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第92話 不死王フェニックス

 バリアーに乗って火口を上昇するエルたち。


 足下は行き場を失った噴煙がモウモウと立ち込め、上空の視界は逆に澄み渡っていく。


 ゆっくり上昇を続けると、やがて火口の側面に大きな横穴が現れた。


「ここで間違いない」


 エルの言葉を誰も否定しないのは、奥から強大な魔力が感じられるから。


「バケモノ・・・本当にこんなのと戦うの、私たち」


 さすがのシェリアも顔を青ざめるほど、底の見えない魔力を放つフェニックス。


 だが横穴の高さに到達すると、覚悟を決めたシェリアがバリアーを最大展開した。


 バギャッ!


「急ぎましょう」


 バリアーを側壁に固定し、上昇が止まった隙に全員が横穴に飛び込んだ。


「よしバリアーを消せ」




 蓋を失って噴煙が一気に吹き上がる中、魔力を消したエルたちがそーっと奥へ進む。


 少し歩くと広い空洞に出たが、その空間の大部分を石造りの巨大な建築物が占拠していた。


「これがフェニックスの神殿か・・・」


 直方体の岩石が規則正しく積まれた真っ平らな壁面には複雑な紋様が刻まれており、時計回りに壁伝いを歩いてみても、どこまで言っても壁、壁、壁。


「入り口がない。ヤツの魔力を感じるが、一体どこから入るんだ」


 一周したところでエルが立ち止まると、エミリーがつぶやいた。


「分かった」


「え?」


「神殿の入り口は上よ」


「・・・え? あっ!」


「一般的な鳥人族の住居って、他種族との交流も意識して普通に一階に玄関があったけど、フェニックスはそんな配慮しないでしょ」


「そりゃそうだ」


 エルは上を見上げてみたが、入口らしきものはなく空洞の天井まで石壁がそびえている。


「反対側かな?」


 今度は上を見ながら時計回りに歩いていくと、やがて丸い穴を見つけた。


「あれかな」


 かなり高い場所にあり、ここをよじ登れるのはおそらくエルだけ。


「私がみんなを運ぼうか」


 エミリーの提案にだがエルは、


「エミリーさんは魔力を使いすぎだ。俺がみんなを担いで登るよ」


「さすがにそれは無理でしょ。私はまだ大丈夫だから一番重そうなアリアさんを連れて行くね」


 シェリアとほぼ同じ身長だが、魅力的なプロポーションの分だけ少し体重が重そうなアリア。


「とうせ私はナインペタンよっ!」


 頬を膨らませて怒るシェリアを無視し、エルはエミリーにお願いした。


「すまんなエミリーさん」


【風属性魔法・ウィンド】


 アリアを後ろから抱えたエミリーが風を巻き起こすと、ゆっくりと空へと舞い上がった。


「じゃあ俺たちも行くか」




 シェリアとソフィアを背負ったエルが、石壁の彫刻に指先をかけてよじ登っていく。


 どんどん遠ざかる地面に顔を真っ青にする二人が、必死にエルにしがみつく。


 3人分の体重を支えるエルもさすがにキツくなり、手に汗がにじんで途中何度か滑り落ちそうになる。


「エルくん、お待たせ」


 そこにアリアを運び終えたエミリーがやって来て、ソフィアを連れて舞い上がった。





「ふう・・・やっと着いた」


 一仕事終えた感のあるエルがハンカチで汗を拭うとホッとした表情のシェリアも大の字に寝そべった。


「恐かったぁ・・・随分高い所まで登ってきたけど、ここからどうやって降りるの?」


「また同じ様にすればいいじゃないか?」


「無理無理、絶対無理よ!」


 先に着いた3人が身を潜めるように座っているが、そこは壁が円形にくりぬかれた短いトンネルだった。


「本当に鳥の巣箱みたいだな」


 トンネルの先は大きく視界が開け、石壁に囲まれた空間が広がっている。


 フェニックスの魔力はずっと同じ場所から感じられており、床に伏せたエルが慎重に下を覗き込んだ。


「ひいっ!」


 神殿の中は何もない直方体の空間。


 その底は真っ平らな石床で、中央付近には火の鳥が仁王立ちに立っている。


 だがその瞳は真っ直ぐにエルを見据えていた。


「数百年ぶりの客か。歓迎してやるぞ」


「バレたっ! 総員密集隊形っ!」


 全員が身を寄せ合うのと同時にトンネル出口がふさがる。そして壁が迫り出し、エルたちは神殿の中へ投げ出されてしまった。


【火属性魔法・マジックバリアー】

【風属性魔法・ウィンド】


 シェリアがバリアーを展開して全員を包み込むと、エミリーの風魔法で軟着陸を果たす。


 それを待っていたかのように、羽根を大きく広げた火の鳥が名乗りを上げた。


「我が名はフェニックス、永劫の時を生きる万物の神なり。我を滅ぼさんとする魔族どもよ、その肉体を魂ごとこの世から消し去ってやる」


 魔力を解き放ったフェニックスに、エルの本能が最大限の警報を鳴らす。


 ここにいる全員の魔力を合わせてもフェニックスの魔力には到底及ばない。


 真正面から戦っては、必ず負ける。


 それほど圧倒的な力の差を感じたからこそ、自分たちの作戦に賭ける覚悟が完全に決まった。


「来るぞ。総員フォーメーションにつけ!」


 そしてフェニックスが高く舞い上がると、シェリアとエミリーの二人がそれを追った。



           ◇



「チャンスはそれほど多くない。ソフィア頼んだぞ」


「はい、エル姉様っ!」


 エルに背負われたソフィアが、アポステルクロイツの指輪に手を触れた状態で魔法の詠唱を開始する。


 そのすぐ隣ではアリアが身を寄せバリアーを展開。


 だがフェニックスの攻撃の威力はすさまじく、その一撃を受けるたびに、彼女のバリアーが弾け飛んだ。


 アリアの肩に座るインテリが、ハーピー魔力でブーストしているにもかかわらずだ。



 そんなフェニックスに、果敢に攻撃を敢行しているのがシェリア=エミリー組。


 シェリアのバリアーに守られた二人が、エミリーの風魔法で縦横無尽に宙を舞ながら、同時にエミリーの氷結魔法でフェニックスの攻撃を妨害している。


「エミリーさん・・・どうしてそこまで」


 既に手持ちのマジックポーションを全て飲み干したエミリー。


 いつ魔力が尽きてもおかしくないのに、フェニックスを相手にここまで戦えているのが、もはや奇跡だ。


 最後の力を振り絞るエミリーの戦いぶりに、だがエルは一抹の不安を感じていた。


「もういい。シェリアに任せろエミリーさん・・・」


 居ても立ってもいられず焦るエル。


 そんなエルの身体に光属性オーラが湧き起こると、それが右掌に集まり出した。


 ソフィアが詠唱を終えたのに気づいたエルはアリアに目で合図を送り、右腕と左腕を交差させる。


 そして縦に交差させた右掌の先を、宙を飛び交うフェニックスに静かに向けた。




【光属性魔法・カタストロフィー・フォトン】




 瞬間、まぶたを固く閉じていても目も眩むような閃光が生み出され、ジュッと肉の焼ける音が聞こえた。


 次に目を開けたエルがそこに見たのは、身体の半分を失って墜落していくフェニックスの姿だった。


 だがその身体が、どんどん再生していく。


「外したのか・・・」


 一撃で仕留め損ない悔しがるエル。


 一方、不意打ちを食らった形のフェニックスがエルの攻撃に感心する。


「なるほど我が息子エンオウはこうやって殺されたのだな。皇妃フィリアの魔法によって・・・クククッ」


「何がおかしい」


「その魔法の正体と弱点が分かったのだ。最初で最後のチャンスを無駄にした気分はどうだ、ん?」


「弱点だと?」


 身体を翻して地面に降り立ったフェニックス。


 薄ら笑いを浮かべる彼に、だが上空からエミリーが攻撃を仕掛けてきた。


【風属性魔法・ブリザード】


 火属性のフェニックスの弱点である氷結魔法。


 風の魔法使いエミリーの放った氷結魔法ブリザードは物体から熱を奪い去る大魔法だが、完全に回復したフェニックスの身体にその魔法が命中すると、真っ赤な炎が消えて身体の一部が凍結した。


「うぐっ・・・」


 苦悶の表情を見せたフェニックスは、だがあっという間に身体を回復させると、再び炎を身にまとって宙を舞った。


「お前らは邪魔だ・・・死ねっ!」


 空中で大きな翼を一閃したフェニックスは、エミリーたちに向けて大魔法を放った。


【火焔魔導・煉獄破断龍熱波】


 禍々しいほど膨大な火属性オーラが火焔龍と化して二人を襲うと、シェリアのバリアーごと二人を飲み込んしまった。


「エミリーさん! シェリアっ!」


 バリアーが消滅し、身体を炎に包まれて地面に叩きつけられる二人。


 ピクリとも動かない二人に、だがフェニックスはとどめを刺そうと容赦なく追撃を加えた。


「やめろーーっ!」


 オーガ流格闘術で加速したエルが二人に駆け寄る。


 だがエルが到達するよりも先にフェニックスの攻撃が二人を襲った。


【火焔魔導・炎熱衝波弾】


 青い炎が二人に着弾。


 次の瞬間、閃光と衝撃波が生じ、猛烈な爆風がエルを背中のソフィアごと吹き飛ばした。


「ぐはあーーーっ!」


 床を転々としながら体勢を立て直すエル。


 だがフェニックスの足下で燃え盛る炎の中に、二人の姿は消えてしまった。


「エミリーさん・・・シェリア・・・クソッ!」





 悔しくて、悲しくて、胸が張り裂けそうなエル。


 そんな彼女の背中にしがみついているソフィアは、だが静かに詠唱を続けている。


「・・・そうだな、俺たちも最後まで戦おう」


 涙をぬぐって立ち上がったエル。


 だがそこで、アリアがいないことに気がついた。


「アリア?」


 それと同時に、それまで勝ち誇っていたフェニックスの表情がみるみる凍り付いていく。



【火属性光属性混成魔法・マジックバリアー連射弾】



 燃え盛っていた魔法の炎が突然爆散し、二人を庇うように立つアリアの肩にはインテリの姿もあった。


 そして彼女の突き出した右手から放たれたであろう不可視の攻撃は、まるでマシンガンのようにフェニックスの肉体を粉々に粉砕していった。


「ぐわああああ!」


 無数の肉片が飛び散り、真っ逆さまに地上に叩きつけられるフェニックス。


 苦悶の表情に顔を歪めるが、それでも肉体は容赦なく破壊されていく。


 破壊と再生を繰り返すフェニックスが床をのたうち回る隙に、エルがアリアの元に駆け寄る。


「アリア・・・お前」


「間一髪でした。でもわたくしの攻撃でフェニックスは倒せません。トドメはエル様にお願いします」


「・・・分かった」


 エルが感じたアリアへの違和感。


 バビロニア王国の娼館にいた頃とはまるで別人のアリアは、エルも認識できないほどのスピードで二人の元へと到達していた。


(どうやって加速した。エンパワーとオーガ流格闘術を使った俺よりも速く・・・)


 そして素早くバリアーを展開したアリアはフェニックスの攻撃から二人を守り、ケタ違いの魔力を爆発させてフェニックスの肉体を粉々に粉砕している。


 火と光、2種類のオーラをまとったアリアの背中を、エルはただ呆然と見つめるしかなかった。

 次回もお楽しみに。


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