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第107話 3人の転生者

 エルの政略結婚の話は完全になくなり、バビロニア王国の件もエルに一任された。


 これで話し合いは全て終わったはずなのに、一向に立ち去ろうとしないナツと魔王たち。


「エル、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか」


「何だ魔王」


「お前いつから全属性持ちになった。確かにその片鱗は以前からあったが、つい数日前に会った時とは明らかに別人じゃないか」


「それに見たことのない属性もございます。これって何かしら」


 魔王の問いかけにナツも割って入ってきたが、そんな二人の前には同じ魔力測定器が置かれており、エルの全ての属性が表示されていた。


 それを見たエルはポンと掌を叩く。


「そうだすっかり忘れてた。俺、ハーピー魔法が使えるようになったんだ」


「ハーピー魔法だと?!」


「ああ。インテ・・・秀ちゃんと谷本の二人のハーピー魔力を引き継いだんだよ」


 そう言って後ろを振り向いたエルの視線の先には、ヒューバート騎士団の陰に隠れていたインテリとサキ姉の姿があった。


 それを見た魔王が怪訝な表情を浮かべる。


「あんな奴らがいたのか・・・ていうか、あの格好はまるで前世紀の不良っ! ちょっと待てエル。猫メイドに作ってもらったと言ってたお前のその服、まさか学校の制服じゃないのか?!」


「ああそうだ。これはウチの高校の・・・」


 そこまで言いかけて、エルは慌てて口をふさいだ。


(ままま、マズい! 俺が桜井正義であることを谷本だけには知られたくない。ここは上手く魔王を誤魔化さないと)


「たっ、確かにそう見えるが、これは海の男の戦闘服であって、断じて高校の制服ではない」


「いやいやいや、あのスケバンが来ているセーラー服と全く同じデザインじゃないか」


「それは・・・た、谷本の奴も海の男に憧れて俺と同じセーラー服を」


「なら、その隣の男の長ランは何なんだよ」


「あれはその・・・」


「しかも谷本って苗字もこの世界のものではないし、お前、ひょっとして転生者なのか?」


「転生者? 何だそれ」


「・・・質問が悪かった。お前は日本人か?」


「何だとっ?! 魔王がなぜそれを」


「やっぱりか。お前の言動には少し違和感を感じていたが、SIRIUSシステムで監視した時にはナツと違って明確な兆候が出ていなかった」


「ちょっと待ってくれ。俺には魔王の言ってることがさっぱり分からん!」


 戸惑うエルに、魔王は懐から認識疎外の魔術具を取り出すと、それを起動させた。



           ◇



「ここからは俺とナツ、エルの3人だけで話そう」


「お、おう・・・分かった」


「まずはお互いの自己紹介からだ」


「え? 今さら自己紹介もないだろう」


「いや、互いの前世についてだ」


「前世・・・」


「まずは俺からだ。俺の名は安里悠斗、西暦2050年の日本で大学院生をしていた」


「せ、西暦2050年の日本だとっ?! メチャクチャ未来じゃないか・・・」


「そしてわたくしは立花夏。西暦2021年の日本から来た男子高校生です」


「ナツも未来人だったのか。ていうか皇帝陛下がまさかの男子高校生!」


 魔王とナツの自己紹介に唖然とするエル。


「・・・俺やインテリ、谷本の他にもこの世界に生まれ変わった日本人がいたんだな」


「ああ、かなりの人数がこの世界に来ている。まあほとんどは日本人だった記憶がなく、この世界で普通に暮らしているけどな。ところでエル、君が何者だったのかを教えてくれ」


「俺は・・・」


 エルが後ろを気にするようなそぶりを見せると、


「大丈夫だ。認識疎外の魔術具はちゃんと働いていて、俺たちの会話は誰にも聞こえていない」


「分かった、ここだけの話として聞いてほしい。俺の名は桜井正義。昭和55年の日本から来た男子高校生だ。昔は地域の中学を束ねる総番長をしていたが、高校からは不良どもとつるむのを止めて硬派を極めようと男に磨きをかけていた」


「男に磨きって、エルお前は男だったのかよ!」


「ああ。しゃべり方で分かるだろ」


「いや、貧民街の女性はそういう言葉遣いをするし、女騎士も大体そんな感じだ。それにお前の戦闘スタイルも重騎士タイプだったし、何も違和感がなかった」


「言われてみればカサンドラやマリーも俺と似たようなしゃべり方だな・・・あれ? ナツも男子高校生だったのに、どうしてそんなしゃべり方なんだよ」


「わたくしはローレシアの身体に魂が同居しているだけなので、彼女本来の話し方しかできないのです」


「魂が同居・・・だから人格が二つあるんだ」


「でもこれでようやくあなたが政略結婚を嫌がる理由が分かりました。相手がどうこうというより、そもそも男と結婚したくなかったのですね」


「そうなんだよ! 俺は男だから男と結婚なんてまっぴらゴメンだ。ていうか、本宮先生の作品にでてくるような大和なでしこと結婚したいんだよ!」


「大和なでしこ・・・わたくしも男子高校生ですのであなたの気持ちは痛いほどよくわかりますが、女同士の結婚はさすがに無理かと」


「そのぐらいは俺にでも分かる。だからせめて独身を貫きたいんだが・・・」


「でもそれだとあなたの後継者がいなくなり、せっかくの新帝国が一代限りで終わることになりますよ」


「そんなの他の誰かに継がせればいいじゃないか」


「いいえ、後継者はあなたの血縁者でなければダメなのです」


 ナツはそう言うと、エルにも分かるようにその理由を教えてくれた。


 それは人類の長い歴史で繰り返された政争であり、血縁以外で平和裏に君主が交代できた事例は、近代民主主義を置いて他になかった。


「あなたの死後、再び戦乱の世を生み出したいのなら別に構いませんが、平和な世界を長く築きたいのなら必ず子を産みなさい」


「・・・平和のためには絶対に必要なことなのか」


「ええ。特に人種のモザイクのようなエルの新帝国で大統領制を敷くのは明らかに時期尚早であり、君主制を採る限り血縁者に跡を継がせることが最善というのが、人類の長い歴史から導き出された答えです」


 そうキッパリ言い切ったナツの言葉に、新帝国の皇帝となったエルは自分の方に重くのしかかる責務を改めて自覚した。


 そしてしばらく黙考した後、エルはあることを思い出した。


「俺は後ろの二人からハーピー魔法を受け継いだが、その中に自分の分身を生み出す魔法がある。それを使えば・・・」


「自分の分身を生み出すだと? ・・・そうだ思い出した、ハーピー魔法・セルフリプロダクションか!」


 シェリアの魔法の師匠であり、世界で一番魔法が詳しいと言われている魔王が、エルより先にその魔法名を口走った。


「さすが魔王、詳しいな」


「ああ。ハーピー族には女しかいないことが以前から知られていたが、俺の腐れ縁の大聖女からその魔法の存在は聞いていた。確か繁殖期にこの魔法を使うことで、ハーピー族の女は単性生殖を行っていると」


「そうそう、ハーピー族の里長のペリメ様も、これを使えば未来永劫自分の分身に後を継がせることができると。・・・あ、でもアリアがこの魔法は絶対に使ってはいけないと言ってたな」


「アリアって記憶喪失だったのに、なぜそんなことを知っている。・・・でも絶対に使ってはいけない魔法って面白そうだな。なんで使ったらダメなんだ?」


 魔法の話となると途端に目を輝かせる魔王は、確かにシェリアの魔法の師匠だった。


「いやまだ聞いてない。ていうか、聞こうとした時にちょうどローレシア陛下が神殿に現れて、さっきまでのドタバタが始まったからな」


「そうか。なら今からすぐ聞こう!」


 そう言うと魔王は、認識疎外の魔術具を操作してアリアを3人の会話に加えた。



           ◇



「エル様、これは・・・」


 目を丸くするアリアにエルが説明する。


「例のセルフ何とかって魔法のことを魔王が聞きたいって。俺たち3人に教えてくれないか」


 魔王とナツを見たアリアは、こくりと頷く。


「この3人になら大丈夫です」


「なら頼む」


「では申し上げます。セルフリプロダクションを使ってはならない理由、それはこの魔法が単なる自己増殖をするものではなく、自らの卵子を二つ使って自己交配させるものだからです」


「ふーん・・・てもなぜそれが危険なのか、俺にはさっぱり分からん」


「わたくしもです」


 アリアの説明にエルとナツが首を傾げていると、だが魔王だけはみるみる顔が青ざめていった。


「減数分裂・・・自分の卵子二つはかなりヤバい」


 そんな魔王の言葉に、アリアがコクコクと頷く。


「ですのでこの魔法を使うと胎児に劣性遺伝が発現しやすく、ハーピー族の女性が無事に出産を迎える確率も他の種族に比べて極端に低いのです」


「危険な理由は理解できたが、こんな魔法でよくハーピー族が種として存続できているな」


「それは長い年月の中で個体の淘汰が進み、今生き残っている個体には致死性の劣性遺伝子がほとんど残っていないからです。ですがこれをエル様が使うとどうなるかは容易に想像できるかと」


「ダメだっ! この魔法は絶対に使ってはならん!」


 大声で叫ぶ魔王と、二人の会話が未だに理解できず目が点のままのエルとナツ。


 そんな二人に、今の話を魔王が分かりやすく噛み砕いてくれた。


「これは究極の近親相姦魔法なんだ。例えば兄妹婚が二親等婚、親子婚が一親等婚とすると、この魔法は自分同士が結婚するゼロ親等婚ということになる」


「ゼロ親等婚っ! ・・・そう言われれば確かにこの魔法のヤバさが分かるな」


 ようやく理解ができた二人をよそに、今度は魔王がアリアに尋ねる。


「だがアリア、どうしてこの魔法のカラクリを知っている。俺の腐れ縁でも知らなかったのに、まさかお前も転生者なのか!」


 するとアリアは、真剣な目で魔王を見つめた。


「魔王様が腐れ縁とおっしゃるのはこの神殿の主であるクレア・ハウスホーファ大聖女様のことですよね。わたくしにこの魔法の秘密を教えてくれたのも、実はクレア様なのです」


「クレアから聞いただと!? 彼女は15年前にこの世界を旅立って未だに帰って来ていない。そんな彼女がどうやってアリアに・・・」

 次回もお楽しみに。


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