴隷になりたくない一心でここから必死に逃れようとしている。そして今回は運良くナーシスの奴隷になることは避けられましたが、今のままではラヴィのようにここで下働きをした後、再びオークションに出されることになるでしょう」


「オーナーはまさか、この二人を俺に買い取れと」


「察しがよくて実に助かります。ナーシスから違約金を回収でき仕入代金の大部分は確保できてますので、君には一人100Gの特別価格でお譲りすることができます。どうです、悪い話ではないでしょう?」


「つまり二人で200Gか・・・いやいや、さすがに俺にはもう金がない」


「たった200Gが払えないと。でもキミは彼女たちを見捨てることができないはず」


「・・・何だと」


 オーナーはニヤリと笑うと、従業員に命じて猫人族の女性をエルの目の前に立たせた。


 すると彼女は大粒の涙をポロポロ流しながら、エルに必死の懇願を始める。


「どうか助けてくださいお嬢様っ! わたしは盗賊に拐われてこんな所に連れてこられ、奴隷にされようとしています! もしお嬢様のご慈悲をいただけたなら何だっていたしますので、どうかわたしを故郷の両親の元に返して下さい!」


 そしてエルにすがり付いて涙を流す彼女の姿にラヴィも感化されてしまい、目に涙を浮かべてエルの左腕をギュッと抱きしめた。


「エルお姉ちゃん・・・ラヴィ、この人の悲しい気持ちがよくわかるの」


「ラヴィ・・・」


 エルが居ても立ってもいられなくなると、オーナーはオーガ女性も無理やりエルの前に引きずり出した。


 オーガ女性は従業員やオーナー、そしてジャンに対しては憎しみのこもった眼で睨みつけていたが、エルの前に転がされて彼女を見上げたその表情は、彼らに対するものとは全く違うものに変化していた。


 その2つの瞳から険しさが完全に消え去ると、涙がにじんでとても切ないものに変わり、身体を止めてじっとエルを見つめるのだった。


 そのあまりにも悲しげな瞳についに耐えられなくなったエルは、彼女から目を背けてオーナーに言った。


「頼むからもう勘弁してくれ! 二人を助けたいのはやまやまだが、本当に金がないんだよ!」


 だがオーナーはさらに話を続ける。


「猫人族はストレスに弱く愛玩奴隷として買われてもそう長くは生きられないでしょう。そしてオーガ女性は奴隷にされても決して屈することはないので、怒り狂った買い主に殺されてしまうか奴隷紋の激痛に抗い続けた挙句、衰弱して死ぬことになります。エル君はそれでも構わないと」


「何だとっ! そんな酷い末路がこの二人にあっていいわけがないだろっ!」


 怒りに震えて立ち上がるエル。


「まあ落ち着いて椅子にお座り下さい。ですがエル君が200Gで彼女たちを買いさえすれば、そんな未来は訪れないのですよ。そして200G程度の金なら1か月ほど死ぬ気で働けば稼げるのではないですか?」


「俺に借金してまで彼女たちを買えと言うのか。そもそも俺には家族を解放するという大目的があって」


「君も、君の家族も奴隷だと言う話でしたが、1か月も待てないほど深刻な状況にあるのですか? この二人よりも緊急を要することなのですか?」


「そ、それは・・・」


「なら迷うことはないはず。彼女たちの分の支払手形の決済は1か月待つことに致しますので」


「・・・もし借金を払えなかった時はどうなる」


「その時は君の装備を担保として回収させていただきます。本当は君自身を担保にしたいところですが既に奴隷紋が刻まれているため担保価値はゼロですので」


「だがこの装備はナギ爺さんにもらった大切な」


 それでもまだ借金をためらうエルに、オーナーはとうとうその言葉を言ってしまった。


「エル君、それでも君は男の中の男なのですか!」


「何だとっ!」


「困っている女性がいれば、身体を張って助ける。それが真の男の姿ではないのですか!」


「まさにオーナーの言う通りだ。俺は一体何を考えていた・・・おいインテリっ! 俺はここで借金をして彼女たちを助けるぞ!」


 するとエルの肩に座って黙って話を聞いていたインテリが、大きなため息をつきながらエルに答えた。


「やれやれ、オーナーはんはアニキより1枚も2枚も上手でしたな。いつの間にか奴隷を購入する方向に話を誘導されてしまいましたがな」


「だがここで二人を見捨てたら、真の男には絶対になれない! 200Gの借金ぐらい構わんっ!」


「そら200Gぐらいやったら、アニキなら何とかなると思います。ラヴィはんを買った時点で所持金は40G残ってますし、アイテムの売却額を25Gとすると65Gがアニキの財産。つまり1か月間で135G稼げれば200G支払える計算です。でも生活はかなり・・・」


「生活を切り詰めることぐらい、奴隷の俺なら容易いこと! オーナー、その二人を200Gで買ったっ!」


「お買い上げありがとうございます。ではこの二人の奴隷紋の費用はサービスさせていただきます」


「それはいらない。ラヴィ同様、この二人はこのまま自由にしてやってほしい」


「承知しました。では商談は全て終了しましたので、私はここで失礼します。あ、そうそう、エル君好みの可哀相な奴隷女を探しておきますので、またのご来店を楽しみにお待ちしております」


「え?」





            ◇





「じゃあ仕事も済んだし、そろそろ俺も帰るよ。じゃあなエル」


 亜人二人の購入手続きも終わり、風来坊のジャンは従業員や手下たちと共に控室を後にした。


 そして部屋に残されたのはエルとインテリ、ラヴィ、亜人の2人と総額300Gの借金であった。


 なお猫人族とオーガ族の二人は、すでに鎖が外され自由の身になっている。


 エルは控室にあった奴隷用のボロ布を二人に渡して裸同然の身体を隠すよう指示すると、改めて今後どうするかを話し合うことにした。


 最初に話を切り出したのは猫人族の女性だ。


「大変な借金をしてまでわたしたちを助けてくれて、本当にありがとうございました。わたしは猫人族のキャティーと申します。年齢は10歳です」


「本当に10歳だったのか。猫人族は成長が早いな」


「人族と違って8歳で大人ですし、結婚もできます。わたしは人族との混血なので成長も少し遅いし、結婚もまだなのですが・・・」


「キャティーは故郷に帰りたいという話だったが、どうやって帰るつもりだ」


「実はここがデルンという街であること以外何もわからないのです。この街がどこにあるのか、故郷まではどうやって帰ればいいのか・・・。ですのでしばらくお嬢様の所に置いてもらえないかと」


「それは構わないけど、「お嬢様」と言う呼び方だけは止めてくれ。俺は奴隷の身分だし、真の男を目指す者にとってその呼び方は屈辱以外の何物でもない」


「いいえっ! わたしにとってお嬢様は命の恩人であり、お嬢様がどのような身分であろうとも、お嬢様はお嬢様ですっ!」


「わかった! もうわかったから「お嬢様」を連呼するのは勘弁してくれ。地味に心が折れる・・・」


「承知しました、お嬢様! わたしはお裁縫が得意ですので、お嬢様のお役に立てると思います!」


「お、おう・・・」


 エルが力なく椅子に座り込んだのと対照的に、さっきまで大泣きしていたキャティーの顔にすっかり笑顔が戻り、猫のように可愛い笑顔をほころばせていた。


 その笑顔を見てエルは思った。猫人族はストレスに弱いので、彼女が笑顔で長生きができるよう好きなことをさせてやろうと。




「じゃあ今度はオーガ族のお前だが、これからどうするつもりなんだ」


「お前ではなく、カサンドラと呼べ」


「そうか、お前はカサンドラという名前なのか」


「そうだ。今はこんな裸同然のみっともない姿だが、これでも誇り高きオーガ騎士団の団長だった」


「騎士団長閣下か! ・・・でも、なんでそんな凄い人が奴隷オークションなんかに」


「部下の副騎士団長の裏切りにあった。眠り薬を飲まされ気がつくと奴隷商人に売られていて、ここまで船で運ばれて来た」


「なんて卑劣な男だ・・・絶対に許せん!」



 ドガーーーンッ!!



 エルは卑怯な男が大嫌いで、カサンドラの話を自分のことのように怒り出すと、さっきまでジャンが座っていた椅子を素手でぶん殴って、叩き潰したのだ。


 それに見たカサンドラは、硬かった表情を少し緩めて「フッ」と笑みをこぼしながら話を続けた。


「だから私は復讐を誓った。必ず祖国に帰還し、私を裏切った副騎士団長ギガスを血祭りに上げてやる!」


「復讐か! ならカサンドラは今ここで解放するから絶対に目的を果たすんだぞ、いいなっ!」


 エルが力強くエールを送ると、だがカサンドラは急に元気がなくなり、


「私もキャティーと同じで、祖国に帰る方法が全く分からないのだ。だからしばらくは貴公の世話になりたいのだが」


「それは構わないが、貴公って呼び方は止めてくれ」


「そうか。では何て呼べばいい」


「エルだ」


「エルか・・・。だが落ちぶれたとは言え、これでも私は誇り高きオーガ騎士。ゆえに貴公への忠義の意味を込めて「エル殿」と呼ばせていただきたい」


「忠義?」


「私の顔を足蹴にして、騎士としての尊厳を徹底的に踏みにじった、あのナーシスとかいう卑劣漢。そんなアイツを完膚なきまでに叩きのめしてくれたエル殿は私の忠義を捧げるに足る人物なのだ」


「アイツは本当に酷いヤツだったな・・・」


「ああ。だが所詮男など、多かれ少なかれナーシスと同じようなもので、女をただの欲望の対象としか見ていないし、ギガスや他のオーガ男たちも女を襲うことしか考えていないようなクズだった」


「男が全員ナーシスみたいなクズだというのはカサンドラの誤解で、真の男にとって女は欲望の対象ではなく守る対象だ。だからこの俺がいる限り、カサンドラを二度とあんな目に会わせない」


「この私を守ってくれるつもりなのか。そんな男など今まで一人も見たことがなかったが、エル殿は女なのにどんな男よりも男らしいな。もしエル殿が本物の男だったら私はきっとエル殿を・・・」


「俺は真の男を目指しているから、この女の身体のことは気にしないで、俺を本物の男として接してくれて構わないぞ」


「本物の男として・・・事情はよくわからないがエル殿がそれでいいならお言葉に甘えさせていただこう」


「ああ。じゃあこれからよろしく頼むよカサンドラ。それにラヴィとキャティーもな」





 こうしてエルは、亜人3人を仲間に加えてしばらく一緒に生活することになった。そしてみんなで暮らす奴隷長屋へと家路についたのだった。

 次回、第3章のエピローグです。お楽しみに。


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