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第111話 エピローグ(その1)

 新学期初日。


 久しぶりに登校した生徒たちは、あちらこちらにグループを作って夏休みにあった出来事を楽しそうに話している。


 その中には取巻令嬢に囲まれたエレノアの姿もあったが、始業のチャイムがなってホームルームが始まると、ジル校長と共にエルとその仲間たちが教室に入ってきた。


「今日は皆さんに残念なお知らせがあります。ここにいるエルさん、スザンナさん、エミリーさん、キャティーさん、マリーさん、ベッキーさん、ユーナさん、そして魔法講師のシェリア先生がこの寄宿学校を去ることになりました」


「えーーーーーっ」


 突然のことに驚く生徒たちだったが、続くジル校長の言葉に生徒たちはさらに驚く。


「それからエルさんからの頼みでみんなには黙っていましたが、実はエルさんはヒューバート伯爵家の令嬢ではなく、アスター大公家の皇女殿下でした。そして皇帝陛下と話し合った結果、エルさんはこの国を去ることになり、新たに建国される新帝国の初代皇帝になることが正式に決まりました」


「えーーーーーーーーーーーーっ!」


 騒然とする生徒たちの前で、エルが別れの挨拶を始めた。


「短い間だったが、仲良くしてくれてありがとうな。俺は南方新大陸に引っ越すが、もし旅行で来ることがあればブリュンヒルデ宮を訪ねて来てくれ。いつでも歓迎するぞ」


 簡単に挨拶を終えると、女生徒の一人が恐る恐るエルに尋ねる。


「皇女殿下・・・あ、違った。こ、皇帝陛下でいいのかな?」


「俺はまだ皇帝じゃないし、エルでいい」


「じゃあエル様、新帝国ってどんな所?」


「そうだな。南国だからビーチがあるし、サバンナやジャングル、砂漠もある。あと高い山には雪が積もっている」


「な、何でもありそうですね」


「確かに何でもあるな。それと普通の人間はほとんどいなくて、いろんな亜人が住んでいる。キャティーみたいな猫人族や、身の丈2メートルを超える竜人族がいたり、あとはサキュバスやエルフといった妖精族、オーガ、オーク、ゴブリンといった鬼人族まで何でもいるぞ」


「そ、そうなんだあ・・・」


 なぜか絶句したその女生徒に変わって、他の生徒たちも手を上げた。


「国の名前は何ていうのですか?」


「名前はまだない」


「帝都はどこですか」


「妖精の森のすぐ近くだけど、名前はまだない」


「エミリーさんはどうして髪を青く染めたの? 夏休みデビュー?」


「これは染めたんじゃなく地毛だ。エミリーさんはなんと妖精シルフィードだったんだ」


「ええっ?! エミリーさんって妖精だったんだ」


 その後も色んな質問が生徒たちから出されたが、あまりに多いためジル校長が止めた。


「そろそろ授業が始まるのでホームルームは終了よ。最後に級長のエレノアさんからお別れの言葉を伝えてください」


「はい、ジル校長」


 そう言って立ち上がったエレノアが、エルに向けて丁寧にお辞儀した。


「初めて会った頃は意地悪ばかりして本当にごめんなさい。それでも仲良くしてくれてエル様には感謝しかありません。わたくしはこの学校に残りますが、これからも切磋琢磨して互いの帝国を盛り立てて行きましょう」


「おうよエレノア様。そしてみんなもありがとな」


 エルの言葉にニッコリほほ笑んだエレノアは、獄炎の総番長のメンバーを辞めた訳でもなく、エルと共にバビロニア王との交渉に臨む予定だ。


 しかも長期休暇にはブリュンヒルデ宮に遊び来るらしく、エルとは今後も長い付き合いになるだろう。



           ◇



 寄宿舎を引き払ったエルは、アニーとその巫女たちにも別れを告げた。


「じゃあな、アニーとみんな」


「エルちゃんがいないと修道院も寂しくなるねえ」


「別にこれが今生の別れでもないし、みんなもそのうち俺たちの国に移住してくるんだろ」


 修道士や修道女には布教の役目があり、南方新大陸への渡航許可も普通の人より格段に下り易く、行こうと思えば簡単に行ける。


 だがアニー巫女隊は今やゲシェフトライヒ修道院の主力中の主力であり、今ここで全員に抜けられると貧民の病気やけがを治す人がいなくなってしまう。


 そのため十分な数のシスターが揃うまでは、この修道院から出られないのだ。


「救世主エル様。このサラめだけは、地獄の果てまでご一緒させていただきます!」


 だがサラはそんな事情もお構いなく、クリストフに泣きついて修道院を去ることになった。


「修道女のくせに地獄に行ってどうすんだよ。まあ、お前の場合はこれまでの実績がずば抜けて凄かったから、修道院を出て行くことを他の枢機卿たちも認めてくれたらしい」


「南方新大陸でも、この治癒魔法で貧民たちをガンガン治しますぜ」


「おうよ! それにウチのパーティーの治癒担当としても期待してるぜ」


「ははあっ。このサラめにお任せあれ!」


 一方クリストフは、エルが国を出ていくことが決まったため、セレーネ女王に拘束の魔術具を外してもらうことができた。


 その結果、彼にはエルに付いていく大義名分が無くなってしまい、ゲシェフトライヒ大聖堂から離れることができなくなった。


「アメリア、もう僕を置いてどこかへ行ってしまわないと約束してくれるか」


「別にいいけど、私はインチキ宗教家なんかと結婚はしないから」


「だからシリウス教はインチキ宗教じゃないって!」


 相変わらず同じ会話を繰り返すこの二人は、芸を磨いて夫婦漫才でも始めた方がいいと、エルは思った。



           ◇



 商都ゲシェフトライヒにあるエルの実家は、修道院の近くにヒューバート騎士団が借り受けた駐屯地の中にあった。


 兵舎の一画の小さな一軒家に、エルの両親が下の弟たち二人と暮らしている。


「ただいま母ちゃん!」


 半年ぶりに実家に顔を出したエルは、家の中で家事をしているマーヤに声をかけた。


 するとマーヤは驚いた顔で、


「おやエルかい! 少し見ないうちにまた胸が大きくなって。元気に暮らしていたようで安心したよ」


「胸が? 剣が振り難くて邪魔だなと思っていたが、またデカくなってたのかよ。ていうか母ちゃんも随分と腹がデカく・・・ってその腹はまさかっ!」


「これかい。またあんたに弟か妹ができるんだよ。どうだい嬉しいだろ」


「嬉しいというか・・・年甲斐もなく、結局そうなっちまったかというか」


 エルはそう言うが、若くしてエルを産んだマーヤはまだ30代半ばであり、世間的にもまだまだ普通に出産できる年齢である。


 しかもデルン領での一件以来、オットーとマーヤはそれまで以上に仲睦まじくなってしまったのだ。


 特にデルン領から商都ゲシェフトライヒまでの道中はまるで新婚旅行の様な熱愛ぶりで、片時も離れようとしない両親を生暖い目で見守るしか、エルと弟たちにはやりようがなかった。




 やがてオットーが仕事から帰って来ると、挨拶もそこそこにエルは二人を自分の前に座らせた。


「父ちゃんも母ちゃんも聞いてくれ。皇帝と話がついて、二人を奴隷から解放してもらえることになった」


「皇帝陛下と話って・・・どういうことだエル」


「一生奴隷として生きていくよう言われたのに、まさか陛下と変な約束でもしたんじゃないのかい」


 互いに顔を見合せたオットーとマーヤは、心配そうな様子でエルに尋ねる。


 だがエルはニッコリ笑顔を見せると、アナスタシア大公妃の失態を尻拭いする代償としてこの成果を勝ち取ったことを伝えた。


 すると二人は、


「アナスタシア大公妃がお前にそんな酷いことを! だが無事で本当によかった・・・」


「それにエルのおかげで母ちゃんたちが救われたんだね。本当にありがとよエル。あんたが母ちゃんの元に産まれて来てくれて、本当に良かった・・・」


 堪えようとしても涙があふれ出すオットーとマーヤは、エルの手を握りしめると声を上げて泣き始めた。


「よかったな父ちゃん、母ちゃん。これで俺たち家族は完全に自由だ」


 その夜エルは、貧民街で暮らしていた頃のように家族全員で眠りについた。



           ◇



 翌朝。


 帝都ノイエグラーデスに両親を連れて行くため、小さな弟たちの世話係としてキャティーを呼んでいたのだが、エルの実家に現れたのは二人の女性だった。


「おや、あんたたちは」


 不思議そうな顔でマーヤが招き入れると、ドレスに着飾った二人がスカートをつまんで挨拶をした。


「冒険者ギルドで受付嬢をしていたエミリーです。お久しぶりです」


「そうそうエミリーさんだったわね。でもそんなドレスを着て髪まで染めて、一体どうしたんだい?」


「・・・エル君、私たちのことをまだご両親に話してなかったの?」


「いや、その、えーっと・・・まだだ。スマン」


 しどろもどろになるエルだったが、状況を察したスザンナが両親に事情を話した。


「わたくしスザンナ・メルヴィルと申しますが、覚えてらっしゃいますか」


「あなたはあの時の!」


 ゲシェフトライヒまでの道中、スザンナも一緒に旅をしたのだったが、マーヤの心労を心配して顔を見せないようにしていた。


 結果、あの時以来二人が対面することとなる。


 もちろんマーヤはナーシスに監禁されていたあの時のことをすぐに思い出したが、スザンナには何の恨みもなく、すぐにニッコリとほほ笑んでみせた。


「あんたに治癒魔法をかけてもらわなければ、私はあの男に殺されていたかもしれないね。あの時は本当に世話になったよ」


「いいえ、とんでもない」


「それはそうと、そんなおめかしをして今日はうちに何の用だい」


「はい。本日は婚約のご挨拶に参りました」


「婚約? 婚約って、ウチの長男はまだ12歳でそんな年じゃないし・・・」


「いいえお義母様。わたくしたち二人が婚約したのは長女のエル様とでございます」


「はあ? あんたたち二人がウチのエルと婚約って、女同士でかい?!」


 スザンナの言葉に、口を大きく開けて驚くマーヤと、飲んでいたお茶を吹き出してむせ返るオットー。


「はい。それにわたくしたちのお腹の中には、エル様とのお子がもう宿っているかも知れません」


「「ええええええっ?!」」

 次回もお楽しみに。


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