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第97話 魔王メルクリウス

 改めてエルは正面の男を見た。


 親子だから当然だが、魔王メルクリウスはマルスによく似た細面の美男子。


 だが、瞳の色はシェリアと同じ燃えるような赤で、その奥底には膨大な魔力が渦巻いていた。


 そんな底の知れない男は、軽い笑みを浮かべながらその口を開いた。


「このテーブルには認識阻害の魔法がかかっている。他のテーブルから我々の会話は一切聞こえないので、何を話しても構わん」


 その言葉に全員がコクリと頷くと、魔王はさらに話を続けた。


「フェニックス討伐、実に見事だったぞエル。その一部始終を見させてもらったが、鏡面バリアーにあんな弱点があるとは気づかなかった。クックック」


「一部始終を見てただと! 一体どうやって」


 エルの言葉に、だが答える気がないのか魔王はニヤリと笑いながら彼女を睥睨へいげいしていた。




 魔王の貫禄に圧倒されっぱなしのエル。


 その時、隣のシェリアがおずおずと口を開いた。


「・・・あのぉ、ご当主様?」


「シェリアか、何だ」


 どうやら本当に魔王と顔見知りらしいシェリアが、遠慮がちに尋ねる。


「ソフィアちゃんがご当主様の実の娘なのは分かりましたが、女王陛下はこのことを・・・」


 落ち着かないを通り越して恐怖に震えるシェリア。


 そんなシェリアの表情に、それまで威厳を保っていた魔王が突然慌てだした。


「ちょっと待てシェリア。何か誤解してるぞお前!」


「え?」


「言っておくがこれは浮気じゃない! セレーネはもちろんこのことを知ってるし、何だったらフィリアと二人で同じ城に住んでるし」


 その言葉に、シェリアはようやくホッとした。


「な〜んだ、それを先に言ってくださいよご当主様。 もし浮気だったら、怒り狂った女王陛下がご当主様のお住まいになる法王庁を聖地アーヴィンごと焼け野原に変えてしまうところでした。ガクガクブルブル」


「聖地アーヴィンを焼け野原に・・・彼女が怒るとそれぐらい平気でやるだろうな。ガクガクブルブル」


 何かを想像して真っ青な顔の二人。


 どうやらシェリアは魔王を恐れていたのではなく、エルたち3人に拘束の魔術具を付けたあの女王陛下にビビっていたのだ。


「さっきの貫禄はどこ行ったんだよ! ていうかこの二人は似た者同士?」


 エルのツッコミを華麗にスルーし、二人はひとしきりガタガタ震えた後さっさと話題を変えてしまった。




「もう一つお聞きしたいのですが、オーガ王国のゴウキ王がご当主様のことを魔王と呼んでました」


「そのことか」


「帝国なんだから普通に皇帝を名乗ればいいのに、どうして魔王などと・・・ご当主様はまさか」


「中二病じゃねえぞ! 俺は自分を魔王などと一度も名乗ったことねえしっ!」


「ホッ。もしご自分から名乗られたのなら、恥ずかしくてメルクリウス一族を辞めようかと思ってました。でもそれならどうして魔王などと」


「話すとメチャクチャ長くなるから結論だけ言うが、シリウス教徒どもの陰謀だよ」


「シリウス教徒どもの!」


「そうだ。アイツら俺たちのことを魔族だと喧伝し、何百年も昔から聖戦と称した侵略戦争を続けてきた」


「聖戦ですって! 私の嫌いな言葉第3位よ!」


「俺もだよ。で、そんなくだらない宗教戦争に終止符を打とうと俺はブロマイン帝国に攻め込んだ。それが先の大戦の引き金になったんだが、俺はシリウス教の狂信者どもに魔王認定され、討伐対象にされたんだ」


「なんて卑劣な・・・大体ご当主様は魔王なんて柄じゃないしおかしいと思ったのよ。宗教が絡むとロクなことがないわね全く・・・」


「ホント狂信者どもには参ったよ。人の話は全く聞かないし、思い込みが激しすぎて草」


「ホントそうよね。宗教なんて詐欺よ、詐欺! あんなの信じてる人、頭がどうかしてるわ!」


 その後もシリウス教の悪口で大盛り上がりの二人。


 だがこいつらは一応シリウス教の名前を冠するメルクリウス=シリウス教王国の王族たちだ。


 しかも魔王はシリウス教発祥の地である聖地アーヴィンの法王庁に住んでいるらしく、シェリアもシリウス中央教会総大司教ネルソン師の孫であるクリストフの婚約者。


 つまり二人は世界宗教シリウス教会のサラブレッド中のサラブレッド。


 エルはまだゲシェフトライヒ修道院に入って1年も経っていないが、クリストフの授業を受けた限り、わりとまともで常識的な宗教だと思っている。


 魚の骨を拝むでもなく、家が破産するほどお布施を要求する訳でもないのに、ここまでシリウス教を嫌う理由がエルには分からなかった。


 とにかく二人は宗教と名のつくものが全て嫌いらしいが、よく今までそれでシリウス教の総本山で生きてこれたなと、逆に感心するエルだった。




「宗教の話で盛り上がってるところ悪いが俺にも質問をさせてくれ」


 するとシリウス教徒の悪口を止めた二人が、一斉にエルに向き直った。


「いいだろう。何が聞きたい」


 突然態度を変え、キリッとした顔で赤い瞳をエルに向ける魔王。


「フェニックスと戦っている時、アイツもシェリアのことを魔族と呼んでいた。ということはフェニックスもシリウス教の狂信者だったのか」


 エルが尋ねると、魔王は横に首を振った。


「ヤツはシリウス教とは無関係だ。ていうか自分自身が神だと思ってる、ただのヤバい奴だよ」


「ただのヤバい奴・・・だったらなぜシェリアを」


「これも話せば長くなるが、結論だけ言うとシェリアが魔族というのが本当だからだ」


「ブーーーーッ!」


 宗教の悪口を言いまくって喉が渇いたシェリアが、飲んでいたジュースを魔王の顔に吹き出した。


「ゴホッ、ゴホッ、ゲホゲホッ・・・」


「うわ汚ったねえな・・・気をつけろよシェリア」


 気管にジュースが入ったらしく激しく咳き込むシェリアと、懐からハンカチを取り出して、顔にかかったジュースをいそいそと拭き取る魔王。


 シェリアの背中を擦りながら、エルはどういうことか尋ねる。


「つまりシェリアは本物の魔族で、だから魔力がやたらと強かったのか」


「平たく言うと、まあそう言うことだな」


 魔王によると、シリウス教徒がやっていたのは魔女狩りやプロパガンダの類だったが、古代文明の遺跡を調べていくうちにメルクリウス一族は本当に魔族だったことが後々判明したそうだ。


「嘘から出た真ってやつか・・・」


 この驚愕に事実にショックで真っ青になるシェリアだったが、エルは妙に納得していた。


 普段のシェリアの戦い方が暴力的というか、邪悪な破壊神そのものだったからだ。


 そしてここぞとばかりにエルは悪い笑みを浮かべてシェリアをからかい始める。


「やっぱりお前って本物の魔族だったんだ。悪者確定じゃん。ウシシシシシ」


「むきーーーっ! くくくく悔しいっ!」


「わっはははは!」


 懐からハンカチを取り出すと、涙目でそれを噛みしめるシェリアと、腹を抱えて大笑いするエル。


 そんな二人に、魔王が口を挟んだ。


「お前も魔族だぞ、エル」


「・・・・・・え?」


「エルはアスター家の血が流れる光の魔族でシェリアは炎の魔族だ。その適合率は二人とも80%以上で、60を超えると魔族と認定されるから、お前らは文句のつけようのない立派な魔族。おめでとう」


「全然めでたくねえ!」


 衝撃の事実を知らされ真っ青な顔のエルの横腹を、ニタリと悪い笑みを浮かべたシェリアが突いてきた。


「正義の番長のくせに、結局エルも私と同じ魔族だったじゃん。プークスクス、ああ恥ずかしい」


「ちちちち違うわいっ! 絶対これは何かの間違い、断じて俺は魔族じゃねえ!」


「あ~ら、あらあら言い訳なんて見苦しいわね。ご当主様がおっしゃることは全て真実。自分は悪者だと潔く認めなさいよ」


「俺が悪者・・・悪者・・・そんな・・・」


 鬼の首を取ったように大笑いするシェリアの隣で、ガックリと項垂れるエル。


 そんな二人は、その後も続いた魔王の話も全く耳には入らなかった。



           ◇



 魔族に認定されてしまったエルとシェリア。


 何とも言えない微妙な雰囲気になったテーブルで、魔王が話題をコロッと変えた。


「さて雑談もこれぐらいにして今日の本題に入ろう」


「今のは雑談だったのかよ! 人生観が覆ったわ!」

 次回もお楽しみに。


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