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第108話 アリアの真実

 戸惑う魔王に、だがアリアは彼の問い掛けには答えず、何かに駆られたように話し続ける。


「ハーピー魔法に興味を持ったクレア様は、異世界に渡った後もその研究を続けました。そしてセルフリプロダクションのメカニズムの解明を終えると、その欠点を補うための新魔法の開発に着手しました」


「・・・何を言っているアリア。俺はどこでクレアに会ったのかとお前に聞いている。答えろ!」


 魔王が激高するが、アリアは構わず話を続けた。


「そして40年という長い年月をかけて生み出されたのがハーピー魔法・ヘテロリプロダクション」


「40年だと・・・まさかお前は」


「はい。わたくしはクレア様の命によりエル様・・・いいえお母様にこの魔法を届けるために、25年後の未来からやってきました」


「タイムリープしたのか・・・」


「はい、メルクリウス王家の家宝【タイムリーパー】を使って」


「どうりで一族の誰もアリアの存在を知らなかったはず・・・まさかアリアの正体がな」


 全てを悟って力が抜けたように椅子に座り込む魔王に対し、未だ理解が追い付かないエル。


「・・・ちょっと待てアリア。今、俺のことをお母様と言わなかったか?」


 混乱するエルに、嬉しそうに微笑みかけるアリア。


「はい・・・お母様。わたくしアリアは、クレア様から託されたこの魔法によって22歳のお母様が初めて産んだ娘です」


 そう肯定するアリアの身体が、ほのかな光を放ち始める。


「22歳で出産・・・この俺がか」


「はい」


 アリアは小さく頷くと、亜空間から1冊のノートを取り出した。


「クレア様が開発したハーピー魔法・ヘテロリプロダクションは二人の卵子を交配させます。生まれて来る子供は必ず女児となりますが、それ以外は通常の出産と全く同じ」


「二人の卵子・・・つまり相手がいるんだな。ちなみにそれは・・・」


「お答えできません。これ以上未来のことを皆様に告げると、タイムパラドックスを避けようとする自然の修復力によって、既に始まっている未来への強制送還がさらに早まります」


「未来に・・・いなくなってしまうのかアリアっ!」


 アリアが未来に帰る。


 突然の別れにショックを受けたエルは、アリアの身体から放たれる光がどんどん強くなっていることに気づいた。


「わたくしにはもう時間がありません。クレア様が書き記したこの魔法の書をお渡ししますので、一刻も早く魔法を取得なさって下さい。間もなくこの魔法の書も未来に引き戻されてしまいますので」


「分かった。それでどうすればいい」


「神殿の石碑にこの書をかざせば、クレア様の隠し部屋に行けます。そこでこの書に書いてある通りにヘテロリプロダクションを使うだけです」


「了解した!」


「ただし失敗は許されませんので、最初は20歳以上で強い魔力を持つ人を相手に選んでください」


「相手を選ぶ・・・のか?」


「はい。どなたを選ばれても、きっと喜んでお母様の子を産んでくださるでしょう」


「俺の子を産ませる・・・」


 その事実にエルの心臓が大きく跳ね上がるが、アリアの身体からは強烈な閃光が放たれ、徐々に身体が消えていった。


「時間です・・・さようならお母様」


「行かないでくれアリア・・・」


「・・・25年後にまたお会いいたしましょう・・・それまでお元気で」


「アリアーーーーっ!」


 アリアの頬を涙がこぼれ落ちると、エルに背を向け仲間たちにも別れを告げた。


 そしてアリアの身体が光の粒子に姿を変えると、最後の煌めきを残して消滅した。


 誰にも聞こえないような声で、ただ一言を残して。


「・・・さようなら・・・もう一人のお母様」



           ◇



 アリアのいなくなったテーブルには、2冊のノートが残されていた。


 一つはクレアの魔法の書であり、もう一つはバビロニア王家についてアリアが知り得る限りのことを書き記した走り書きだ。


 その二つを胸に抱きしめたエルは、アリアがエルの娘であることは伏せつつ、彼女が未来から来たこと、彼女が未来からもたらしたハーピー魔法のこと、そして目的を果たした彼女が未来へ帰ってしまったことをみんなに話した。


 突然の別れにショックを受けた仲間たちは、寂しそうにうつむき、そして涙を流した。




 だが魔王の一言でその空気が一変する。


「もう時間がない。エル、早く相手を選べ」


「え・・・今からするのか」


「モタモタしてると魔法の書が消えてしまう。未来を守るためにアリアは命がけのミッションを果たした。今度はお前が覚悟を決める番だ」


「覚悟を決める・・・か」


 ヘテロリプロダクションがどんな魔法か既に全員に説明しており、魔王の言葉が何を意味しているかもその全員が理解している。


 互いに顔を見合わせ微妙な空気が漂う中、


「じゃあ私が!」


 ベッキーとソフィア、そしてシェリアの3人が真っ先に手を上げた。


 それを見た魔王は、


「ソフィアはダメだ。お前はまだ14になったばかりだろ」


「ですがお父様っ!」


「とにかくダメなものはダメ。それからシェリアも」


「何でよっ!」


「お前は魔力も申し分ないし、エルの相手としてこれ以上望むべくもない人材だ。だがアリアは20歳以上に絞れと言ってたし、そもそもお前にはクリストフという婚約者がいるだろ! 浮気は絶対に許さん」


「そんな・・・」


 ガックリ項垂れる二人を横目に、20歳のベッキーが頬に手を当てて魔王に尋ねる。


「あのお・・・私はいかがでしょうか、魔王様」


「ベッキーか。お前なら魔力も強い方だし、まあいいんじゃないかな」


「やったあ! これでエル様と結ばれる。ああ夢のよう・・・」


 頬を緩めて大喜びするベッキーを見て、まさか彼女に許可が出るとは思わなかったスザンナが、遠慮がちに手を上げた。


「侍女の分際で差し出がましいと遠慮していたのですが、ベッキーさんがいいのならわたくしも」


 子を産んで母になることが夢だったスザンナは、夫に捨てられて離縁しエルの侍女となったことでその夢を諦めた。


 だが降って湧いたように現れた千載一遇のチャンスに、身分や立場などかなぐり捨てて立候補したのだ。


 そんな彼女に、魔力測定器を手にした魔王は満足そうに頷く。


「スザンナ・メルヴィル伯爵令嬢か。エルの初めての相手としては申し分ないな」


 その魔王の言葉に、最強のライバルにエルを奪われてガックリと項垂れるベッキーと、夢が叶って思わず頬が緩むスザンナ。


「・・・スザンナが俺の相手」


 ごくりと唾を飲み込むエルに、うっとりとした目で頷くスザンナ。


 スザンナは仲間の中でもっとも色気のある女性で、彼女に迫られたら5分と持たずに陥落する自信があるほど、エル好みの容姿をしている。


「エル様のお子を授かるなんて、夢のようです」


 そんな彼女をエルが拒めるはずもなく、二人を見守る仲間たちもこれが理想のカップルと納得している。


 だが真剣な表情でずっと何かを考え込んでいた彼女は、エルの相手に自分も名乗り出ることにした。


「私も立候補します!」


「え、エミリーさん?!」

 次回もお楽しみに。


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