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第90話 跳躍

「何してるのシェリアちゃん。時間がないわよ!」


 転移装置の前でぼーっと突っ立っているシェリアを急がせるアリア。


「・・・そ、そうだった」


 我に返ったシェリアが、幹部たちが破壊していった箇所に自分の魔力を通して状態を確認する。


「ダメね・・・壊れてる」


 転移装置は通常、魔石を貯蔵するタンクと闇属性オーラを生み出すジェネレーター、呪文詠唱の代わりとなるドライバー、そして実際に魔法が発動する魔法陣とで構成されている。


 ここの転移装置も一般的なもので、シェリアが調べた結果ジェネレーター部分の機能が停止していた。


 ドライバーは装置の下部で外部からは破壊できない場所にあり、そこから先は魔法陣へと繫がっている。


 その魔法陣だが、部屋の石床に直接刻まれ、魔力効率を高めるため溝に魔金属オリハルコンが流し込まれている。


 床にしゃがんだシェリアが魔法陣に触れ、ほんの少し魔力を送ると、それに返事をするように魔金属が微かに光った。


「魔法陣は無事のようね。ドライバーも生きているしあとは魔力さえ供給できれば・・・」


 少し何かを考えたシェリアは、戦闘中のシェルター代わりにポシェットに逃げ込んでいるインテリを外につまみ出した。


「ねえキモ妖精、この魔法陣をラヴィちゃんの魔力で起動させられないかしら」


 そう尋ねられたインテリは、ボコボコになった大型転移装置を見て唖然とする。


「これをでっか?! なんぼハーピー魔法でブーストしても、さすがに無理ちゃいまっか・・・」


 巨大な魔石タンクを指差しながら、必要となる魔石の量を想像して首を横に振った。


「やっぱり?」


 ダメで元々、念の為に確認したシェリアだったが、運べる人数とリヤド岳までの距離を考えれば、一人や二人の魔力で転移不可能なのは自明。


 がっくり肩を落とすシェリアに、


「マジックラブパワーを使ってみようか」


 エルの提案に一瞬明るい表情を見せたシェリアだったが、静かに首を横に振った。


「ダメよ。全員の魔力を使っても転移が成功する保証はないし、エルの魔力は温存しないと・・・」




 今回のフェニックス討伐作戦、その主力となるのはエルとソフィアの二人だ。


 だからフェニックスと対峙するまでは二人の魔力をできるだけ温存し、他の全員はサポートに徹する。


 この作戦を提案したアレクセイは、もしフェニックスを倒せるとすれば、それは光属性魔法・カタストロフィー・フォトンしかないと考えていた。


 永劫の時を生きるフェニックスには無数の不敗神話が残されているが、彼をして無敵の存在たらしめているのが無限の回復力だ。


 神話によると、かつてフェニックスに致命傷を負わせた猛者も何人かいたが、そのいずれも傷が瞬く間に癒えてしまい、最後は返り討ちにあったとされる。


 逆に言えば、光の速度で攻撃を加え、刹那の瞬間に肉体を消滅させれば、回復の暇を与えず勝てるかも知れない。


 実際、皇妃フィリアが不死鳥族エンオウを倒したとホウオウ自らが口にしており、図らずもアレクセイの作戦が正しかったことを裏付けた。


 だがエルはまっすぐにシェリアを見つめ、


「完璧を求めるより、まずはフェニックスの元にたどり着くこと。アレクセイたちが時間を稼いでいるうちに早くっ!」


「・・・分かったわ、やってみましょう!」


 収納魔術具から魔法大辞典を取り出し、急いでページをめくるシェリア。


 その間にエルは、魔法陣の上に集まった仲間たちの顔を一人ずつ見つめ、最後にラヴィに向き直った。


「片手を俺の指輪に、もう片方の手を魔法陣に」


「うん、エルお姉ちゃん」




 魔法大辞典の呪文の通りにエルが詠み上げると、全員の魔力がエルを介してラヴィへと流れ始める。


 ラヴィがそれを闇属性オーラに変えて床に流すと、魔法陣がキラキラと輝き出した。


「行ける・・・」


 シェリアが安堵の声を漏らしたその時、窓の外から男の叫び声が聞こえた。


「そうはさせるかっ!」


 見ると、大きな翼を広げたホウオウが巨大な火炎弾をこちらに向けて発射した。


【火焔魔導・煉獄破界大覇弾】


【火属性魔法・マジックバリアー】


 ドグオーーーッ!


 シェリアとアリアがとっさに耐火バリアーを展開して火炎弾をはじき返すが、そのバリアーも一撃で消滅して二人の魔力もごっそり奪われてしまった。


「熱っ!」


 思わずエルが叫び声を上げ、詠唱が中断。


 みんなの魔力も霧散した。


「ごめんエル。ホウオウの攻撃は必ず私たちが防ぐから、もう一度魔法に集中して」


「俺こそすまん」


 エルが再び詠唱を開始すると、シェリアたちもバリアーを展開してホウオウの次の攻撃に備える。


 だが、再び大魔法を撃ち込もうとしたホウオウの身体が、アレクセイの攻撃で吹き飛んだ。


 ドゴオーーーン!


 それ同時に、監視窓の外にレオリーネが現れる。


「遅くなってごめんなさい。ここはわたくしたちに任せて、皆様はフェニックスの元へ!」


「了解よ、レオリーネさん」


 シェリアとアリアがコクリと頷き、耐火バリアーを解除した。


 そして全魔力をエルに集中させる。


【エスターダ アガペーラ マイネスフォルスト アレス アルトヴォンゲル デネボラ アヌ イントラジェネス ヴァモス オレ ハーネスイリア ゲギドズールボ ボアンジーダス ダスゲネス】


 砦の中ではエルの詠唱が進み、砦の外ではホウオウとアレクセイ夫妻による空中戦が繰り広げられる。


 強力な魔力と魔力が激突するたび膨大なマナが霧散して、濁流のように渦を巻く。


 大地は揺れて空は鳴動し、戦いの舞台となった砦は荒れ狂うオーラに耐えきれず、徐々に崩壊を始めた。


 エルたちの頭上に瓦礫が落ちて来るが、誰もバリアーを展開しようとしない。


 全員の魔力がエルに集まり、渦巻くオーラも巻き込みながら、ラヴィを通して魔法陣を満たしていった。


 そして、


【闇属性魔法・ワープ】


 ラヴィの魔法発動と砦の倒壊が重なる。


 床が抜けて魔法陣が崩壊。落下を始めるエルたち。


 だが強力な力が身体に加わると、どこかへ飛ばされる感覚とともに視界がブラックアウトした。


「転移は成功だ。総員、戦闘準備っ!」

 次回もお楽しみに。


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